【第441話:最後の抵抗、白き光】
第三の腕が大きく振り上げられる。
その動きだけで空気が震え、谷の岩壁が崩れ落ちていく。
クロナは静かにその一撃を見つめた。
避けることはできない。
封印へ流し込む力を止めれば、門の向こうにいる存在を完全に抑え込めなくなる。
ならば選ぶ道は一つだった。
「受け止める」
クロナは短く呟く。
白い紋様が全身へ広がる。
喰界王として得た力とは違う。
今この瞬間に必要なのは、奪う力ではなく守る力だった。
第三の腕が振り下ろされる。
黒い衝撃が谷を覆い尽くした。
白い光と黒い魔力が激しくぶつかり合う。
地面が沈む。
クロナの足元から岩盤が砕けていく。
それでも腕は下がらなかった。
イエガンは二本の腕を押さえながら、その姿を見ていた。
限界に近いことは分かっている。
それでも主が立ち続けるなら、自分も倒れるわけにはいかなかった。
「まだ終わってねぇぞ」
イエガンは大斧へ力を込める。
「ここで支え切る!!」
二本の黒い腕がさらに暴れる。
だがイエガンの大斧は、その動きを確実に止めていた。
ティナは門の状態を確認する。
白い亀裂は少しずつ広がっている。
封印は確実に内部へ届いていた。
「あと少しです!」
ティナが声を張る。
「クロナ様、もう少しだけ耐えてください!」
クロナは返事をしない。
ただ門だけを見続ける。
第三の腕から流れ込む力が、白い紋様へ侵入してくる。
封印を破壊するための力が、クロナ自身を蝕もうとしていた。
しかし白い光は消えなかった。
むしろさらに強く輝き始める。
クロナの中に残された力が反応する。
これまで喰らい、進化し、積み重ねてきた全てが今へ繋がっていた。
「俺は……」
クロナは拳を握る。
「ここで終わるために、ここまで来たんじゃない」
その言葉と同時に、白い光が一気に広がる。
門全体へ走った亀裂が大きくなる。
黒い外殻が崩れ始める。
第三の腕にも亀裂が走った。
赤い瞳が揺れる。
初めて敵の動きが止まった。
封印が勝っている。
それを本体も理解したのだ。
しかし次の瞬間。
裂け目の奥から、さらに低い唸り声が響く。
まだ終わっていない。
第三の腕が崩れながらも、最後の力を振り絞る。
ティナの表情が変わる。
残された力は僅かだった。
それでも敵は諦めていない。
クロナはゆっくりと顔を上げる。
「なら、最後まで付き合ってやる」
白い光と黒い魔力が、再び正面から激突した。




