【第392話:別れの朝】
翌朝。
森には薄い朝霧が立ち込めていた。
崩落した施設の周囲では後処理が続いている。
兵士たちは回収品を整理していた。
ティナは旅支度を終えていた。
黒い帳簿は既に収納してある。
指揮官の男が近づいてくる。
鎧には昨夜の戦闘痕が残っていた。
「もう出るのか」
穏やかな声だった。
ティナは頷く。
「はい。思った以上に重要な情報が手に入りました」
簡潔な返答だった。
男は苦笑する。
「こちらとしては助かったよ。君がいなければ、施設まで辿り着けなかった」
素直な言葉だった。
お世辞ではない。
ティナは少しだけ視線を逸らす。
感謝を向けられることには慣れていない。
「皆さんの協力がなければ、こちらも難しかったでしょう」
短いやり取りだった。
だが互いに本心だった。
白衣の女も近づいてくる。
顔色はかなり良くなっていた。
「ありがとう。きっと一生忘れないと思う」
彼女は深く頭を下げる。
ティナは静かに受け止めた。
昨夜まで囚われていた人間だ。
これからの人生は簡単ではないだろう。
それでも生きている。
それだけで十分意味があった。
「どうかお元気で」
ティナはそれだけを告げる。
女は小さく笑った。
朝日が森を照らし始める。
長かった一件も終わりを迎えていた。
ティナは背を向ける。
そして帰路へ足を踏み出した。




