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夕焼けの散花  作者: 智枝 理子
Ⅴ.光の花と贈り物
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05 Cadeau sincère

王国暦六〇〇年 カプリコルヌ二十九日

 

 放課後。完成したオルゴールを持ってアレクの部屋の前に立つ。

 居るかな。

『アレクなら部屋に居るぞ』

「他に誰も居ない?」

『一人だ』

「ありがとう」

 良かった。

 ノックしようとしたところで急に扉が開いた。

 花屋みたいな花の香りが広がる。

「そんなところで何をしているんだい」

「アレク」

 そっか。

 アレクも闇の精霊を連れてるから、俺が来たことが分かるのか。

「すごい花」

 部屋中に花が飾られてる。

 全部、誕生日のプレゼント?

「おいで。コーヒーを淹れよう」

「要らないよ。もうすぐ出かけるんだろ?」

「まだ行かないよ」

 やっぱり、今日から城に戻る予定なんだ。

「これ」

 持っていた包みをアレクに渡す。

「少し早いけど。誕生日おめでとう、アレク」

 アレクが微笑む。

「ありがとう。可愛い包みだね」

 ラッピングは今日、ユリアがやってくれた。

「開けても良いかい」

 頷くと、アレクが包みを開く。

「バイオリンの……。オルゴール?」

 頷く。

「珍しい」

 アレクが微笑んで、オルゴールのねじを巻く。

 ……綺麗な音。

 やっぱり、この曲にして正解。

「ベルスーズだね。私も好きな曲だよ」

 良かった。

「これ、開くと小物入れになってるんだ」

 って言っても、オルゴールの横だから、大したものは入らないだろうけど。

「それから、この台に乗せると飾っておくことも出来る」

 箱の中から丸い台を出して、バイオリンの形をしたオルゴールを乗せる。

 余ったパーツで作ったのだ。

「エルは器用だね」

 器用?

「俺が作ったってわかる?」

「もちろん」

 アレクが俺の頭を撫でる。

「ありがとう。大切にするよ」

 喜んでくれたみたいだ。

「エルに渡したいものがあったんだ」

 アレクが窓辺から何かを取る。

「月の石?」

「そうだよ。砂漠に研修旅行に行った時に買って来たんだ」

 これ、そんなに前から持ってたのか。

 月の石は砂漠の月の渓谷にしかない石だ。と言っても、そこまで貴重品ではなく、砂漠では土産物として普通に売られている。

「月の力で満ちた月の石は淡く光るって聞いてね。エルは見たことがあるかい」

「あるよ」

 あの精霊が月の渓谷で見せてくれた光。

「良いね。私も見てみたくて、ずっと月光浴を続けているのだけど。なかなか光ってくれないんだ」

「ずっとって、一年以上?」

「そう」

 アレクが頷く。

 もしかしたら、ここは、あの場所より月の力を集めにくいのかもしれない。

「卒業して城に戻ると忙しくなってしまうから。私の代わりに月光浴を続けてくれないかい」

「良いよ」

 アレクから月の石を受け取る。

「光ったら教えれば良い?」

「そうしてくれると嬉しいかな。城にはいつ遊びに来ても良いからね」

「それ、本気で言ってるのか?」

「もちろん。エルが来てくれるなら、いつでも時間を作るよ」

 アレクは優しい。

 でも、そう簡単に会いになんて……。

「エルは可愛い弟だからね」

 アレクは王子なのに。

 いつも、こうだ。

 いつまでも甘えてはいられないのに。

「どうしても会いに行きたかったら、会いに行くよ」

「今度は図書室の案内もしてあげるからね」

 ……それは、興味がある。

 この前の舞踏会の後は、アレクの書斎を見せてもらっただけだから。

 書斎は事務的な資料がほとんどで、俺が読むようなものはなかった。

「今日から城に戻るんだろ?」

「そうだね。公務だから戻らなくちゃいけない」

 公務なのか。

 祝われる日なのに、アレクにとっては面倒な行事らしい。

「アレク。ヴェルソの三日になる夜。日付が変わる、月が南中する時間に養成所の方を見ていて」

「深夜に?」

「お願い」

「わかった。城から西の方角を眺めているよ」

 絶対に成功させよう。

 誕生日の当日に、お祝いしたいから。

 

 ※

 

 部屋に戻って、窓辺に月の石を置く。

 光るかな。

 砂漠で見た奇跡のようなあの色に。

 アレクが望むなら見せてあげたい。

 でも、あれは満月の日だった気がする。

 この前の満月の日は光ってなかった。

 次はどうかな。

 次の満月。

 ヴェルソの十五日は、アレクの卒業式だ。

 

 


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