【第451話:託された調査】
翌日。
クロナたちは王城の一室へ集まっていた。
今回の戦いで判明したことを整理し、これからの方針を決めるためだった。
机の上には、ティナがまとめた資料が置かれている。
そこには人さらい組織についての情報だけではなく、白い紋様や裂け目に関する内容も記されていた。
「今回の件は、まだ終わっていません。人さらい組織の背後にいた存在。そして、クロナ様に刻まれた白い紋様。この二つについて調べる必要があります」
ティナは資料を確認しながら静かに話す。
クロナは腕を組みながら考えていた。
敵を倒すことはできた。
しかし、白い紋様の正体は未だに分からない。
自分自身に関わる謎だからこそ、放置することはできなかった。
「なら、俺が行く」
クロナは迷うことなく口にする。
ティナが顔を上げる。
「クロナ様が向かわれるのですか」
「ああ。俺自身に関係することだ。なら、俺が確かめるべきだ」
クロナの言葉に、イエガンはしばらく黙っていた。
大柄な体を黒い鎧で包んだ彼は、以前よりも落ち着いた雰囲気を纏っている。
「お待ちください」
イエガンが静かに口を開く。
クロナは視線を向ける。
「何だ」
「クロナ様が向かいたい理由は理解しております。しかし、今のクロナ様は以前とは違います」
イエガンは一歩前へ出る。
「クロナ様はグリムファング王国の王です。国を離れるということは、それだけ大きな意味を持ちます」
クロナは黙ってイエガンを見る。
その言葉は、クロナの考えを否定するものではなかった。
王としての責任を理解してほしいという、仲間からの進言だった。
「俺が行かなければならないと思っている」
クロナが答える。
「白い紋様は俺自身の問題だからな」
イエガンは頷く。
「そのお気持ちは分かります。ですが、全てをクロナ様一人で背負う必要はありません」
「なら、どうする」
クロナが問い掛ける。
イエガンは迷わず答えた。
「私が向かいます」
部屋の空気が静まる。
ティナは少し驚いた表情を浮かべる。
「イエガンさんが調査へ向かうのですか」
「ああ」
イエガンは頷く。
「クロナ様が王として国に残るのであれば、私が動くべきです。これまで何度もクロナ様に守っていただきました。今度は私が支える番です」
その言葉を聞いたティナが、静かに口を開いた。
「でしたら、私が向かいます」
イエガンが視線を向ける。
ティナは資料へ手を置いたまま続ける。
「白い紋様について調べるなら、私の解析が必要になるはずです。これまで情報を集めてきたのも私です」
クロナもティナを見る。
確かに、その判断は間違っていない。
ティナは今回の件で最も多く情報を整理してきた。
彼女が同行することは自然な選択だった。
しかし、イエガンは首を横へ振った。
「いや……先の調査は任せてしまったし、お前は少し働きすぎだ」
ティナが目を瞬かせる。
「イエガンさん」
「今回の件でも、お前はずっと情報を整理していた。クロナ様の力について調べるために、休む時間も削っていただろう」
イエガンは真剣な表情で続ける。
「今回は俺に任せてくれ」
その言葉には、いつもの忠誠だけではない。
仲間を気遣う気持ちが込められていた。
ティナは少し黙る。
そして、静かに息を吐いた。
「……分かりました。ですが、無茶はしないでください」
イエガンは小さく笑う。
「俺を誰だと思っている?」
クロナはそのやり取りを見ていた。
以前なら、自分が全てを決めていた。
自分が戦い、自分が答えを探し、自分が背負う。
それが当たり前だと思っていた。
しかし今は違う。
仲間たちは、自分の意思で動いている。
「イエガン」
クロナが呼ぶ。
「はい」
「任せる」
短い言葉だった。
だが、そこには確かな信頼が込められていた。
イエガンは深く頭を下げる。
「承知しました。必ず手掛かりを持ち帰ります」
ティナも頷く。
「私もこちらで必要な情報を整理しておきます」
クロナは二人を見る。
自分一人で全てを背負う必要はない。
それを理解することも、王として必要なことなのだろう。
こうして白い紋様の謎を追う役目は、イエガンへ託された。
クロナはグリムファング王国に残る。
そしてイエガンは、主から託された新たな役目を胸に、未知の情報を求める旅へ向かうことになるのだった。




