44.支援
宿に到着した鏡花たちは、勇者と三人の仲間の部屋に招き入れられた。
彼らは、同じ日本出身である鏡花たちに対して好意的な態度だった。
突然異世界に召喚されたのに、自分たちと違ってスキルが弱いから冷遇されて可哀そう、という気持ちも少しはあったのだろう。
「なるほど、僕らの支援要員として、第二王子殿下に派遣されたと」
だから、鏡花たちの話を疑うことなく聞き入れた。大人よりも優れたスキルを得た自分たちが騙されるわけがない、という自信があるのだろう。
勿論、組合に登録した職業や、第二王子の支援を受けていることなど、話の半分以上は真実だ。大半が事実だからこそ、嘘を混ぜても気付きにくい。
都合の悪い事実を隠し、特に嘘を吐き、尤もらしい説明をする京と御門の手腕に感心しつつ、鏡花は話の成り行きを見守る。
「はい。ただ、表向き、第一王子と第二王子は仲が良くないので、大々的に支援をしては、政治が混乱する可能性がある、と」
京がそれらしい『裏事情』を仄めかせば、政治的な対応だって心得ていると言わんばかりに賢者が頷いた。
「……なるほど。我々に協力してくれている騎士たちも一枚岩ではない。迂闊に情報を流せば、統制が取れなくなる可能性もありますね」
国を守る為ならば、一致団結して魔王討伐をするべきだという派閥。第一王子が単独で功を挙げるべきだという派閥。
一口に第一王子の部下と言っても、色々な者たちがいるだろう。
ただでさえ、最前線と言う過酷な場所だ。仲間同士の対立が起これば、足をすくわれかねない。鏡花たちが第二王子の差し金だというのは不味い、と納得してくれたようだ。
「そういうことだ。俺たちは物資だけ置いて街を離れる」
このことは、誰にも伝えないでくれ。御門が、そう言って話を纏めようとしたところで、聖女がおずおずと手を挙げた。
「美優? どうした?」
勇者が穏やかに発言を促すと、聖女は、想像よりも芯のある声を発した。
「前線は無理でも、少しでも、手伝ってもらえませんか?」
ぴくり、と御門の眉が寄せられる。鏡花は少しだけ息を詰めながら、静かに言葉の続きを待った。
なんとなく、都合の悪い方向に話が転がりそうだ。
「護衛無しで、この街まで来れたということは、戦闘ができるはずです。スキルの力もあるでしょうし、正直、今日は皆はりきってても、いつまでも持つとは思えないですし。幾ら手があっても足りないくらいなんです」
そう言いながら、聖女の視線は御門に向けられている。
「それに、黛さんは、回復師なんですよね。昨日、見に行ったんですけど、負傷者の数も多くて。私一人だと治しきれなくて……」
その声は、僅かに、震えている。幾ら聖女の力を手に入れたと言っても、彼女はまだ高校生だ。大怪我をしている人なんて見る機会は無いだろうし、戦闘による怪我なんて、尚更ないだろう。
だから、少しでも親近感のある大人に付き合ってほしい。
それは、魔物との戦いは慣れたものの、人を指揮する、他人を使う立場になったことがない他の三人も同じだったようで。
「確かに、折角の戦力を使わないのは、馬鹿のすることですね」
「数は多い方が良い」
賢者と聖騎士が同意すれば、勇者も深々と頷き、御門に真っすぐ視線を向けた。
「騎士たちへの説明は考えます。なので、僕達に、力を貸してくれないでしょうか」
鏡花は、無言で御門に視線を向ける。口の端を僅かに上げて、穏やかな笑みを浮かべているように見える。
だが、体の前で腕がしっかりと組まれており、靴先が一定間隔で床を叩く音も聞こえる。
断りたいのだろう。前線を勇者たちに任せ、魔物達の目を引きつけてもらっている間に、四人だけで魔王のもとへ向かった方が効率がいい。
しかし、此処で断ってしまうと、協力に来た、という発言が矛盾してしまう。御門が細く、息を吐いた。
「……俺達の力は微々たるものだが、勇者に言われては断れない。後方支援程度になるが、協力させてもらおう」
「でも、商人以上の活躍は難しいと思ってほしい。僕達のスキルは、あまり戦闘向きじゃないから」
立場上、目立つわけにはいかないし、【大罪】スキルが戦闘向きでないのは事実だ。しかし、高校生たちには謙遜に聞こえたらしい。
「はい!! ありがとうございます!!」
では、と早速、机に地図を広げる勇者。設備や兵の配置について書いてあるようだ。国境側には、入って来た側の倍近い城壁がそびえたっており、その上には砲台が複数。
城壁の外側には、二重三重に塹壕が掘ってあり、底には木製の杭が埋まっている。門の正面以外に道はなく、直進してくる敵を制限する造りだ。
「今は、砲撃で近づく敵を減らし、盾と槍を持った兵士が門の正面で防ぎ、飛ぶものには魔法で対応しています」
明日からは、勇者と聖騎士が門の前に、賢者が城壁の上、聖女は門の内側にある救護所に向かう予定らしい。
「できれば、一人ずつ、一緒に来ていただきたいのですが……」
結果、輝夜と鏡花が門の前に、京が城壁の上に、御門は救護所に向かうことになった。




