80 葡萄の収穫
ロッジの近くに在るヴィルフリートの屋敷には数日前から二人の住居人が増えた。
一人は由美の宿の手伝いをしてくれる事になった十三歳のコルビー少年、そしてもう一人はエーリカ・ド・コストマンと言う家名を持つ二十三歳の女性だ。
ヴィルフリートは彼女を侍女としてこの屋敷で雇う事にした。
エーリカは以前コバルト王国の侯爵家の侍女をしていた子爵家の四女だった。
ある日エーリカは侍女長の使いで他家に品物を届け帰る途中、普段は人通りのある道で後ろから来た馬車に拉致されてあの船に売られて来た。
あんな場所で攫われるなんて思いもしなかったと彼女は言っていた。
何故犯人達は人通りのある場所で危険を犯して攫ったのだろう?通行人に攫った事が知られてしまうだろうに。
馬車も目立つ飾りが付けられていたそうだ。そんなに目立つ馬車ならば門を出る時にも人目をひくはずだ。
態と目立たせた?攫った者達は彼女が攫われた事を人に見られ、気付かれる必要があった?・・・彼女に瑕疵をつけたかったから?
疑問に思いヴィルフリートはその話を聞いて調べた。
エーリカはクルトニコス王子の生まれた国のコバルト王国のコストマン子爵家の四女である事が確認出来た。
彼女は侯爵家の三男に見初められ半年後にその彼との結婚が決まっていたと言う。
たまたま彼女が攫われる所を侯爵家の下働きの男が目撃して侯爵家と三男の職場の騎士団にも知らせが行った。
攫った馬車は姿を消し何処の門からもあの派手な飾りの馬車が通ったという目撃者がなかった。
その後伯爵家の三男と彼女の婚約は解消された。エーリカが攫われて帰って来ない為だった。
この世界では女性は攫われただけで瑕疵が付いてしまう。
瑕疵がついた女性は普通に結婚出来ない者と考えられ、修道院に入れられる。
もし結婚出来ても妻を無くした老貴族の後妻や、曰く付きの貴族の元に嫁がされるのだ。
婚約解消から三ヶ月後、侯爵家三男の新しい婚約者が決められた。その相手はエーリカをあの日使いに出した侍女長の歳の離れた妹だという情報がヴィルフリートの元に入って来ていた。
エーリカは三男に見初められたと言う話だったのに、これ程早く新しい婚約者が決められるものだろうか?とヴィルフリートは思った。
八月に入り葡萄がしっかり色付いた。その場でもぎ取り口に入れると甘い!
美味しい!濃い紫色の葡萄はもう収穫時だ。
村に明日から葡萄の収穫をする事をコルビーに伝えに行って貰った。
一反(約千平方メートル)三百坪程の広さの畑で、赤いワイン用の葡萄畑が八反、白ワイン用の葡萄畑が八反、合わせて十六反の畑に沢山の葡萄が実った。
村の男性達は成人の殆どが道路工事の仕事に行っているので、村の女性達と子供達、それから新しく住民となった皆んながぶどう狩りとワイン作りに参加してくれた。
葡萄畑は頭上に広がる枝葉の下に葡萄が実っている日本様式ではなく、何処かの外国で見た一列にずーっと並んだ葡萄の木と同じように、一本一本に太陽がよく当たるように列にして植えた。
手を挙げて上を見て高い所の実を収穫するとキツイと思いこの植え方にした。この方が効率が良いと思う。
女性達が十六人、工事に参加していない十五歳以上の男性達が九人と十代の子達もが参加してくれた。
ドワーフのエトムントさんとゲラルトさんもしっかりメンバーに入っていた。いや皆んなよりも張り切っているように見えるのは気のせいだろうか。
ウォルトとクルトも参加してくれているが、ヴィルさんはお仕事に出かけている。
お母さん達には三人ずつ交代で小さな子供達のお守りをしてもらった。二人の女性とテオとコルビーには食事を作って貰っている。
午前中に赤ワイン用の二反の畑の葡萄を収穫してワイナリーに運んでもらった。コンテナに入れた葡萄をねこと呼ばれている一輪車に乗せてワイナリーまで運ぶのだが、これが大変な力作業だ。
ねこは四台有るが、コンテナは三つしか積めない。沢山積むと坂道を押して登るのが厳しいのだ。
