【第458話:北へ続く道】
イエガンは宿場町を離れ、北へ続く街道を進んでいた。
朝の光が森の隙間から差し込み、長い影を地面へ落としている。
手元には昨日渡された紙片がある。
そこに描かれていた謎の刻印は、神殿跡で見つけたものと確かに似ていた。
偶然とは考えにくい。
黒いローブの集団は、同じ目的を持って動いている可能性が高かった。
イエガンは歩きながら、これまで得た情報を整理する。
神殿跡に残された文字。
消えた足跡。
そして、北へ向かった黒いローブの者たち。
まだ繋がっていない部分は多い。
しかし、少しずつ相手の行動が見えてきていた。
「探す場所は間違っていないようだな」
イエガンは小さく呟く。
クロナなら、もっと早く何かを掴んでいたかもしれない。
そう思うこともある。
だが、今ここにいるのは自分だ。
力だけでは解決できない問題だからこそ、自分が動く意味がある。
昼を過ぎた頃、イエガンは小さな集落へ辿り着いた。
街道沿いに作られた簡素な集落で、数十軒ほどの家が並んでいる。
人の数は少ない。
しかし、旅人が立ち寄る場所らしく、小さな店もいくつか存在していた。
イエガンが集落へ入ると、住民たちの視線が集まる。
獣人の姿は、この辺りでは珍しいのだろう。
警戒する者もいれば、興味深そうに見る者もいた。
イエガンは気にせず歩く。
目的は一つ。
北へ向かった黒いローブの集団について情報を集めることだった。
しばらく探した後、イエガンは集落の外れにある小さな酒場を見つけた。
木造の建物で、昼間から数人の旅人が休んでいる。
中へ入ると、店主らしき老人が顔を上げた。
老人は白くなった短い髪と、深く刻まれた皺を持っている。
長年この土地で暮らしてきたことが分かる穏やかな雰囲気だった。
しかし、イエガンの姿を見ると少し驚いた表情を浮かべる。
「獣人の客とは珍しいな」
店主の言葉に、イエガンは気にした様子もなく席へ座る。
「珍しいかもしれんが、飯を食う客なのは変わらないだろう」
豪快に笑うイエガンを見て、店主は少しだけ表情を緩めた。
「違いないな」
イエガンは食事を頼みながら、自然な流れで話を切り出す。
「この辺りで、黒いローブを着た連中を見なかったか」
店主の手が一瞬止まる。
その反応を、イエガンは見逃さなかった。
「知っているようだな」
店主は周囲を確認してから、小さく息を吐く。
「最近、この辺りでも噂になっている」
「北の古い遺跡へ向かった連中だろう」
イエガンは静かに頷く。
「何をしていた」
店主は眉をひそめる。
「詳しいことは分からない。ただ、あいつらは普通の旅人には見えなかった」
店主は手元の布を握る。
「夜中に何かを運んでいたという話もある」
イエガンの目が鋭くなる。
「どこへ運んでいた」
店主は少し迷った後、答えた。
「北の山だ」
「昔、使われなくなった採掘場がある。そこへ向かったという話を聞いた」
イエガンは黙って考える。
神殿跡。
黒いローブ。
北の山。
新しい情報が一つ増えた。
店主は心配そうな表情を浮かべる。
「やめておいた方がいい。北の山には、最近妙な連中が集まっている」
イエガンは立ち上がる。
「忠告はありがたい。だが、行かなければ分からないこともある」
店主は何も言えず、ただイエガンを見送った。
集落を出たイエガンは、北へ続く道を見る。
まだ敵の姿は見えない。
だが、確実に近付いている。
黒いローブの目的。
白い紋様との繋がり。
その答えへ向かう道は、さらに険しい場所へ続いていた。




