【第426話:核の奥底】
赤黒い球体の奥で新たな鼓動が響く。
それは先程までの異形とは明らかに異なる気配だった。
谷全体を包む魔力がさらに濃くなっていく。
クロナは拳を構え直す。
目の前の核を見据えたまま、一切視線を逸らさない。
敵もまたクロナだけを見つめていた。
黒い腕がゆっくりと持ち上がる。
亀裂だらけの腕とは思えないほど滑らかな動きだった。
空間が再び大きく軋み始める。
ティナは核を凝視する。
先程刻まれた亀裂は残っていた。
修復はまったく進んでいない。
「クロナ様!」
ティナが口を開く。
「核の修復が止まっています! もう余力が残っていません!」
クロナは不敵に笑う。
追い詰められているのは自分たちではない。
目の前の異形だった。
「なら終わらせる」
巨大な目が大きく見開かれる。
黒い光が核へ集まり始めた。
最後の力を振り絞るつもりらしい。
イエガンが異変に気付く。
大斧を強く握り締めた。
全身へ力が漲っていく。
「クロナ様! 嫌な予感がします!」
クロナは頷く。
自分も同じことを感じていた。
だからこそ立ち止まらない。
黒い腕が一瞬で伸びる。
先程までとは比較にならない速度だった。
一直線にクロナの胸を貫こうと迫る。
クロナは拳を振るう。
雷が黒い腕へ直撃する。
激突した衝撃で谷全体が揺れた。
黒い腕が弾かれる。
しかし完全には砕けない。
まだ核を守ろうとしていた。
ティナは目を見開く。
黒い腕ではない。
核の内部だった。
亀裂の奥から何かが動く。
鼓動と共にゆっくりと姿を現そうとしている。
「まずいです」
ティナが息を呑む。
「核の中に、もう一つ反応があります!」
クロナは眉一つ動かさない。
敵が何を隠していようと関係ない。
壊すだけだった。
クロナはさらに踏み込む。
炎が渦を巻き、影が右腕へ収束する。
雷が全身を駆け巡った。
三つの力が完全に重なる。
今までで最も重い一撃だった。
空気そのものが悲鳴を上げる。
拳が核へ突き刺さる。
赤黒い球体全体へ巨大な亀裂が走った。
黒い腕が苦しむように震える。
絶叫が谷へ響く。
巨大な目も激しく揺れ始めた。
融合そのものが崩壊へ向かっていく。
その瞬間だった。
核の奥深くから白い指先が静かに伸びる。
黒ではない存在の出現に、ティナの表情が凍り付いた。




