【第448話:忍び寄る残滓】
夕暮れの空が谷を赤く染める。
クロナたちは崩壊した門を後にし、グリムファング王国への道を進んでいた。
張り詰めていた空気は少しずつ和らいでいく。
それでもクロナは歩みを緩めなかった。
胸の白い紋様は静かに輝いている。
あの反応が消えない限り、完全に終わったとは思えなかった。
「クロナ様」
ティナが前方を見据えたまま口を開く。
「魔力の流れが安定してきました」
クロナは頷く。
「門の影響は消えたようだな」
「はい」
ティナは静かに答える。
「周囲の魔力も正常へ戻り始めています」
イエガンは周囲の森へ視線を向ける。
先ほどまで姿を消していた魔物たちの気配が戻り始めていた。
「ようやく森も落ち着きを取り戻すでしょう」
イエガンがそう言った時だった。
クロナの足が止まる。
ティナも異変に気付き、すぐに周囲を見渡した。
「どうしましたか」
クロナは答えず、ゆっくりと後ろを振り返る。
胸の白い紋様が僅かに熱を帯びていた。
先ほどまでとは違う。
一瞬だけ脈打つような反応だった。
「……来る」
クロナが低く呟く。
その言葉と同時に。
遠く離れた谷の方向から、小さな黒い光が空へ浮かび上がった。
光は人の拳ほどしかない。
だが、その魔力には見覚えがあった。
「まさか……」
ティナの表情が強張る。
「あの存在の魔力です」
イエガンは大斧を構える。
「本体ではありませんね」
「はい」
ティナは光を見つめながら答える。
「恐らく、本体から切り離された残滓です」
黒い光は谷の上空で揺らぐ。
やがて形を失い、小さな粒となって風へ溶け始めた。
クロナは静かに見届ける。
敵意は感じない。
ただ、この世界へ残された最後の欠片が消えていく。
そんな感覚だった。
白い紋様の熱も次第に収まっていく。
クロナは胸へ手を当てる。
「終わった……のか」
ティナは少し考え込み、首を横に振った。
「残滓は消えました」
「ですが、この紋様が反応した理由は分かりません」
クロナも同じ考えだった。
残滓が消えたことと、白い紋様の反応。
その二つには、まだ見えていない繋がりがある。
「帰ったら調べる」
クロナが静かに言う。
「答えは必ず見つける」
ティナとイエガンは力強く頷く。
三人は再び歩き始める。
夕焼けに照らされたその背中には、新たな戦いではなく、真実を追う者たちの静かな決意が宿っていた。




