【第466話:新たな同行者】
イエガンから一通りの報告を聞き終えたクロナは、机の上に置かれた革袋をじっと見つめていた。
北の山で確認された集団と白い光、そして何かを目覚めさせようとしているという情報は、決して軽く扱えるものではない。
ティナも難しい表情を浮かべている。
これまでとは異なる敵が動いている以上、今後の調査には慎重さが必要だった。
「その採掘場には、まだ何か残っているのか」
クロナが尋ねると、イエガンは顎へ手を当てて考える。
一度引いたとはいえ、あの場所を完全に調べ終えたわけではなかった。
「はい。私が確認できたのは、あくまで表に出ていた範囲だけです。奥にはまだ調べていない場所がありました」
その言葉にクロナは小さく頷く。
敵の正体が分からない以上、無理に踏み込むよりも情報を積み重ねる方が重要だった。
「なら、もう一度行ってくれるか」
「もちろんです」
イエガンは即答した。
その表情には、先ほどまでの疲労を感じさせないほどの覚悟が浮かんでいる。
クロナは少し考えてから、イエガンの姿を改めて見た。
今回の調査では敵に見つかり、実際に戦闘まで行っている。
「一人で対応できそうか」
問い掛けられたイエガンは、すぐには答えなかった。
腕を組み、先ほど対峙した仮面の男の姿を思い返している。
あの男の実力は未知数だった。
周囲にいた黒いローブの者たちも、ただの寄せ集めとは思えない動きをしていた。
「……相手の戦力が未知数なので、正直に申し上げますと、もう一人ぐらいこちらも戦力があるとありがたいかもしれません」
イエガンは慎重に言葉を選んだ。
自分一人でも戦えるという意地より、確実に情報を持ち帰ることを優先した判断だった。
クロナはその答えを聞くと、しばらく黙って考える。
そして、何かを決めたように顔を上げた。
「よし……それなら今回はルーニーを連れていけ」
「ルーニーですか」
イエガンが目を瞬かせる。
予想していなかった名前だったのだろう。
クロナは頷いた。
ルーニーなら戦力としても頼りになり、今回のような未知の相手を探る調査にも対応できると考えたのだ。
「お前一人よりは動きやすくなるだろう。それに、二人なら何かあった時にも対応できる」
「承知しました」
イエガンは深く頭を下げた。
一人で向かうよりも負担が減ることに、僅かな安堵も感じている。
その隣で話を聞いていたティナが口を開く。
彼女は少し心配そうな表情を浮かべながら、イエガンへ視線を向けていた。
「イエガン様、くれぐれも無理はなさらないでください。先ほどのお話を聞く限り、相手はかなり危険な者たちのようです」
「分かっている。今回は情報を集めることが目的だ。無茶をするつもりはない」
ティナへ向けたイエガンの口調からは、普段の豪快さが戻っていた。
それでも、その目だけは真剣なままだった。
クロナは机の上の革袋を手に取る。
黒い糸で縫い込まれた模様を眺めながら、白い光を放っていた木箱を思い出していた。
「白い光については、まだ何も分からないんだな」
「はい。少なくとも私が見た限りでは、あれが何なのか判断できませんでした」
「なら、無理に近付く必要はない。正体が分からないものには、それ相応の警戒をしておけ」
「承知しました」
イエガンは再び頭を下げる。
今回の調査では、前回以上に慎重に動く必要がある。
仮面の男が何者なのか。
黒いローブの集団が何を目的としているのか。
そして、彼らが集めている白い光が何なのか。
まだ分からないことばかりだった。
それでも、クロナたちは少しずつ情報を手に入れ始めている。
だからこそ、焦って答えを求める必要はなかった。
「出発はいつにする」
クロナが尋ねると、イエガンは少しだけ考える。
長旅から戻ったばかりではあるが、疲労は既に抜け始めていた。
「準備が整い次第、明日にでも向かえます」
「分かった。ルーニーには俺から話しておく」
「ありがとうございます」
イエガンはそう答えると、静かに一礼した。
そして踵を返し、部屋を出ようとする。
その背中へ、クロナが声を掛けた。
「イエガン」
「はい」
イエガンが振り返る。
クロナはしばらく考えるように沈黙してから、静かに口を開いた。
「今回は絶対に無理をするな。相手の正体が分からない以上、戦うことより戻ってくることを優先しろ」
その言葉に、イエガンは僅かに目を見開いた。
やがて口元へ豪快な笑みを浮かべる。
「承知しました、クロナ様。必ずルーニーと共に戻ってまいります」
そう言い残し、イエガンは部屋を後にした。
残されたクロナは、閉じられた扉をしばらく見つめていた。
次の調査で、何が分かるのか。
まだ誰にも、その答えは見えていなかった。




