【第381話:観測者】
室内へ入り込んだ三人の仮面の男たちは、無駄なく散開した。
互いの死角を埋める配置だった。
兵士たちも武器を構える。
緊張が張り詰める。
指揮官の男がティナの横へ並ぶ。
剣を抜きながら前を見る。
「数が増えたな。こちらも少し本気で動く必要がありそうだ」
低い声だった。
だが焦りは見えない。
ティナは小さく頷く。
視線は中央の仮面の男へ固定されていた。
他の二人より空気が違う。
おそらく指揮役。
仮面の男は周囲を見渡す。
崩れた実験室を一瞥した。
「……被験体は停止済みか。惜しいな。あれは比較的成功に近かった」
淡々とした口調だった。
白衣の女が顔を歪める。
「成功ですって……? あんな姿になった人間を見ても、まだそんなことを言うの」
怒気を含んだ声だった。
だが仮面の男は動じない。
静かに視線だけを向ける。
「進化には代償が必要だ。君も理解していたから協力していたはずだが」
責める口調ではない。
ただ事実を述べているようだった。
白衣の女は言葉を失う。
拳を強く握り締める。
ティナはその様子を見る。
二人の間にあった関係を読み取っていた。
対等ではない。
利用されていた側だ。
指揮官の男が剣先を向ける。
低く息を吐いた。
「悪いが、こちらは研究談義を聞きに来たわけじゃない。村人を攫い、好き勝手やった時点で見逃す理由はないな」
静かな声だった。
仮面の男は小さく肩を竦める。
「理解は求めていない。我々は必要なことをしているだけだ」
返答は短い。
その瞬間、空気が変わる。
左右にいた仮面の男たちが同時に動いた。
床を滑るような踏み込みだった。
兵士たちが迎え撃つ。
金属音が連続して響く。
砦の中で戦闘が再開される。
狭い空間で火花が散った。
中央の仮面の男は動かない。
ただティナを見ていた。
「お前、普通の傭兵ではないな」
静かな問いだった。
ティナは構えを崩さない。
「そう見えますか」
短く返す。
仮面の男はわずかに笑う。
仮面越しでも分かるほど僅かな変化だった。
「少なくとも、この程度の相手を見て怯える目ではない」
次の瞬間だった。
男の姿が掻き消える。
ティナは即座に反応する。
横へ半歩ずれる。
直後、短剣が空を裂く。
髪先だけが切り落とされた。
距離が近い。
呼吸すら届く位置だった。
ティナは掌を打ち込む。
仮面の男が腕で受け流す。
衝撃が走る。
床板が軋んだ。
男は後方へ跳ぶ。
その動きには余裕があった。
「……面白い」
低い声が落ちる。
仮面の奥の視線が鋭く細まった。




