79 住まい
その日の内に新しい住人達は自分の住まいを決めた。
将来家畜を飼いたい人達は北側に新しく設置した家畜が飼える広さがある家へと、他の人達は前からある村の側に設置した家へと落ち着く事になった。
家畜用の餌や人間が食べる野菜を作りたいという二家族も北側の場所となるべく近い所に住んで貰う事に。
設置された家は全て日本の昔ながらの家で、キッチンには竈門があり、風呂も五右衛門風呂が付いている。農家だったのか作業するような小屋も有る。
家具や、道具がそのまま家や小屋に付いており、布団や服も綺麗な物が押し入れに詰め込まれていた。
ヴィルさんがクリーンを掛けてくれていたので、全てが綺麗になっていたが、服等使わない物は縫い直したり、雑巾にしたり、処分していいと伝えた。
しかしこの島からは持ち出したり、この島に来る客に売ったりしないようにお願いした。
だって服の中には学生服なんかが入っていたのだ。多分前に住んでいた人の物だろう。
自分で手直して形を変えた物は売っても良いよと付け加えた。
生地は地球の機械で織られた物だからもしかすると皆の世界には無い織物だろうが、手縫いならそれ程問題無いだろう。
下着とシーツだけは新品の物を買って来て用意しておいた。昨日お風呂の前に皆に三枚ずつ渡した。
まだゴムが無い世界のようで、村人達に最初に下着をあげた時には履き易さにみな吃驚していた。それを聞きつけたヴィルさんも私の世界の買い物の時に自分の分を買い込んでいたのを私は見逃さなかった。
紐とゴムでは使い易さが違うよね。
家畜を飼う予定の人達の土地は広い。家はヴィルさんのご好意でタダで頂き設置までして貰っているので、家賃は頂いていないし、新しい人達からも当分貰うつもりはない。皆んなまだ払える収入も無いしね。
今は葡萄畑やサクランボワイン作りを手伝ってもらい、仕事量に合わせてヴィルさんの世界の人達が普通に貰っている賃金を渡している。
ヴィルさんが買って来てくれた彼らの世界の小麦粉や塩、薪等を私が買い取り、村人達は賃金でそれらを私から買って暮らしている。これで儲けるつもりは無いのでヴィルさんから買った値段に、渡したりするのを手伝ってくれる人への手間賃をほんの少し乗せてお渡ししている。
この島にも木は生えているが好きに切り倒されて薪にされると禿山になってしまうので、畑を作るのに切り倒す以外は許可を得るように伝えている。迷いの森の枯れたり倒れている木は薪にしていいとヴィルさんは言っていたので、その森から薪用に運んでいるようだ。
ワインが上手く作れる様になって、家畜も飼えて利益が出るようになったら、きちんと土地の広さに合わせて賃貸料、を払うようにとヴィルさんは皆に話していた。それに不服があるならばこの島から出て行ってもらう事になると。
前の島では賃貸料も税金も無く暮らしていた村の皆にはちょっと厳しいようだが、人数が増えて行くときちんとした決まり事が必要だとヴィルさんは私にも話してくれた。
夕方から新住人の歓迎会とスヴェンとリーザの結婚式が始まった。
白いシーツをドレス風に着せられ薄化粧を施されたリーザと、こちらも白いシーツをマント風に掛けられたスヴェンがお揃いの綺麗な花冠を頭に乗せられて真ん中に立たされた。
ヴィルさんから二人がいつまでも仲良くお互いに助け合い、今日の日を忘れないようにと祝いの言葉を貰い、皆からの盛大な拍手で祝われ、二人は花のシャワーを浴びていた。
照れながらも幸せそうな二人を祝福するように夜空の沢山の星も輝いていた。
歓迎会にはヴィルさんは勿論、屋敷の皆んな、道路工事のお客さん達と、この時まだ宿泊中だったワンコの飼い主のヘルツェバインさんも参加しての大所帯になって新しいメンバーを歓迎した。
島に居る全ての人がここに集まったのだった。
元の島の住人達との再会で喜び合い、亡くなった家族の事を思っては悼み偲んだ。
村のお母さん達と作った料理の数々にお魚やクラーケンの刺身外での美味しい肉のバーベキュー、自家製のサクランボのワインに買っていたパックの安いワイン達。デザートのサクランボ(同じくマジックの中の)のゼリーは種取り機を購入していたのが活躍した。赤い色が可愛いデザートは子供達に大人気だった。
新しいメンバーは今夜からもう其々の家で過ごすらしい。
十七歳のギードは祖父母と島の海岸近くに住んでいた。その祖父母はあいつ等に殺されたと保護された場所で聞いた。一人になってしまった。
島の皆と一緒に連れて来られたこの島で家を貸してくれるらしいが、広いよ。おじいとおばあと一緒に住んでいたあの家の何倍有るんだろう。二階まである。ここに一人で住むのか。
