【第446話:白き紋様が示す道】
灰色の紋章が消えた後、谷には静かな時間が流れていた。
戦いの余波はまだ残っている。
だが、先ほどまで感じていた圧倒的な威圧感は完全に消えていた。
クロナは胸元の白い紋様を見る。
先ほどまで強く輝いていた光は、今は落ち着きを取り戻していた。
「何か分かりましたか」
ティナが問いかける。
クロナは首を横に振る。
声は聞こえた。
だが、意味までは理解できなかった。
「何かを伝えようとしていた」
クロナは静かに答える。
「でも、途中で消えた」
ティナは考え込む。
封印を終えた直後に現れた灰色の紋章。
そしてクロナの紋様への反応。
偶然とは思えなかった。
「恐らく、あの紋章はクロナ様を認識したのだと思います」
ティナが言う。
「俺を?」
クロナは眉を寄せる。
「はい」
ティナは頷く。
「ただ門を閉じた者ではなく、白い紋様を持つ存在として反応したように見えました」
イエガンは周囲を確認しながら話を聞いていた。
敵の気配は完全に消えている。
それでも、新たな疑問が残っていた。
「では、この紋様は最初からこのために存在していたのでしょうか」
その言葉に、クロナは黙り込む。
白い紋様が刻まれた時。
自分の力が変化した時。
あの瞬間から、何か大きな流れに巻き込まれていたのかもしれない。
「分からない」
クロナは答える。
「だが、一つだけ確かなことがある」
クロナは閉じていく門の跡を見る。
「あの存在は、俺の紋様を狙っていた」
ティナも頷く。
第三の腕が門ではなく、クロナ自身を狙った理由。
それはまだ完全には解明されていない。
「封印を破壊するためだけではなかったのでしょう」
ティナが呟く。
「クロナ様の中にある何かを恐れていた可能性があります」
谷へ風が吹く。
崩れた岩が小さな音を立てて落ちていく。
クロナは遠くを見る。
これまで何度も力を得てきた。
喰らい、進化し、敵を超えてきた。
だが今回の力は違った。
奪うためではない。
守るために現れた力だった。
「戻るぞ」
クロナが歩き出す。
ティナとイエガンも後に続く。
しかし、クロナは一度だけ振り返った。
崩れた門の奥。
そこにはもう何もない。
それでも、胸の白い紋様だけが小さく反応していた。
まるで、次に向かうべき場所を示すように。




