【第380話:森を囲う影】
砦の外から複数の足音が響いていた。
森の静けさを削るような気配だった。
若い兵士は息を整えながら続ける。
緊張で肩が強張っていた。
「数は十数名ほどです。ですが動きが妙です。まるでこちらの配置を把握しているように包囲を狭めています」
報告を聞いた兵たちの表情が変わる。
室内の空気がさらに重くなった。
指揮官の男は窓の外を見る。
森の暗がりへ目を細めていた。
「……厄介だな。追跡ではなく確認に来た動きだ」
低く呟く。
経験から来る判断だった。
白衣の女は唇を噛む。
顔色がさらに悪くなっていた。
「彼らは失敗を嫌うの。情報が漏れたと分かれば、全部消しに来るわ」
乾いた声だった。
実感を伴った言葉だった。
ティナは静かに視線を向ける。
女の反応を観察する。
「あなたも処分対象ですか」
短く問う。
白衣の女は小さく笑った。
諦めきった笑みだった。
「当然でしょう。私は知りすぎたもの」
静かな返答だった。
そこに迷いはない。
その時だった。
外から短い悲鳴が聞こえる。
兵たちが一斉に反応する。
指揮官の男が即座に振り返った。
「外だ。北側へ回れ」
短い指示が飛ぶ。
兵たちは素早く散開した。
ティナも歩き出す。
だが、その瞬間だった。
窓ガラスが砕け散る。
黒い影が室内へ飛び込んだ。
全身を黒布で覆った男だった。
顔には白い仮面をつけている。
細身の体格。
だが異様な圧迫感があった。
着地と同時に短剣が閃く。
一直線に白衣の女を狙っていた。
ティナが即座に割り込む。
短剣を掌で逸らした。
火花が散る。
金属音が室内へ響いた。
仮面の男はすぐに距離を取る。
無駄のない動きだった。
白い仮面には模様が刻まれている。
円形の中に三本線。
机の資料と同じ紋章だった。
仮面の男が静かに口を開く。
落ち着き払った声音だった。
「確認する。対象の確保は失敗したな」
感情の薄い声だった。
だが機械的ではない。
白衣の女は椅子を掴む。
わずかに震えていた。
「……来ると思っていたわ」
掠れた声だった。
仮面の男は視線を向ける。
「なら話は早い。研究資料を渡せ。お前は処分する」
淡々と告げる。
まるで業務連絡のようだった。
ティナは静かに前へ出る。
仮面の男との間合いを測る。
「こちらとしては、そう簡単に渡すつもりはありません」
落ち着いた声だった。
仮面の男の視線がティナへ向く。
数秒だけ沈黙が落ちる。
やがて小さく息を吐いた。
「……外部の協力者か。予定より面倒な状況だな」
その直後だった。
仮面の男の背後にさらに二人が現れる。
同じ黒装束。
同じ白い仮面。
砦の中へ、静かに侵入していた。




