【第437話:迫る黒き掌】
黒い門の中心から伸びた巨大な手。
それは今まで現れた異形の一部とは明らかに違っていた。
本体自身の力が直接干渉している。
クロナは足を止めない。
迫る黒い掌を真正面から見据える。
白い紋様が強く輝きを増した。
ティナは魔力の流れを読み取る。
その表情が僅かに険しくなる。
黒い手には特殊な力が込められていた。
「クロナ様」
ティナが声を張る。
「気を付けてください。あれはただの攻撃ではありません」
クロナは拳を構える。
敵の狙いは理解していた。
封印の力を持つ自分を排除することだ。
黒い掌が振り下ろされる。
周囲の空間が押し潰される。
谷全体が巨大な衝撃に包まれた。
クロナは白い光を纏った腕で受け止める。
衝突した瞬間、大地が大きく沈む。
足元へ無数の亀裂が走った。
「重いな」
クロナは笑う。
力だけなら今までの敵とは比較にならない。
だが押し返せないほどではなかった。
イエガンが巨大な腕へ向かって走る。
大斧へ全力の魔力を込める。
一撃で流れを変えるつもりだった。
「クロナ様! 援護します!」
大斧が黒い掌へ叩き込まれる。
凄まじい衝撃が響き渡る。
しかし黒い手は僅かに揺れただけだった。
イエガンは目を細める。
今までの分身体とは次元が違う。
本体の力を直接受けている証拠だった。
「硬いですね」
ティナが状況を分析する。
だが絶望はしていない。
弱点は必ず存在する。
「ですが、力を使うほど門との接続が強くなっています」
ティナは黒い門を見る。
巨大な手は門を通じて存在している。
つまり完全な本体ではない。
クロナはその言葉を聞く。
すぐに狙いを理解した。
敵の身体ではなく、繋がりを断つ。
「ティナ」
クロナが呼ぶ。
「門の中心までの道を示せ」
ティナは即座に頷く。
解析ではなく観察による判断だった。
今必要なのは正確な一瞬だった。
「中央です。黒い門の奥、白い光が集まっている場所です」
クロナは地面を蹴る。
黒い掌を押し返しながら前へ進む。
白い光が一直線の道を作った。
巨大な手が再び迫る。
今度はクロナを握り潰そうとしていた。
空間ごと閉じるような攻撃だった。
イエガンが割り込む。
大斧を横に構え、黒い指を受け止めた。
身体全体が震える。
「ここは通しません!」
イエガンの声が谷へ響く。
クロナは振り返らない。
仲間が信じて任せてくれている。
黒い門の中心へ到達する。
そこには白い封印の光と黒い魔力が絡み合っていた。
二つの力が激しく争っている。
クロナは右手を伸ばす。
白い紋様が最大限に輝いた。
封印の力が本来の形を取り戻していく。
その瞬間。
門の奥から赤い瞳がクロナを睨み付ける。
低く響く声が谷全体へ届いた。
「貴様が……新たな封印か」
初めて本体の声が響く。
その言葉には明確な怒りが込められていた。




