【第424話:響いた悲鳴】
黒い塊の内部から響いた悲鳴が谷全体へ反響する。
それは獣の咆哮ではない。
苦痛に満ちた声だった。
クロナは拳を引き抜く。
黒い塊は激しく脈動を繰り返している。
今までにない動揺が伝わってきた。
ティナは巨大な目を見つめる。
先程までの圧倒的な威圧感が僅かに揺らいでいた。
確実に効いている。
「クロナ様!」
ティナが声を上げる。
「核へ届いています! このまま攻撃を続ければ融合そのものを崩せます!」
クロナは獰猛に笑う。
ようやく終わりが見えてきた。
そんな表情だった。
「なら遠慮はいらねえな」
巨大な目が怒りに震える。
黒い光が奔流となって溢れ出した。
谷全体の空間が大きく歪む。
無数の裂け目が生まれる。
それらは互いに重なり合い、一つの巨大な断層へ変化した。
地平線を切り裂くほどの規模だった。
イエガンがクロナの前へ飛び出す。
大斧を地面へ突き立てる。
全身から膨大な魔力が噴き上がった。
「クロナ様! ここは俺が受け止めます!」
巨大な断層が押し寄せる。
大斧と衝突した瞬間、谷全体が激震に包まれた。
岩山が次々と崩壊する。
イエガンの足が地面へ沈む。
両腕が震える。
それでも一歩も退かなかった。
「まだ……止まれます!」
イエガンが吠える。
全身の筋肉が悲鳴を上げても構わない。
その覚悟だけで踏み止まっていた。
クロナは振り返らない。
仲間が作った道を信じて前へ進む。
それが最大の信頼だった。
ティナは黒い塊を観察し続ける。
融合は確実に乱れている。
内部の魔力循環が崩れ始めていた。
「あそこです」
ティナは一点を指差す。
巨大な目の真下だった。
黒い光だけが不自然に揺らいでいる。
「クロナ様! 核が露出しています!」
クロナの視線が鋭くなる。
黒い外殻の隙間から赤黒い球体が覗いていた。
鼓動のように脈打っている。
「あれが心臓か」
クロナは小さく笑う。
敵も隠し切れなくなっていた。
追い詰められた証拠だった。
巨大な目が慌てるように閉じる。
外殻が蠢き、核を覆おうと動き始める。
明らかな防御行動だった。
ティナは確信する。
今まで一切見せなかった反応である。
あの核だけは失えないのだ。
「クロナ様! 今しかありません!」
クロナは地面を蹴る。
雷が身体を包み込み、炎が尾を引く。
影が一本の槍となって右腕へ集束した。
黒い塊との距離が一気に縮まる。
巨大な目も裂け目も間に合わない。
クロナは一直線に核へ迫った。
その瞬間だった。
赤黒い球体が突然割れる。
内部から細い黒い腕がゆっくりと伸び始める。
クロナの笑みがさらに深くなる。
敵はまだ奥の手を隠していた。
だからこそ叩き潰す価値があると確信した。




