【第443話:砕けた門、残された影】
黒い門を覆っていた外殻が、ゆっくりと崩れていく。
第三の腕を失ったことで、門から溢れていた圧倒的な魔力は弱まり始めていた。
しかし完全に消えたわけではなかった。
クロナは白い光を維持したまま、門の奥を見つめる。
そこにはまだ赤い瞳が残っていた。
力を失いながらも、こちらを見続けている。
ティナは警戒を強める。
封印は成功へ向かっている。
だが、あの存在が簡単に消えるとは思えなかった。
「まだ終わっていません」
ティナが静かに告げる。
「本体の気配が残っています」
クロナは頷く。
第三の腕を破壊したことで、大きな力は失われた。
だが、敵は最後の瞬間まで抵抗を続けている。
イエガンも大斧を構え直す。
二本の腕はすでに動きを止めていた。
それでも油断することはなかった。
「最後の足掻きでしょうか」
イエガンが呟く。
クロナは門へ近づく。
白い光を送り込みながら、残された赤い瞳を睨み返す。
「お前は何のために、この世界へ来ようとした」
クロナが問いかける。
返事はない。
ただ、門の奥から低い音が響いた。
言葉ではない。
憎悪だけが伝わってくる。
次の瞬間。
崩れかけた門の中心から、黒い影が伸びる。
ティナが反応する。
「危険です」
ティナの声と同時に、クロナの前へ黒い影が迫る。
それは腕ではなかった。
小さく残された、本体の一部だった。
封印される直前に放たれた最後の一撃。
力そのものは弱まっている。
しかし、狙いは明確だった。
クロナの白い紋様。
黒い影が紋様へ触れる直前。
クロナは右手を伸ばした。
白い光が掌へ集まる。
そして黒い影を正面から掴み取った。
「もう遅い」
クロナは力を込める。
「お前の力は、もう届かない」
黒い影が震える。
最後の抵抗が続く。
だが、クロナの手から逃れることはできなかった。
喰らう力ではない。
封じるための力。
今まで奪い続けてきたクロナが、初めて選んだ純粋な防衛の力だった。
白い光が黒い影を包む。
赤い瞳が大きく揺れる。
そして。
静かな音と共に、影は消えた。
谷に沈黙が訪れる。
黒い門は崩れ、残された亀裂もゆっくりと閉じていく。
ティナは長く息を吐いた。
張り詰めていた緊張が、ようやく解けていく。
「封印……完了しました」
ティナの言葉に、イエガンも大きく息を吐く。
「終わったのですね」
クロナは答えない。
ただ崩れ落ちた門を見つめていた。
勝った。
確かに勝利した。
しかし、クロナの中には一つの疑問が残っていた。
あの存在は何だったのか。
なぜこの世界へ来ようとしていたのか。
そして最後に見せた、あの赤い瞳。
まるで何かを伝えようとしていたようにも見えた。




