【第428話:核より現れし者】
砕け散った赤黒い核の中心。
そこから現れた人影は静かに地面へ降り立つ。
谷を満たしていた黒い魔力が大きく揺らいだ。
純白の髪が風になびく。
全身を覆う白い外殻は異形とは違い、滑らかな光沢を帯びていた。
閉じられた瞳からは感情を読み取れない。
クロナは人影を見据える。
拳は下ろさない。
敵か味方か判断できる状況ではなかった。
巨大な目が激しく震える。
先程までの威圧感は消え失せていた。
明らかに白い人影を恐れている。
ティナは慎重に観察する。
解析は依然として通用しない。
それでも異形とは決定的に異なることだけは理解できた。
「情報が読めません。でも、あの存在は異形ではありません」
イエガンは大斧を構えたまま頷く。
視線は白い人影から一瞬たりとも外さない。
「ティナ。油断するな。何が起きても動けるようにしておけ」
白い人影がゆっくりと顔を上げる。
閉じられていた瞳が静かに開いた。
淡い銀色の光が谷全体を照らす。
その瞬間だった。
巨大な目が悲鳴を上げる。
黒い塊が後退するように蠢き始めた。
クロナは笑う。
敵が恐怖を見せる姿は初めてだった。
その変化だけで十分だった。
「随分と嫌われてるみてえだな」
白い人影は何も答えない。
ただ巨大な目を静かに見つめる。
その視線には強い意志が宿っていた。
黒い塊が突然暴れ始める。
無数の黒い腕が一斉に伸びた。
狙いは白い人影ただ一人だった。
ティナは息を呑む。
今まで自分へ向けられていた敵意が完全に移っている。
異形は白い人影を最優先で排除しようとしていた。
白い人影は右手をゆっくりと掲げる。
次の瞬間、迫る黒い腕が音もなく崩れ落ちた。
粉雪のような白い粒子となって消えていく。
イエガンが目を見開く。
今の一撃には魔力の奔流すら感じられなかった。
常識では説明できない力だった。
「クロナ様。あれは普通じゃありません」
クロナは口元を吊り上げる。
未知の力を前にしても恐れる様子はない。
むしろ興味が深まっていた。
「面白え。ますます気に入った」
巨大な目が再び大きく見開かれる。
黒い光が谷全体へ広がる。
最後の力を振り絞るつもりだった。
しかし白い人影が一歩前へ踏み出す。
それだけで黒い光が押し返される。
谷を覆っていた重圧が急速に薄れていった。
ティナはその光景を見つめる。
胸の奥に一つの確信が生まれていた。
この存在こそ異形が最も隠したかった秘密なのだ。
その瞬間。
白い人影が初めてクロナの方へ視線を向ける。
静かに口が開き、最初の言葉を紡ごうとしていた。




