【第463話:露見】
仮面の男の低い声が坑道の奥へ静かに響いた。
その一言だけで、作業を続けていた黒いローブの者たちが一斉に動きを止める。
張り詰めた空気が坑道全体を包み込んだ。
誰も口を開かず、視線だけが岩陰へ集まっていく。
イエガンは身じろぎ一つしなかった。
まだ見つかったとは限らない。
相手が揺さぶりを掛けている可能性も十分にある。
呼吸を整え、気配を完全に殺す。
仮面の男はゆっくりと辺りを見回した。
仮面越しでも鋭い視線が注がれていることが分かるほど、圧倒的な存在感を放っていた。
やがて男は静かに右手を上げる。
「そこだ」
短い命令と同時に、一人の黒いローブの男が岩陰へ駆け出した。
迷いのない動きから、普段からこうした役目を担っていることが窺える。
イエガンはこれ以上隠れ続ける意味がないと判断する。
黒いローブの男が岩陰へ飛び込んだ瞬間、イエガンは横へ大きく跳んだ。
振り下ろされた剣が岩を叩き、鋭い火花を散らす。
「ちっ」
イエガンは舌打ちしながら距離を取る。
黒いローブの者たちが次々と武器を構えた。
剣、槍、短弓と武器は様々だが、その動きはよく統率されている。
仮面の男は静かにイエガンを見つめる。
「獣人か」
感情の読めない声だった。
イエガンは大斧を肩へ担ぐ。
「ようやく顔を合わせられたな」
豪快な笑みを浮かべるが、その瞳は一切笑っていない。
仮面の男は一歩前へ出る。
「ここまで辿り着く者がいるとは思わなかった。…神殿跡を調べていたのも、お前たちか」
イエガンは探るように問い掛ける。
仮面の男は否定もしなければ肯定もしない。
「知る必要はない」
その言葉と同時に、男が静かに指を動かす。
黒いローブの者たちが一斉にイエガンを取り囲んだ。
逃げ道を塞ぐように陣形を組み、少しずつ距離を詰めてくる。
イエガンは周囲を見回す。
正面だけではない。
背後や左右にも敵が配置され、正面突破は難しかった。
「数だけは立派だな」
挑発するように笑う。
一人の男が怒りに任せて斬り掛かる。
しかしイエガンは大斧の柄で剣を弾き、そのまま体当たりで相手を吹き飛ばした。
男は岩壁へ激突し、その場へ倒れ込む。
周囲の者たちが一瞬だけ動きを止めた。
獣人の怪力を目の当たりにし、僅かな動揺が広がる。
イエガンはその隙を逃さない。
床を強く蹴り、一気に包囲網の薄い場所へ駆け出した。
二人目の男が槍を突き出すが、大斧の一振りで軌道ごと弾き飛ばす。
金属音が坑道へ響く。
「逃がすな!」
黒いローブの男たちが後を追う。
坑道内へ慌ただしい足音が何重にも重なった。
イエガンは振り返らない。
ここで戦い続けても得られるものは少ない。
持ち帰るべき情報は既に十分集まっていた。
坑道の出口から差し込む光が見えてくる。
あと少し。
そう思った、その瞬間だった。
背後から凄まじい殺気が迫る。
イエガンは反射的に身を捻る。
次の瞬間、仮面の男が放った黒い斬撃が、先ほどまでイエガンのいた場所を一直線に切り裂いていた。




