【第420話:見抜かれた循環】
谷中に開いた無数の目が不気味に瞬く。
破壊されたはずの箇所からも次々と再生が始まっていた。
異形たちの支配領域は拡大を続けている。
ティナは周囲を観察する。
再生速度は異常だった。
だが違和感もあった。
目が再生する度に、二体の異形の外殻が微かに明滅している。
本当に僅かな変化だった。
ティナは目を細める。
一度なら見間違いかもしれない。
しかし二度三度と繰り返されていた。
「クロナ様!」
ティナが叫ぶ。
「目の再生にも代償を使っています!」
クロナは空中で笑う。
ようやく面白い情報が出てきた。
そんな表情だった。
「つまり増やせば増やすほど自分の首を絞めるってことか」
「その可能性が高いです」
ティナは頷く。
無限に見えた再生にも限界が存在する。
それが見え始めていた。
その時だった。
谷中の目が一斉に開く。
数千の視線がクロナへ集中する。
直後に空間が砕けた。
黒い亀裂が蜘蛛の巣のように広がる。
逃げ場を潰すような攻撃だった。
クロナは正面から突っ込む。
雷を纏いながら亀裂を避ける。
常識外れの速度だった。
一歩踏み込む。
二歩目で加速する。
三歩目には異形の目前へ到達していた。
拳が放たれる。
轟音が谷を揺らした。
一体目の異形が大きく後退する。
傷はまだ浅い。
だが胸部の亀裂は確実に広がっていた。
イエガンも続く。
大斧を両手で握り締めた。
全身の筋肉が膨れ上がる。
「消えねえなら削り切るだけだ!」
大斧が振り下ろされる。
山を両断するほどの一撃だった。
異形の肩へ直撃する。
結果は改変される。
傷は消える。
それでも代償は積み重なる。
外殻の明滅が激しくなる。
先程よりも不安定だった。
亀裂もさらに増えている。
ティナはその変化を観察する。
そして新たな事実に気付いた。
「違います」
小さく呟く。
「どうした」
クロナが問い掛ける。
「二体とも同じ代償を共有しています」
クロナの動きが止まる。
イエガンも目を見開いた。
ティナは異形たちを指差す。
一体目へ攻撃を加える。
すると二体目も同時に明滅する。
逆も同じだった。
明らかに連動している。
「別個体ではありません」
ティナは確信していた。
「二体で一つです」
その言葉と同時に。
二体の異形がゆっくりと動く。
互いへ向かって歩き始めた。
まるで引き寄せられるようだった。
不吉な予感が谷を包む。
クロナは舌打ちする。
嫌な流れだった。
敵もこちらの攻略を理解し始めている。
二体の異形が接触する。
外殻が溶けるように混ざり合った。
膨大な魔力が周囲へ放出される。
谷全体が激しく揺れる。
岩壁が崩落する。
空そのものが軋んだ。
ティナの顔色が変わる。
「まずいです」
異形たちの融合が始まっていた。
それは明らかに最後の切り札だった。
そして止められなければ、今までとは比較にならない怪物が誕生する。




