【第462話:仮面の男】
重い扉が軋みながら開き、一人の男がゆっくりと姿を現した。
黒い外套を羽織り、白銀色の仮面で素顔を完全に隠している。
仮面には左右非対称の黒い紋様が刻まれていた。
その異様な姿に、坑道内の空気がさらに張り詰める。
黒いローブの者たちは誰一人として顔を上げない。
イエガンは岩陰へ身を寄せたまま、その男を観察する。
立ち姿に隙はなく、一歩踏み出すだけで周囲へ静かな威圧感が広がっていた。
戦い慣れた者だ。
それだけは一目で理解できる。
不用意に仕掛ければ、ただでは済まない相手だった。
仮面の男は運び込まれた木箱へ視線を向ける。
「確認は終わったか」
低く落ち着いた声が坑道へ響く。
一人の男が前へ進み出る。
「問題ありません。全て予定通りに集まりました」
仮面の男は静かに頷く。
「余計な痕跡は残していないな」
「はい。神殿跡も採掘場も処理は済んでおります」
その言葉に、イエガンの表情が僅かに変わる。
やはり神殿跡とこの採掘場は繋がっていた。
ここへ来た判断は間違っていなかった。
仮面の男は木箱の一つへ近付く。
細い手袋越しに蓋へ触れると、木箱の隙間から白い光が淡く漏れ始めた。
柔らかな光でありながら、不思議な圧力を周囲へ放っている。
仮面の男は小さく息を吐いた。
「これだけ揃えば十分だ」
その言葉に、周囲の者たちが安堵したように肩の力を抜く。
しかし、一人だけ表情を曇らせる男がいた。
「ですが、本当にあの御方は目覚めるのでしょうか」
坑道が静まり返る。
仮面の男はゆっくりと振り返った。
仮面に隠された表情は見えない。
それでも視線だけで周囲を圧倒するほどの威圧感があった。
「疑う必要はない」
短い一言だった。
その声には絶対的な確信が込められている。
誰も反論しない。
再び木箱を運び始める者。
周囲を警戒する者。
それぞれが無言で役目へ戻っていく。
イエガンはその様子を静かに見つめていた。
白い光を放つ木箱。
神殿跡との繋がり。
そして、仮面の男が口にした「あの御方」という存在。
新たな情報は手に入った。
だが、それ以上に気になる言葉が残る。
目覚める。
その一言は、この集団が何かを復活させようとしていることを示していた。
このまま見張り続けるべきか。
それとも一度クロナへ報告するべきか。
イエガンは冷静に状況を整理する。
敵の数は予想以上に多い。
正体不明の仮面の男までいる以上、単独で踏み込むのは無謀だった。
まずは情報を持ち帰る。
そう判断したイエガンは、音を立てないよう慎重に後退を始める。
その瞬間だった。
仮面の男が何の前触れもなく立ち止まる。
そして誰へともなく、小さく呟いた。
「……そこにいる者、姿を見せてもらおうか」
静まり返った坑道に、その声だけが冷たく響き渡った。




