【第444話:封印の後、残された問い】
崩れた門の跡地に、静かな風が吹き抜ける。
先ほどまで谷を満たしていた重圧は消え去っていた。
しかし、戦いの痕跡だけは残っている。
クロナは白い紋様を見下ろす。
封印の力は役目を終えたはずだった。
それでも胸に刻まれた光は、まだ淡く輝いていた。
ティナはその様子を注意深く見つめる。
敵の力が消えた後も、封印の反応だけが残っていることに気付いていた。
「クロナ様、その紋様に変化があります」
ティナの言葉に、クロナは視線を向ける。
「変化?」
「はい」
ティナは頷く。
以前のような侵食ではない。
むしろ、何かを伝えようとしているような反応だった。
イエガンも近づき、クロナの胸元を見る。
戦闘中とは違う静かな表情だった。
「敵の最後の力が残っているのでしょうか」
クロナは首を横に振る。
感じているものは、先ほどまでの黒い魔力とは違っていた。
「違う」
クロナは短く答える。
「これは……あいつの力じゃない」
ティナが驚いた表情を浮かべる。
封印の中心から感じる気配は、確かに黒い存在とは異なっていた。
「では、何なのでしょうか」
クロナは答えを探すように目を閉じる。
記憶の奥にある何かが反応している。
だが、はっきりとした形にはならなかった。
その時だった。
崩れた門の跡から、小さな光が浮かび上がる。
黒ではない。
白でもない。
淡い灰色の光だった。
ティナとイエガンが警戒する。
封印が終わった直後に、新たな反応が現れたのだ。
しかしクロナは動かなかった。
その光から感じる気配に、敵意がないことを理解していた。
「見せたいものがあるのか」
クロナが呟く。
灰色の光はゆっくりと形を変える。
そこに浮かび上がったのは、古い紋章だった。
ティナはその紋章を見た瞬間、表情を変える。
「これは……」
「知っているのか」
クロナが問いかける。
ティナはすぐには答えなかった。
長い間忘れられていた記録の中に、その印は存在していた。
「世界律評議会の記録に残る、失われた紋章です」
谷に沈黙が落ちる。
封印を破ろうとしていた存在。
その力の正体。
そして残された謎。
戦いは終わったはずだった。
だが、新たな真実への扉が開こうとしていた。




