【第464話:迫る斬撃】
黒い斬撃が坑道の岩壁を切り裂き、激しい轟音が響き渡った。
砕けた岩片が飛び散り、土煙が一気に辺りを覆い尽くす。
イエガンは身を低くしながら前方へ飛び込む。
背後へ振り返る余裕はなく、出口だけを見据えて走り続けた。
仮面の男は追撃の手を緩めない。
静かに右手を掲げると、黒い光が掌へ集まり始める。
禍々しい魔力は周囲の空気を震わせ、坑道全体を重苦しい気配で満たしていった。
イエガンはその圧力を肌で感じる。
今まで戦ってきた相手とは明らかに格が違う。
真正面からぶつかれば、ただでは済まないことは理解していた。
だからこそ立ち止まらない。
出口まであと僅かとなった時、一人の黒いローブの男が前方へ飛び出した。
両手で握った剣を振り上げ、進路を塞ぐように斬り掛かってくる。
イエガンは速度を落とさない。
大斧を横薙ぎに振るう。
重い一撃は剣ごと男を弾き飛ばし、その身体は岩壁へ激しく叩き付けられた。
「邪魔だ」
短く吐き捨て、そのまま走り抜ける。
残る者たちも次々と飛び出してくる。
しかし狭い坑道では人数の多さがかえって仇となり、互いの動きを制限していた。
イエガンは岩壁を巧みに利用する。
相手を真正面から受けるのではなく、最小限の動きでかわしながら出口との距離を縮めていく。
長年積み重ねた実戦経験が、その判断を支えていた。
その時だった。
仮面の男が静かに口を開く。
「止まれ」
その一言と同時に、背後から凄まじい魔力が放たれる。
イエガンは危険を察知し、咄嗟に横へ飛んだ。
直後、黒い光が地面を一直線に走り、岩盤を大きく抉り取る。
砕けた岩が雨のように降り注ぐ。
イエガンは腕で顔を庇いながら前へ転がる。
肩へ小さな岩が当たるが、その程度で足を止めるつもりはなかった。
ようやく出口から差し込む陽光が目前まで迫る。
冷たい坑道の空気から一転し、外の風が頬を掠めた。
イエガンは最後の一歩を踏み込み、一気に外へ飛び出す。
眩しい光が視界を満たす。
そのまま斜面を転がり、体勢を立て直したイエガンは素早く振り返る。
坑道の入口には黒いローブの者たちが並び、その後方には仮面の男が静かに立っていた。
追ってくる様子はない。
仮面の男はイエガンを見据えたまま、一歩も動かなかった。
まるで今は逃がしても構わないと判断しているようだった。
イエガンはその視線を真正面から受け止める。
敵も自分の顔を見た。
自分も敵の存在を知った。
互いに無駄な情報ではない。
これ以上留まれば包囲される危険がある。
イエガンは山道へ向き直ると、一気に駆け出した。
まずはグリムファング王国へ戻り、クロナへ全てを報告するために。




