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夕焼けの散花  作者: 智枝 理子
Ⅴ.光の花と贈り物
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06-1 Fleur étincelante

王国暦六〇〇年 ヴェルソ三日

 

 月が南中する深夜。

 闇の魔法で全身を覆う。

「こんな感じで良い?」

『大丈夫だ』

 闇の魔法の効果は絶大だ。暗い場所で使うと、本当に誰からも見えないらしい。

 でも、まだ魔法の扱いには慣れない。もっと練習して感覚を身に付けないと。

 窓を開いて、周囲を見回す。

『下には誰も居ない』

 ロープを窓の外に垂らす。

『周囲を警戒しておこう』

「お願い」

 引っかけたフックを確認して、手袋をはめた手でロープを掴み、壁に足を着けながらゆっくり下に降りる。

 ……着地。

「メラニー。顕現してフックを取って来て」

『了解』

 顕現したメラニーが俺の部屋まで飛んで行って、ロープのフックを外す。

 降りてきたロープを丸めて草むらに隠し、顕現を解いたメラニーと一緒に走る。

「どこで打ち上げたら良いかな」

『人の気配は少ない』

「校舎の前でも平気?」

『おそらく』

 なるべく広い場所の方が安全だから。

 

 ……この辺かな。

 背負っていた発射用の筒を地面に置き、筒に付けておいた杭を打ち込んで固定する。それから、別で持ってきた玉を静かに中に入れる。

 上手く行きますように。

 点火剤に火をつけて、筒の中に放り込んで手を引いた瞬間、筒から勢いよく光が昇って行った。

 宙を見上げる。

 

 細い三日月の横。

 夜空に菫色と碧色の小さな花がたくさん咲く。

 光に少し遅れて、弾けるような爆発音が鳴り響いた。

 

 成功。

 初めての打ち上げ花火だ。

 アレク、見てるかな。

『エル、急ぐぞ』

 打ち上げ花火の筒に水の玉を放り込んで、闇の魔法で隠れながら宿舎に向かって走る。

 急いで部屋に戻らないと。

『エル。魔法を解いてシャルロの部屋の下に行け』

「シャルロの部屋?」

 魔法を解いて宿舎に近づく。

「エル」

 声が聞こえた方を見上げると、シャルロの部屋からロープが降りて来た。

 滑車付きのロープ?

「ちゃんと捕まれよ」

 滑車の下にぶら下がっているロープに足を乗せて、ロープに捕まる。

「準備は良いか?」

「良いよ」

 ロープごと引っ張り上げられると、花火を発射した場所に人が集まってるのが見えた。

 闇の魔法で姿を隠しておこう。

 落ちないようにしっかりロープに捕まって、引き上げてもらった先。窓から中に入って魔法を解くと、ロープを引いていたカミーユとシャルロが大きく息を吐いてその場に座り込む。

「思ったよりも重たかったぞ」

「滑車を使った分、重さは半分のはずだ」

 この前、勉強したな。

 定滑車と動滑車の使い方。

『誰か来る』

「誰か来る?」

「片付けるぞ」

 シャルロが動滑車のついたロープをまとめて箱に入れてる。

「エル、肩車するから上の滑車を外せ」

「わかった」

 カミーユの肩車で天井のフックから下がっている定滑車を外してシャルロに渡し、肩車から降りる。

 シャルロが俺の渡した定滑車を箱に入れて上から布をかけると、ノックの音が鳴った。

「どうぞ」

 部屋の扉が開いて、警備員が顔を出す。

「何か御用ですか?」

 シャルロの言葉に、警備員が部屋の中を見渡す。

「消灯時間は過ぎている。各自、部屋に戻るように」

「はーい」

「ん」

 警備員が扉を閉じて去ると、カミーユが息を吐く。

「間に合ったな」

「なんで、こんな時間に警備員が?」

「あのなぁ。俺たちは目をつけられてるんだぜ。花火なんて上げたら、絶対に俺たちの仕業だって思われるだろ」

「俺たちが中に居るか確認しに来たんだろう。寮に戻るには警備員室の前を通らないと無理だからな」

 つまり……。

「俺が部屋に居なかったらやばかったってこと?」

「今さら気づいたのかよ」

「どうやって宿舎に戻るつもりだったんだ」

「ロープで上るつもりだったよ。外に出る時もロープで出たし」

「お前みたいに非力な奴が、ロープで上る、だって?」

「のんびり上ってたら警備に見つかるぞ」

『闇の魔法で姿を隠していても、光が当たれば解けるからな』

 光に当たっちゃいけなかったのか。

 天井を見上げる。

「あんなの、部屋にあるっけ?」

「俺とシャルロで取り付けたんだよ」

「なんで?」

「お前を回収する為に決まってんだろ」

「自力で戻る気があったなら、縄梯子ぐらい用意しておけ」

「考えてなかった」

「いい加減、後先考えずにやるのはやめろ」

「だって……」

 困ったら、二人が助けてくれるから。

 あれ?

 なんで、そう思うんだろう。

 二人が助けてくれる保証なんてないのに。

「何だ?」

「言いたいことがあるならはっきり言えよ」

 むしろ、俺の思い付きや実験に巻き込まれて、しょっちゅう外出禁止令を食らったり課題や補習を出されたりしてるのに。

 なのに、いつも助けてくれる。

 いつも、一緒に居てくれる。

 いつも……。

「次からは、ちゃんと相談するよ」

 二人が顔を見合わせて笑う。

「その方が楽だ」

「そうだな」

 これからも。

「もう一回、花火を打ち上げたいんだ。今度は卒業式」

「アレクシス様の御卒業の日か」

 アレクの卒業式はヴェルソの十五日。

「今度はもっと上げられるかな」

「お前なぁ……」

「詳しいことは明日だ。今日はもう部屋に帰れ」

「了解」

「ん」

 また、明日。

 

 


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