【第391話:帰還前夜】
夜風が崩れた施設へ吹き込んでいた。
戦闘の熱気は徐々に消え始めている。
兵士たちは負傷者の手当てを進めていた。
拘束された黒装束もまとめられている。
指揮官の男は焚き火の近くで地図を広げる。
疲労はあるが表情は崩れていない。
ティナは少し離れた場所に立つ。
黒い帳簿を静かに眺めていた。
その横顔を見ながら、指揮官の男が口を開く。
「結局、最後まで付き合わせてしまったな」
穏やかな声音だった。
ティナは小さく首を横へ振る。
「こちらにも得るものはありました。むしろ予想以上です」
短い返答だった。
指揮官の男は苦笑する。
「その顔を見る限り、あまり嬉しくなさそうだ」
ティナは帳簿を閉じる。
焚き火の光が金色の瞳を揺らした。
「……面倒な相手が増えただけですから」
本音だった。
だが指揮官の男は笑う。
「違いない」
短い同意だった。
その空気だけは少し軽い。
白衣の女が焚き火へ近づいてくる。
借り物らしい外套を羽織っていた。
青白かった顔色も多少戻っている。
だが瞳にはまだ疲労が残る。
「私は近くの街まで同行するわ。その後は、知人を頼るつもり」
ティナは静かに頷く。
女もまた被害者だった。
指揮官の男が焚き火へ薪を放り込む。
火の粉が夜空へ舞い上がった。
「お前はどうする。ここから先も追うのか」
問いは自然だった。
ティナは少しだけ空を見上げる。
観測者。
グリムファングを追う謎の組織。
まだ断片しか見えていない。
だが危険性だけは十分すぎるほど理解した。
ティナは静かに答える。
「……一度戻ります。この情報は、我が主へ直接伝える必要があります」
焚き火が静かに揺れる。
夜はまだ深かった。




