【第415話:見え始めた代償】
ティナの顔色が変わる。
クロナはその表情を見逃さなかった。
何かを掴んだのだと直感する。
「ティナ。何が見えた」
クロナは異形から距離を取りながら問う。
「まだ仮説です」
ティナは短く答える。
「ですが、あれは無限ではありません」
異形が動く。
空間が歪む。
周囲の岩盤が軋んだ。
イエガンが即座に前へ出る。
大斧を構える。
異形の視線を引き付けた。
「クロナ様。話なら俺が稼ぎます」
そう言うと地面を蹴る。
巨大な身体が一直線に突撃した。
大斧が唸りを上げる。
谷の空気そのものを切り裂いた。
異形は避けない。
斧が直撃する。
だが傷は生まれない。
その代わり外殻が明滅した。
ティナの瞳が鋭くなる。
「やはりです」
クロナも気付いていた。
攻撃が通らない。
しかし何かは起きている。
完全な無反応ではない。
イエガンはさらに攻撃を重ねる。
横薙ぎ。
振り上げ。
叩き付け。
連続攻撃が異形を襲う。
その度に外殻が微かに光る。
異形は相変わらず無傷だった。
だが反応だけは確実に存在していた。
「クロナ様」
ティナが呼ぶ。
「こいつは攻撃を無効化しているんじゃありません」
クロナが眉を上げる。
「ほう」
「結果を書き換えています」
その言葉にイエガンが顔をしかめた。
理解はできない。
だが重要な話だということは分かる。
ティナは説明を続けた。
「斧が当たったという事実は消えていません」
異形を見つめる。
「傷付いたという結果だけを消しています」
クロナは笑った。
「なるほどな」
ようやく輪郭が見えてきた。
異形は防御しているわけではない。
攻撃を避けているわけでもない。
結果だけを否定している。
だから傷が残らない。
だから無傷なのだ。
「面白え」
クロナの笑みが深くなる。
ティナは首を振った。
「面白くありません」
珍しく強い口調だった。
「もし私の考えが正しいなら」
一瞬言葉を止める。
そして続けた。
「それには代償が必要です」
クロナの目が細くなる。
イエガンも振り返った。
異形は再び腕を上げる。
空間が悲鳴を上げる。
谷全体が揺れ始めた。
ティナは異形を指差す。
「あの明滅です」
外殻が光る。
消える。
また光る。
今は誰の目にも分かった。
「何かを消費しています」
ティナは断言した。
「おそらく異形自身も無制限には使えません」
クロナは拳を握る。
今まで完全な手詰まりだった。
だが違う。
穴がある。
必ず攻略法が存在する。
異形が腕を振るう。
世界が歪む。
巨大な亀裂が空間を走った。
クロナは横へ跳ぶ。
イエガンも飛び退く。
ティナも後方へ移動した。
直後に岩山が消滅する。
爆発ではない。
破壊でもない。
存在そのものが消えていた。
「本当に滅茶苦茶ですね」
イエガンが苦笑する。
だが先程までの緊張は薄れていた。
無敵ではない。
それが分かっただけで違う。
クロナは地面を蹴る。
今度は真正面からだった。
異形へ一直線に突撃する。
雷が纏う。
炎が渦巻く。
影が奔流となる。
複数の力を同時に解放した。
異形の外殻が強く明滅する。
クロナはそれを見逃さない。
拳が放たれる。
異形の顔面へ直撃する。
結果は変わらない。
傷一つ付かない。
だが明滅は先程より強かった。
クロナは笑う。
ティナも確信を深める。
間違いない。
異形は何かを消費している。
無敵の代償を払い続けている。
その時だった。
異形の無数の目が揃ってティナを見た。
ティナの背筋が凍る。
今までとは違う。
明確な敵意だった。
「ティナ!」
クロナが叫ぶ。
イエガンも同時に動く。
だが一瞬遅かった。
異形の周囲で黒い光が脈動する。
外殻が今までで最も強く明滅した。
そして。
ティナの足元に巨大な魔法陣が現れる。
今までで最大の攻撃だった。




