【第440話:三本目の腕】
裂け目の奥から現れた第三の腕。
それは今までの二本とは明らかに異なる気配を放っていた。
黒い外殻には赤い紋様が浮かび上がっている。
クロナは門へ手を押し当てたまま、その腕を見据える。
封印の力を維持しながらも警戒は緩めない。
敵がさらに切り札を出してきたことは理解していた。
赤い瞳が静かに輝く。
第三の腕から膨大な魔力が溢れ出す。
谷全体の空気が重く沈み込んだ。
ティナはその力の流れを追う。
解析できない部分は多い。
それでも一つだけ分かったことがあった。
「この腕だけ、性質が違います」
ティナが呟く。
「他の二本は力を押し付けています。ですが、あれは封印そのものを破壊するための力です」
イエガンは二本の腕を受け止めながら視線を向ける。
額には汗が浮かんでいた。
それでも大斧を握る手は緩まない。
「厄介なのが増えましたね」
第三の腕がゆっくりと動く。
狙いは門ではない。
クロナの胸に刻まれた白い紋様だった。
ティナが表情を変える。
敵は理解している。
封印の力を消すことが最優先だと。
「危険です」
ティナが鋭く告げる。
「第三の腕が封印の核を狙っています」
クロナは白い光をさらに強める。
門へ流し込む力を止めることはできない。
ならば受けるしかなかった。
巨大な黒い腕が迫る。
空間が歪み、周囲の岩盤が崩れ落ちる。
その一撃は今までとは比較にならなかった。
クロナは左腕を前へ出す。
白い光が盾のように広がった。
黒い腕と封印の力が正面から激突する。
轟音が響き渡る。
谷全体が大きく揺れた。
クロナの足元へ深い亀裂が走る。
しかし押し返されない。
白い紋様は輝きを失わなかった。
イエガンはその姿を見て笑う。
自分たちが信じた主は、やはり簡単には倒れない。
その確信があった。
「まだ耐えていますね」
ティナは頷く。
だが表情は険しい。
問題は敵の力だけではなかった。
「ですが、封印の消耗も大きくなっています」
クロナは門の中心を見る。
白い光はあと少しで全体へ届く。
ここで止めるわけにはいかなかった。
第三の腕がさらに力を込める。
黒い紋様が広がり、封印の光を侵食し始めた。
本体は全力で抵抗している。
その時だった。
黒い門の中心に、一瞬だけ白い亀裂が走る。
封印の力が内部へ到達した証だった。
ティナは目を見開く。
長い戦いの終わりが見え始めていた。
だが同時に、本体も最後の抵抗へ入っている。
赤い瞳が大きく開く。
第三の腕がさらに巨大化する。
裂け目の奥から、最後の一撃を放つための力が集まり始めた。




