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45.【希望】

 地面を揺らす、大量の足音。軽く速い獣型の魔物や、重々しい足取りで向かってくる巨人のような魔物。上を見上げれば、鳥や蝙蝠に近い魔物が、編隊をなして飛んでいる。


「凄い数……」


 城壁の上、見張り台から戦場を見渡した鏡花は、浮かんだ言葉を振り払うように、頭を軽く横に振った。


「本当、良くない状況だね」


 輝夜の言葉に、鏡花は深く頷いた。ゴブリンキング討伐の時より、魔物の数が多い。何より、敵の種類が多い。特徴の違う敵が次々迫ってくる状況は、戦う者にとって負担が大きいだろう。


 勿論、防衛側も工夫が凝らされている。塹壕や、その中の罠により一度に戦う敵の数を制限し、足を止めた大型の敵を狙って砲撃をする。飛行する敵を撃ち落とすときは、味方の上に落ちないよう、遠距離で仕留めるか魔法で位置をずらしている。


 とはいえ、同族の死など気にせず、無限に湧き出るような錯覚を起こすほど詰め寄せる魔物の大軍に、限られた人数で対応する防衛側の士気は削られる一方だろう。


「此処、本格的に戦いが始まってどのくらい?」


 輝夜の質問に、勇者は首を傾げた。すかさず、鎧に無数の傷を負った騎士が答えた。


「戦況が激化したのは、二週間前からです。各地より支援があったことから、どうにか持ちこたえています」


 派遣された魔法使いの協力を得て塹壕を増やし、砲台も倍にし、惜しみなく物資を投入して五分の状況だという。


「ですが、今日は勇者様のご到着もあり、かなり優勢に運んでいます」

「なら、一気に状況を変えられるよう、前に出ます」


 騎士の言葉に、勇者は胸を叩きながら頷いた。聖騎士も静かに頷き、見張り台から降りていくが、鏡花は勇者の背中と戦場を交互に見て、手を握り込んだ。


「……輝夜くん」

「うん。気を付ける」


 良くも悪くも、戦況を握っているのは勇者だ。最高戦力である勇者が前に出るのは正しい。


 だが、勇者に何かあれば、総崩れになる可能性もある。しっかりとした足取りで前を行く勇者に、高校生の彼に、その考えはあるのだろうか。


 コツコツと響く足音が、鏡花には、嫌に大きく聞こえた。



 勇者と聖騎士と共に向かった門の外は、予想以上の激戦だった。槍を握り締めた鏡花は、輝夜と逸れないよう、勇者たちの後を追うだけで精いっぱいだった。


「鏡花ちゃん、右!!」

「【無感動】」


「お願い、輝夜くん」

「さすがに、無理かもっ……、【色欲】」


 距離のある敵は鏡花が槍で、距離を詰めてくる敵は輝夜がナイフで倒す。間に合わないときは、【無感動】や【色欲】を使い、足止めをする。


 スキルの使用がバレない様に、小声で、動けなくならないように最小限で。正直、二人で戦い、ようやく騎士一人分の戦力だろう。


 そんな二人を引きはがすように、勇者と聖騎士は真っすぐ前線へ向かう。


「道を開けてくれ、一気に蹴散らす!!」


 剣戟、咆哮、様々な音が入り乱れる中、はっきりと聞こえる声を契機に、騎士たちの壁が二つに割れる。開いた道を走る勇者は、剣を振りかぶり、高らかに叫ぶ。


「【正義】!!」


 宣言と共に、眩い光が刀身を包む。突っ込んできた狼型の魔物を薙ぎ払った剣から放たれた光は、勢いそのまま光の刃となって魔物の群れを切り裂く。


 距離にして、五メートル程度だろうか。突然開けた視界に、鏡花は目を瞬かせた。


 そこには、何も残っていなかったからだ。倒した魔物は跡形もなく、光に吸い込まれたように消えているのだ。


「一度下がれ、【堅固】」

「助かる」

「いいから次に備えろ」

「ああ!!」


 あのスキルは連発できるものではないらしい。しかし、押し返した距離を詰めるように前に出た聖騎士が、道幅より少し広い程度の半透明の壁を作り出す。


 がつん、と飛び込んだ魔物が弾かれる音。次いで、巨人型の魔物が、人間の背丈ほどある棍棒を振り下ろすも、それも同様に壁が弾いた。


 そして、壁により足止めされた魔物の上に、炎の矢が降り注ぐ。城壁を振り返ると、赤い、巨大な魔法陣が見える。散りばめられた三角形は、確かに、コンロのものと似ている。


「賢者様だ!!」


 騎士の誰かが、そう叫んだ。その言葉を肯定するように、二度、三度と炎の矢が降り注ぎ、あっという間に魔物の数が減っていく。


スキルの反動で靄がかかったような頭でも、戦況が劇的に変わっていくのが、わかる。鏡花は目を見開き、まっすぐ、勇者たちの背中を見る。


「本当に、凄い……」


 一気に下がった戦線の向こうから、次の敵が押し寄せてくる。壁のように厚い敵の群れに、周りと足並み合わせることなく、一人でも立ち向かっていく勇者と聖騎士の背中を見て。


「…………怖い」


 確かに、勇者の存在は希望の光だ。しかし、光は時に、目をくらます。


「これ、良くないね」


 輝夜の言葉に、鏡花は小さく頷く。その横を高揚した様子の騎士たちが、我先にと走り抜けていく。


 討ち漏らした魔物はいない。だが、誰も、塹壕の中を確認しない。幾ら見張り台から見えていても、何かあれば危険なのは自分たちなのに。


 遠くなっていく鬨の声を、生ぬるい風が耳に運んだ。


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