【第418話:迫る終末の詠唱】
巨大な魔法陣が空を覆う。
黒い紋様は今なお広がり続けていた。
谷全体が異形の支配下へ組み込まれていく。
ティナは上空を見上げる。
解析を重ねるほど嫌な予感が強くなった。
あれは単純な攻撃魔法ではない。
「クロナ様。あの術式は危険です」
クロナは異形から目を離さない。
二体の異形もまた術式の維持に集中していた。
「分かってる。だから潰す」
イエガンが大斧を肩へ担ぐ。
魔力の奔流が周囲の大気を震わせた。
その目には闘志が宿っている。
「なら俺が道を開きますぜ」
イエガンが地面を蹴った。
巨体とは思えぬ速度で異形へ迫る。
大斧が唸りを上げて振り下ろされた。
一体目の異形が結果を書き換える。
傷は消えるが外殻は激しく明滅した。
亀裂も僅かに広がっている。
ティナはその変化を見逃さなかった。
代償は確実に蓄積している。
問題は時間だった。
「クロナ様。術式の完成が先です」
クロナは笑みを浮かべる。
獲物を追い詰めた獣のような笑みだった。
「なら完成する前に終わらせるだけだ」
雷が奔る。
炎が渦巻く。
影が黒い奔流となって集まった。
三つの力がクロナの右腕へ集中する。
周囲の空間が軋み始めた。
制御限界に近い出力だった。
二体の異形が同時に反応する。
無数の目が一斉にクロナへ向いた。
初めてティナ以外へ明確な警戒を見せる。
「気付いたか」
クロナは不敵に笑う。
次の瞬間、その姿が掻き消えた。
轟音が遅れて響く。
クロナは一体目の懐へ潜り込んでいた。
圧縮された力を拳へ乗せる。
拳が放たれる。
世界そのものが揺れた。
谷の地面が大きく沈み込む。
異形の外殻が眩く明滅する。
今までで最大の反応だった。
亀裂が胸部から肩口まで走る。
「効いている!」
ティナが叫ぶ。
勝機は確実に広がっていた。
しかしその瞬間だった。
上空の魔法陣が完成する。
黒い光が谷全体へ降り注いだ。
異形たちの外殻が不気味に輝く。
まるで何かを呼び起こしたように。
そして谷の各地から。
新たな黒い目が次々と開き始めた。




