43.再会
話によると、勇者一行は王都から出立すると、最短日程で国境に向かったらしい。丁度、一日前、大量の護衛と物資を携えて勇者一行が到着したことにより、街の士気は最高潮。
勇者一行の到着と共に、護衛達が持ってきた武器や食料を始めとした物資も補充されたため、今、鏡花達が到着したところで需要は極めて低い。
おまけに、勇者一行の為、今後も継続的に王都から物資と人材が派遣されることが決まっている。そうなると、高く物資を売りつけに来ただろう商人なんて、追い返すに決まっている。
どうするんだろう、と鏡花は手を握り、京の言葉をじっと待つ。すると、京は先程よりも、ひときわ明るい声で言った。
「勇者様が到着されているんですね!!」
「あ、ああ」
突き放したはずの相手が、嬉しそうに言うものだから、門番は呆気にとられたらしい。そんな隙を京は逃さず、畳みかけていく。
「是非ともお会いしたいものです。我が商会の品を、勇者様に手に取って頂けるのなら、単純な利益以上の価値があります。どうでしょう、我々の物資は、定価以下でお売りいたします。補充があったとはいえ、前線では何かと物入りのはず」
この国の人間にとって、勇者とは偉大な存在である。ならば、勇者にあやかりたい、と商人が言いだすことは自然だ。
そして、京の言う通り、前線では物資は重要だ。高く売りつけられることを拒否しても、安く売ると言っているものを断る理由は無いだろう。それが、詐欺などではなく、尤もらしい理由もある値引きなら、尚更。
「それに、利益を重視するとはいえ、我々も王国の民ですから。少しでも力になりたいのです」
そもそも、利益を重視するなら、危険を冒して国境までは来ませんから。京の言葉に、門番はハッとしたような声を漏らした。
「そうか。……そうだな。すまない、中に、入ってくれ」
「いえ、このような環境で、ずっと国を守ってくださっているのです。感謝こそすれ、謝られるようなことは、何も」
重厚な門が、ゆっくりと開く音がする。遮られていた光が、馬車に差し掛かり、鏡花は思わず目を細めた。
王都とは違い、行き交う人は少ないものの、あちこちから生活の証である煙が立ち上っている。独特な雰囲気を醸し出す国境の街、サダルオービムに、ついに四人は到着したのだ。
◇
門番の態度から予想はできたが、この街は余所者に対して大変厳しかった。何とか中には入れたものの、商人という身分を明かしただけで、住民からの扱いは悪い。
一応、存在している商人組合に顔を出したが、王都で売ったレシピの金を雑に渡されただけで、特に支援は受けられず。マシな扱いをされたいなら、街に貢献しろという微妙な忠告一つで追い出された。
「取り敢えず、宿屋を探すべきだが……」
「月の紋様、見つからないね」
アイベルクの息が掛かっていることを示す、月の紋様。それを目印に宿を探しているが、中々見つからない。
最後に、アイベルクに連絡を取ったのは、ドート伯爵の屋敷を出発した一週間前。その時点では、互いに大きな進捗はなく、大したやり取りはしていなかったが、今はかなり状況が違う。
勇者一行は一足先に国境に着き、魔王討伐へと着実に進んでいるのだ。純粋な時間的有利がなくなった今、出し抜くには別の策が必要になる。
なるべく早く、連絡を取りたい。もしくは、既に来ている連絡があるかもしれない。そう思いながら、鏡花は大通りの店を順に確認するが、月の紋様は全く以て見つからない。
「どうしよう……」
ぽつり、と鏡花が溢した言葉を拾ったのは、輝夜ではなく、別の人物だった。
「何かお困りですか? ……って、あれ?」
馬車の外から声を掛けてきたのは、王城で一度、見かけたことのある少年。鏡花の顔を見て、驚いた様子なので、あちらも忘れたわけではないらしい。
本当に、どうしよう。だが、ここで疑われるのは、大変都合が悪い。ちらり、と奥に座る輝夜に視線を向けるが、目を丸くして固まっている。
鏡花は服を握り締め、でも顔にはなるべく笑顔を浮かべて、口を開いた。
「こんにちは、勇者様。……宿を、探しているんです」
輝夜が、御者台の二人に伝えてくれたのだろう。徐々に馬車の速度が落ちていく。後で、何か言われるだろうな。そう思いながら、鏡花は勇者に続けて言った。
「月の紋様が描かれている宿です。ご存じですか?」
何故ここに、と聞かれる前に、場所を変えたい気持ちが強い。若干無理矢理でも、人が少なく、余計な耳がない、アイベルクの力の及ぶ場所に、移動したい。
そんな鏡花の言葉に、勇者は納得したようで、人好きのする笑みを浮かべて答えた。
「それなら丁度良かった。俺達が泊っている宿に、月の紋様が描かれてますよ」
今から戻る所なので、案内します。そう言って、御者台の方へと回って行く勇者。
これは、予想していなかった展開だ。どう振舞うのが最善か。宿までの短い時間の間、鏡花は必死に頭を回転させることになってしまった。




