【第442話:崩壊の兆し、決意の刃】
白い光と黒い魔力が谷の中心で激しくぶつかり合う。
第三の腕は亀裂を広げながらも、なおクロナを押し潰そうとしていた。
その力は最後の抵抗だった。
クロナは歯を食いしばる。
身体の奥へ侵入してくる黒い力を、白い紋様の力で押し返す。
封印を維持しながら戦うことが、これまで以上に困難になっていた。
ティナは状況を見極める。
第三の腕は崩壊寸前だった。
だが完全に消える前に、残された魔力を全て叩き込もうとしている。
「クロナ様、あと少しです」
ティナは声を張る。
「封印の光が中心部まで届いています」
クロナは小さく頷く。
視線は門から一度も逸らさなかった。
イエガンも限界に近づいていた。
二本の腕から伝わる力は、先ほどより明らかに弱まっている。
それでも押さえる手を緩めることはなかった。
「終わりが近いようだな…」
イエガンが呟く。
「ならば最後まで立っているのみ!」
大斧が黒い腕へ食い込む。
僅かな隙間が生まれる。
その瞬間だった。
クロナの白い紋様が強く輝く。
封印の力が門の中心へ到達した。
黒い門に走っていた亀裂が、一気に広がる。
内部から漏れていた赤い光が弱まっていく。
第三の腕が震える。
本体は必死に抵抗していた。
だがもう流れは変わらない。
「ここまでだ」
クロナが静かに告げる。
白い光が第三の腕を包み込む。
黒い外殻が少しずつ崩れていく。
赤い瞳がクロナを睨む。
そこには怒りと憎悪が混じっていた。
しかしクロナは目を逸らさない。
「お前が何者なのかは知らない」
クロナは力を込める。
「だが、これ以上この世界に手を伸ばさせるつもりはない」
白い光がさらに強まる。
第三の腕の表面に無数の亀裂が走った。
次の瞬間。
大きな音と共に、黒い腕が砕け散る。
谷へ静寂が戻る。
残された二本の腕も動きを止めた。
ティナは息を呑む。
長く続いた戦いの終わりが、ようやく見えた。
しかしクロナはまだ警戒を解かない。
門の奥から感じる気配が、完全には消えていなかった。
崩れ落ちる黒い門の向こう。
最後に残った赤い瞳が、静かにクロナを見つめていた。




