【第385話:仮面の下】
崩れた棚が激しく床へ散乱する。
薬瓶が砕け、刺激臭が広がった。
仮面の男は後退したまま止まる。
黒い魔力が揺らいでいた。
ティナは追撃へ移る。
間を与えない踏み込みだった。
仮面の男が短剣を振るう。
黒い軌跡が空を裂く。
ティナは紙一重で回避する。
そのまま男の懐へ潜り込んだ。
肘打ち。
鈍い衝撃が響く。
仮面の男の体勢が崩れる。
黒布の一部が裂けた。
だが男は即座に反応する。
膝蹴りを放ち、距離を作る。
互いに数歩下がる。
荒れた室内で視線が交差した。
その時だった。
指揮官の男の声が飛ぶ。
「ティナ、後ろだ」
短い警告だった。
ティナは即座に振り向く。
別の黒装束が背後へ迫っている。
短剣が首筋を狙っていた。
ティナは腕を掴む。
そのまま勢いを利用して投げ飛ばす。
黒装束の身体が机へ激突する。
木片が飛び散った。
しかし、その隙だった。
仮面の男が低く踏み込む。
黒い魔力が集中する。
短剣が一直線に突き出された。
速い。
今までで最速だった。
ティナは半歩だけ身体をずらす。
刃が肩口を掠めた。
服が裂ける。
赤い線が薄く走った。
仮面の男が目を細める。
「避けるか」
感心したような声だった。
ティナは視線を逸らさない。
次の瞬間。
ティナの掌が仮面へ届く。
衝撃音。
白い仮面に亀裂が走った。
男の身体が後退する。
砕けた仮面の破片が床へ落ちる。
露わになった口元は若かった。
まだ三十にも届かない。
銀灰色の髪が零れる。
切れ長の目が静かにティナを見る。
その顔には狂気よりも、強い探究心があった。
まるで未知を前にした研究者のようだった。