エルマーの父親のフランクおじさんがおじいとおばあの事を聞いて一緒に住もうと言ってくれたが、『ありがとうございます、でももう成人しているし、大丈夫です。』と断った。おじさんは『そうか、同じ島に住むんだから、何かあったらいつでもおいで』と言ってくれた。元の島の人達は温かい。
家の外を見て回っていたら「ギード!」と呼ばれ勢いよく抱きつかれよろよろと二歩後ろによろけた。顔を見てみれば浜で良く遊んだ三つ年下のクヌートだった。良かったあの時捕まらずに逃げれてたんだ。
「無事だったんだね、良かった。」
「俺は無事だったけど、ギードんとこのおじいとおばあが!うっ、うっ、うっ、ゔーーー」
「こら、俺が泣かないのに、泣く奴があるか、ほら涙をふけ。おじさんとおばさんは?無事なのか?」
「ゔっ、ゔっ、ゔっん、ゔじだぁーー」
「なら泣くな、良かった。また会えて良かった。」
「ゔあーん、ごめんよぉー!俺を逃してくれたからギードが捕まっちゃってー!ごめんよおおおぉ」
「また会えただろ、大丈夫だ。ほら、皆んな見てるぞ。もう来年成人だろ!又一緒に魚取りに行こう。なっ。」
「ゔっ、うん、うん、いっじょに行ぐ」
十三歳のコルビーは何処に住もうか考えていた。
動物は好きだけど、一人で飼えるかな?誰か教えてくれるかな?村の方に住むと魚を獲る漁師にもなれるって言ってたな。畑で野菜や芋を作っても良いんだって。種はくれるって聞いた。
何て大きな家なんだろう。ここに住めるの?一人で?ご飯どうしよう、焼けば何でも食えるか、火を通せば大体の物は食べれるって、親父言ってたよな。
昨夜宿で貰ったあの料理には吃驚したけど、美味かったなぁ、あれを作れるようになれたらいいなぁ。教えてくれるかな?
「ねえ、君、コルビー君だっけ?字が読めて計算が出来るんだって聞いたけど、うちの宿で働かない?」
「え?今泊まってる宿で?」
「そう、今道が広くなる工事してるでしょ。これから馬や馬車でやって来るお客さんが増えると馬の世話もしなくちゃいけなくて、人が欲しいの。貴方十三歳なのね?今うちで働いてくれてる子も同じ歳よ。どお?働いてくれる?」
「雇ってくれるんですか?」
「ええ、お願いできるかな?住む所はここでも勿論良いけど、宿で働いているテオって子は宿の側のお屋敷に私達と住んでるの、貴方も私達と一緒に住まない?」
「あの、そこで働いたら昨夜の料理も覚えられますか?」
「カレー?良いわよ、他の料理も覚えられるわよ。この家広くて良いけど、一緒に住んだ方が何かと教えられるわ。」
「んー」
「ここがいいなら、宿まで通ってもいいのよ、好きにして。ただ、家に帰る時は暗くなってる時もあるから、夜の道がちょっと怖いかも?」
「そっか、なら一緒に住ませてもらえますか?」
「ええ、いいわよ、ヴィルさんもそう言ってくれてるし。独り立ちしてこの村に住みたくなったらその時は言ってね。」
「分かりました。ありがとうございます。宜しくお願いします。」
「働いてて、他の仕事がしたくなった時にも遠慮しないで言っていいからね。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ貴方の部屋を用意して貰うわね。」
三歳のマルコは何処で攫われたか解らず、攫った者から買い取ったので船の者達も分からないと言っていた。
マルコは保護されていた場所でジーナという女性に懐き離れなくなった。ジーナは帰る場所が分からないマルコを引き取る事にしたが、子連れで元の場所に帰っても嫌な目で見られるだけ。仕事も有るか分からなかった。
攫われ、元の場所に帰れない者、帰りたく者を今いる所から少し離れた島の住人にしてくれると言う。家も用意してくれると言うので雨風が防げるなら何とか生きていけるだろうと希望した。
来てみれば風呂付きの宿に驚いた。湯に浸かれるようになっていた。初めての温かい湯にホッとした。食べた事の無い料理も吃驚する程美味しかった。
そして自分の住む事になる広い立派な家に吃驚した。家の横にはこれまた広い畑が用意してある。海に魚や貝を自由に取りに行ってもいいと聞いた。何て欲の無い地主さんなんだろう。前の所では一部の場所しか獲る事ができなかったのに。
当分の麦や野菜は地主さんとその友人の伯爵様が与えて下さると聞いてまた吃驚した。保護してくれていた騎士さんの偉い人から当分の食料を買うお金も皆が一人ずつ貰っているのに。あの船から徴収したお金だから遠慮はいらん、攫われた者達が貰うべき補償金だと言われ受け取った。その事もあの伯爵様は知っておられると言うのに。慈悲深いあの方達に深く深く感謝した。
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