【第382話:仮面の奥】
砦の中で激しい金属音が響き続けていた。
兵士たちと黒装束が各所でぶつかっている。
狭い通路へ火花が散る。
怒号と足音が交錯していた。
その中心で、ティナと仮面の男が向かい合う。
互いに距離を測っている。
仮面の男は細身だった。
黒布の隙間から見える首筋も細い。
だが動きには無駄がない。
積み重ねた鍛錬が見えていた。
白い仮面には細かな傷が刻まれている。
長く使い続けてきた跡だった。
ティナは静かに呼吸を整える。
男の重心移動を観察する。
仮面の男が短剣を回す。
刃先が鈍く光った。
「名を聞いてもいいか」
不意にそう言った。
戦闘中とは思えない落ち着いた声だった。
ティナは少しだけ目を細める。
「……聞いてどうするんですか」
短く返す。
男は肩を竦めた。
「強者の名くらいは覚えておきたい。次に会う時のためにな」
淡々とした言い方だった。
冗談を言っている空気ではない。
ティナは答えない。
代わりに一歩踏み込む。
床を蹴る音が響く。
一瞬で間合いを詰めた。
掌底が仮面の男へ迫る。
男は身体を捻って回避する。
だが完全には避け切れない。
衝撃が肩を掠めた。
黒装束の布が裂ける。
男が小さく息を漏らした。
ティナは追撃する。
回転と同時に蹴りを放つ。
仮面の男が腕で防ぐ。
鈍い衝撃音が響いた。
男は後方へ滑る。
その足が床を削った。
数秒の沈黙。
互いに視線を外さない。
その時だった。
背後で兵士の叫び声が響く。
別の黒装束が実験資料へ手を伸ばしている。
机ごと焼き払おうとしていた。
白衣の女が目を見開く。
思わず前へ出かける。
ティナは即座に動く。
だが、その瞬間。
仮面の男が前へ出た。
進路を塞ぐように立つ。
「行かせるわけにはいかないな」
低い声だった。
ティナの目が鋭く細まる。
男は短剣を構える。
仮面の奥の視線だけが静かに揺れていた。
そして次の瞬間。
男の身体から黒い魔力が溢れ始める。




