【第427話:白き異変】
赤黒い核から伸びた白い指先。
それは黒い異形とは正反対の色をしていた。
谷全体の魔力が一瞬だけ静まり返る。
クロナは動きを止めない。
核へ向けた拳をさらに押し込む。
敵へ猶予を与えるつもりはなかった。
黒い腕が迎え撃つ。
だが先程より明らかに力が弱い。
核の亀裂はさらに広がっていく。
ティナは白い指先を凝視する。
異形の情報は依然として解析できない。
それでも違和感だけは読み取れた。
「違います」
ティナが小さく呟く。
「これは異形ではありません」
クロナは僅かに眉を上げる。
その一言は予想外だった。
イエガンも思わず視線を向ける。
「どういうことだ」
イエガンが問い掛ける。
「気配が違います。少なくとも外側の異形とは完全に別です」
白い指先がゆっくりと動く。
続いて白い手首が現れる。
核の内側から何かが這い出ようとしていた。
巨大な目が激しく震える。
怒りではない。
まるで怯えているようだった。
ティナはその反応を見逃さない。
今まで無敵のように振る舞っていた異形が、初めて恐怖を見せた。
それほどの存在だった。
「クロナ様!」
ティナが叫ぶ。
「異形があれを恐れています!」
クロナは笑う。
敵が恐れる存在ならば、自分にとっても興味深い。
その程度の認識だった。
「なら出てきてもらおうじゃねえか」
クロナはさらに力を込める。
雷が激しく弾け、炎が核を包み込む。
影が槍のように一点へ集束した。
赤黒い核が軋む。
表面へ無数の亀裂が走る。
崩壊は目前だった。
黒い腕が必死に押し返す。
巨大な目も能力を発動しようとする。
しかし明滅だけを繰り返し、結果を書き換えられない。
ティナは確信する。
代償は完全に尽きかけていた。
異形は限界を超えている。
「あと一撃です!」
ティナの声が谷へ響く。
「クロナ様! 核を砕いてください!」
クロナは静かに息を吸う。
全身へ巡る力を一つへ束ねた。
今までで最も濃密な魔力だった。
拳がゆっくりと引かれる。
周囲の空間が歪み始める。
大気そのものが震えていた。
「終わりだ」
拳が放たれる。
雷と炎と影が一つとなり、核へ真正面から突き刺さる。
轟音が世界を揺らした。
赤黒い核が砕け散る。
巨大な目が絶叫する。
黒い塊全体へ無数の亀裂が広がった。
その瞬間。
砕けた核の中心から白い腕が完全に姿を現す。
続いて、静かに一人の人影が立ち上がった。




