【第423話:暴かれた急所】
巨大な目が再びゆっくりと開く。
谷全体へ放たれる圧力は先程よりも強くなっていた。
融合は今も進行を続けている。
クロナは巨大な目を睨み据える。
敵の急所が分かった以上、狙いは一つだった。
迷う理由はない。
ティナは呼吸を整える。
解析は弾かれている。
それでも観察までは止められない。
巨大な目が瞬く。
その直後、周囲の空間が歪んだ。
無数の黒い裂け目が生まれる。
クロナは横へ跳ぶ。
イエガンも後方へ飛び退いた。
裂け目が通過した岩山は静かに消え去る。
「クロナ様!」
ティナが叫ぶ。
「目を閉じた瞬間だけ能力が止まっています!」
クロナは口元を吊り上げる。
やはり急所だった。
防御と能力の維持は両立できないらしい。
「なら閉じさせ続ければいい」
イエガンが笑う。
豪快な笑みだった。
ようやく戦い方が見えてきた。
「任せろ!」
イエガンが地面を蹴る。
大斧を振りかぶり、巨大な目へ一直線に突撃する。
全身から膨大な魔力が溢れ出した。
斧が振り下ろされる。
巨大な目は即座に閉じた。
直撃の瞬間だけ能力が消える。
クロナはその隙を逃さない。
雷を纏った拳で追撃する。
炎と影も同時に叩き込んだ。
轟音が谷を揺らす。
巨大な目の周囲へ亀裂が走る。
今までで最も大きな損傷だった。
黒い塊が大きく脈動する。
融合の速度が一瞬だけ鈍った。
確かな手応えがあった。
ティナは素早く全体を見る。
巨大な目だけではない。
黒い塊そのものにも変化が現れていた。
「あれは……」
小さく呟く。
外殻の各所へ細かな亀裂が広がっている。
代償が限界へ近付いていた。
「クロナ様!」
ティナが再び叫ぶ。
「急所は一つではありません! 融合を維持する外殻全体が悲鳴を上げています!」
クロナは頷く。
敵も無理をしている。
勝負は長くない。
巨大な目が怒り狂うように見開かれる。
黒い光が谷全体へ放たれた。
空間そのものが震え始める。
今までとは比べ物にならない数の裂け目が出現する。
逃げ場はほとんど残されていない。
谷全体が攻撃範囲だった。
ティナは歯を食いしばる。
ここで止まれば全滅する。
それだけは理解していた。
クロナは静かに息を吐く。
全身へさらに魔力を巡らせる。
身体中の筋肉が軋んだ。
「イエガン!」
クロナが呼ぶ。
「三秒だけ道を作れ!」
イエガンは不敵に笑う。
返事は一言で十分だった。
「任されました!」
イエガンが雄叫びを上げる。
大斧を両手で握り締める。
全身の魔力が一気に膨れ上がった。
巨大な衝撃波が谷を駆け抜ける。
迫る裂け目を真正面から押し返した。
ほんの一瞬だけ安全な道が生まれる。
クロナは駆ける。
雷が咆哮し、炎が渦巻き、影がその背を押した。
一直線に巨大な目へ迫っていく。
巨大な目が再び閉じる。
その瞬間だった。
クロナの拳が真正面から突き刺さる。
今までで最大の亀裂が走る。
黒い塊全体が大きく震えた。
そして内部から、人の悲鳴にも似た声が響き渡る。




