【第387話:綻び】
黒い魔力が室内を渦巻いていた。
天井から細かな砂埃が落ちる。
銀灰色の男は止まらない。
高速の連撃を叩き込む。
短剣が閃く。
ティナは身体を捻って避けた。
そのまま肘を打ち込む。
男が腕で受ける。
鈍い衝撃が響く。
互いの距離が再び離れた。
男は浅く息を吐く。
黒い魔力が不安定に揺らいでいた。
ティナは静かに口を開く。
「……無理をしていますね」
男の目が細まる。
図星だった。
だが男は笑う。
乾いた笑いだった。
「観察力がいいな。だが、お前も気づいているはずだ。この力がなければ、お前には届かない」
言葉に迷いはなかった。
ティナは否定しない。
男の実力は高い。
だが黒い魔力によって危険な領域へ踏み込んでいる。
指揮官の男が周囲を制圧しながら声を飛ばす。
「ティナ、長引かせるな。建物ごと崩れるぞ」
壁へ新たな亀裂が走っていた。
実験室そのものが限界へ近づいている。
ティナは短く頷く。
「分かっています」
その瞬間だった。
銀灰色の男が踏み込む。
黒い魔力が爆ぜる。
今まで以上の速度だった。
ティナの視界から一瞬消える。
直後、背後に気配が現れた。
短剣が振り下ろされる。
ティナは振り返りながら受け止めた。
激突。
床が砕け散る。
だが男の顔が歪む。
腕が震えていた。
負荷が限界へ達している。
ティナはその隙を逃さない。
身体を半歩滑らせる。
男の懐へ入り込む。
掌底が腹部へ叩き込まれた。
重い衝撃音が響く。
男の身体が浮く。
そのまま壁へ激突した。
石壁が大きく陥没する。
黒い魔力が激しく揺らいだ。
男は膝をつく。
口から血が零れ落ちる。
それでも笑っていた。
「やはり面白いな……お前たちは」
掠れた声だった。
ティナは静かに男を見る。




