【第436話:閉ざされた門】
裂け目の両脇に現れた巨大な黒い門。
それは空間そのものを固定するように谷へ根を張った。
周囲の魔力の流れが大きく変化する。
クロナは足を止めない。
迫り来る分身体を薙ぎ払いながら、黒い門を睨み付ける。
本体の狙いは明らかだった。
ティナは門を解析しようと意識を集中する。
だが今までとは違う反応が返ってきた。
情報が複雑に絡み合っている。
「クロナ様」
ティナが声を上げる。
「この門は攻撃のためではありません。封印の構造そのものを書き換えようとしています」
クロナの目が細くなる。
敵は力で突破するのではなく、仕組みそのものを変えるつもりだった。
それは今までの戦いとは異なる脅威だった。
イエガンが迫る分身体を斬り伏せる。
消えた影の奥から、さらに新たな影が現れる。
数の差は一向に縮まらなかった。
「ティナ。何か弱点は見えますか」
イエガンが問い掛ける。
「まだ探しています。ですが、門を維持するために本体の力が大量に流れています」
ティナは視線を上げる。
黒い門の奥から伸びる魔力の流れを追う。
そこには一本の集中点が存在していた。
「ありました」
ティナが指を向ける。
「門ではありません。奥にある接続部分です」
クロナは笑う。
壊す場所が分かったなら十分だった。
どれほど複雑でも、やることは変わらない。
黒い門から巨大な腕が伸びる。
分身体とは比べ物にならない圧力だった。
空気が押し潰される。
イエガンが前へ出る。
大斧を構え、真正面から受け止めた。
足元の地面が大きく沈む。
「クロナ様! 先へ進んでください!」
クロナは一瞬だけ振り返る。
イエガンの覚悟を確認した。
それ以上の言葉は必要なかった。
「任せた」
短い返答だった。
イエガンは力強く頷く。
クロナは黒い門へ向かって走る。
白い光が全身を包み込む。
封印の力が進むべき道を示していた。
分身体が一斉に襲い掛かる。
しかしクロナの進行を止めることはできない。
白い光に触れた影は次々と崩れ落ちる。
ティナも後方から援護する。
魔力の流れを読み取り、敵の動きを予測する。
一瞬先の攻撃を仲間へ伝え続けた。
「右です!」
ティナが叫ぶ。
「クロナ様! 次の攻撃が来ます!」
クロナは身体を捻る。
直後、黒い刃が頬を掠めた。
避けながら拳を叩き込む。
黒い刃を放った分身体が消滅する。
そのままクロナは止まらない。
目標はただ一つだった。
黒い門の奥へ近付くほど、封印の力が強く反応する。
まるで本来の役目を思い出しているようだった。
その瞬間。
黒い門の奥から赤い瞳が再び開く。
本体はクロナの接近を理解していた。
そして。
門の中心から、巨大な黒い手が伸び始める。
今まで封じられていた力が、ついに直接クロナを排除しようとしていた。