畑迄の道は畑を作る時に広めにヴィルさんがささっと作ってくれているので軽トラでも買って葡萄を運べるようにするといいのだが、車をこの島に買って来るのは難しい、というか運んで来れないという現実があるので、現状ねこで頑張るしかない。
でも十三歳と十四歳の男の子達が訓練だと言って競争してはしゃぎながら楽しく運んでくれていたので、これはこれでいいのかもしれない。
ちなみに、車の免許は私は学生の時に取って、仕事でも時々運転していたので一応ペーパーではないのだが、披露する場が無く運転を忘れてしまいそうだ。
それから皆んなで昼食をとって午後からも収穫に行く。
二日で赤ワイン用の葡萄は収穫が終わった。ワイナリーの倉庫に山と積まれた葡萄の入ったコンテナ。
白ワイン用の葡萄は来週位には収穫出来るかな、もう少し様子見だ。
さてさて、今日は葡萄をふみふみして潰していくのだ。
これは子供達に率先してやって貰う。
あのワインの有名な産地では昔、若い女性達が葡萄踏みをしていたので、女性達にお願いしようと思うと屋敷で話をしていたところ、なんとヴィルさんの国では女性が男性の前で素足を晒すのは御法度だと、女性には絶対に葡萄踏みはさせないように固く屋敷の侍女のクリスタさんに注意されてしまったのだった。
なので元気な子供達に足を洗って、アルコール消毒をしてからふみふみして貰う事にした。
子供達に足を綺麗に洗ってねと言っていたらエーリカさんが子供達にクリーンを掛けてくれた。
凄い、エーリカさん魔法が使えるのですね、と話していたらなんとウォルトとクルトもクリーン魔法が使えるようになったらしい。レイラとロウに其々掛けてあげていた。
自分達にも裸足の足になって体全体にクリーンを掛けてズボンは膝上迄捲りあげて準備していた。やる気満々だね。食べ物を踏みつけるという普段では考えられない行動に魅力を感じているのだろうか、それとも何か鬱憤を溜め込んでいるのだろうか、小中学生の年齢ならば初めての事には色々興味が湧くのだろう。存分に楽しんでくれたまえ。
レイラは今日は膝上のズボンを履かせた。
貴族では小さな女の子も足を出さないのだと聞いたが、レイラは平民だし、いいだろう。村の皆んなに聞いても気にしないと言っていたし、大丈夫。
一般家庭のお風呂の浴槽の二倍程の広さの盥の中に葡萄を入れると、クリーンをしてもらった綺麗な敷物の上で待機していた子供達が中に入り嬉しそうに葡萄を踏んで潰していく。
葡萄を足で踏んだ感触が面白いのか小さな子供達はキャッキャッと騒いで盥の中を行進しているが、少し大きな子達は盥の中に入るなりウェッと言うような顔になっている。葡萄のニュルッっとしたあの感触が裸足の足に不快な感覚を与えているのだろう。
シミになっても良い服で来るように言っていたが、白っぽい服の子は既に紫色の模様があちこちに付いているが、笑顔ではしゃいでいる子供達を叱る人は今日は誰もいない。沢山汚してもいい日なのだ。
ロウは足だけではなく手でも葡萄を掴んで潰している。そして出てきた緑色の中身を口の中に入れて「おいちい」と言って最高の笑顔を私に向けた。うん、可愛いことこの上なし。沢山楽しんでおくれ。
食べても怒られないロウを見て、他の子供達も潰れていない葡萄を味見していた。「「「「「あまぁーい」」」」」
子供達の声が揃った。
「しっかり働いてくれるなら好きなだけ食べていいよ。お昼ご飯が食べれる分のお腹は空けておくんだよ。」
収穫した濃い紫色の葡萄は何キロあるかを計ると九千百キログラム、つまり九トンも収穫出来たのだった。凄い量だ。
これを今日中に潰してしまいたい。
子供達だけでは今日中には無理だろう、大人も大きなバケツに葡萄を入れて、木のマッシャーでどんどん潰しては仕込み樽の中に詰め込んでいった。
子供達の潰した葡萄も大きな杓子で掬いバケツに移しては仕込み樽の中へとどんどん運んでいった。
子供達の踏んでくれたものは他のと別にして、初年度の記念として少し取っておこうと思う。いいワインにおなり。
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