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58話 その後1





「・・・・・・はっ!」


 小柄な冒険者、スネイルは体を起こした。手足を見ると、どす黒く変色していた皮膚が、綺麗に元通りになっている。


「兄貴っ! 兄貴っ!」


「むにゃ?」


 スネイルが隣で倒れていた大きな図体を揺すると、カイザーも目を覚ます。


「兄貴っ! ドラゴンゾンビはどうなったんですかい?」


「ん? ・・・・・・さぁなぁ?」


 二人で周囲を見回すと、地面に突き刺さるように立っているカイザーの剣があった。近づくと、その剣の周りに、ドラゴンの骨らしきものが散乱している。


「兄貴ぃ! 兄貴の大剣、核に突き刺さっていますぜ! さすが兄貴っ! 殺ったんですね!」


 カイザーの剣は、何かドラゴンとは別の、魔獣の素材に突き刺さっていた。かなり魔力を放出したせいか劣化しているが、上級素材に間違いはなさそうだった。


「んー、よく覚えてねーけど、この状況だと、まあ俺がやったんだろうな」


 カイザーは素材から大剣を引き抜こうとする。すると、その大剣がピカピカに輝いている事に気が付いた。


「・・・・・・あれ? 俺の剣 もっと傷だらけだったよな?」


 そこでスネイルは、指をぱちんと鳴らした。


「そうか! あれですね! ミスチェルで起こった奇跡! あれは、やっぱり兄貴の技術(スキル)だったんすね! ひと眠りすれば、自分を含め周囲を回復する! しかもそれは、人間だけじゃなく、物まで新品のように回復させるっ! あっしと自分を回復させて、さらに、剣までもっ! さすが兄貴っ!」


「・・・・・・ふっふっふ。剣士なのに、回復技術(スキル)を持っているのは、俺くらいのもんだぜ。カイザー流 超回復術と名付けるぜ」


 カイザーは、ミスチェル王国にて、一晩で重症の騎士団全員と、自分が完全回復する奇跡に遭遇していた。もちろん、田渕がやった事である。



 カイザーが、残されたドラゴンの骨を物色していると、通りの向こうから、鎧を身に纏った騎士達が走って来る。それに気が付いたカイザーは、肩の埃を払い、身なりを整えた。


「・・・・・・? どうしたんでさぁ、兄貴?」


「ふん。街を救ったんだ。そりゃ、もう一度 王城へ招かれて、勲章でも貰えんだろう」


「そ・・・そうっすね! さっすが兄貴ぃ! あっしも鼻がたけーや!」


「何言ってんだスネイル。ほら、お前も服の汚れを払え。記念すべき『カイザーズネイル』の、初討伐なんだからよ」


「あ・・・・・・兄貴ぃ! あ・・・・・・・あにきぃぃぃ!」


 スネイルは、鼻水を袖で一度拭うと、騎士団に向かって、胸を張った。



 この後、カイザーの予想通り、『カイザーズネイル』は、このジュディ王国より、ドラゴン討伐と王都防衛の功績により、勲章を賜る事になる。



                 超武闘筋肉伝カイザーズネイル 続く



     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆




 数時間後 夕刻 魔法学院 食堂


「う・・・・・・う・・・・・・うまぁ・・・・・・」


バタン


「学院長! ドナさんが気絶しましたわ!」


 フィオナが揺すると、ドナは目を開けた。慌てて椅子に戻ったドナは、マナーも忘れて、皿の上に乗った肉を頬張る。


「ドナさん、はしたないですわ・・・・・・」


 顔をしかめるフィオナの周囲では、平民のドナだけでなく、貴族の息子や娘までも、肉にがっついている。


「まあ、確かに・・・・・・」


 フィオナも自分の皿に向かい、ナイフとフォークで肉を切り分ける。その肉は、ナイフで無くとも、例えば人差し指だったとしても、切り分けられる程に柔らかい。


 霜降り肉を口に入れたフィオナは、体を震わせてうっとりとした表情をする。


「お・・・・・・美味しいですわ・・・・・・。こんなお肉があったなんて・・・・・・。ブラックボアでさえも、これに比べたら・・・・・・」


 意識が飛びそうになるのを、公爵の娘のプライドでフィオナは何とか堪えた。


 フィオナの向かいに座っている学院長ことサリアも、落ちそうなほっぺを手のひらで押さえ、幸せそうだ。


「美味しい・・・・・・。こんな魔獣がいたなんて・・・・・・。黒毛和牛を越えているわ・・・・・・」


「間違いないお」


「黒毛和牛は僕食べた事無いけど、本当に美味しいね! 甘いっ!」


 大家と田渕も、テーブルでステーキを堪能していた。


 食堂には、一年生から三年生、総勢百五十人がおり、全員がステーキを食べている。一人当たり五百グラムと、かなりいかつい量なのだが、十六歳から十八歳の若者なので、残す生徒はいないようだ。


 もちろんこの肉の正体は、田渕達が倒した、黒牛こと、ベヒーモスの肉だ。田渕の狙い通り、今まで食べたどんな肉よりも美味しい物だった。


「大家さん、内緒でこのお肉、もう少し欲しいなぁって」


 学院長が猫なで声で言うが、大家は首を横に振る。


「ダメだお。ナンの村の皆にも食べさせたいし、エンの村には、二百人も村人がいるお」


「あと、ミスチェルのマリーさん達もだね。それでも・・・・・・全然余るかも」 


 田渕がそう言うのを聞くと、学院長の目が光る。


「余ったら、お願いね。シュークリームとエクレア、新作のレアチーズケーキも、沢山用意して待っているから」


「ほう。それは悪くない交換だお」


 大家も、じゅるりと涎を垂らしそうになりながら、にやりと笑った。


 ドナが、最後の一切れを口に放り込み、もぐもぐとしながら聞く。


「でも、本当に、このお肉はどんな魔獣のお肉なの? タブチとオーヤに倒せるのなら、私達も捕まえに行きたいな」


 ドナの視線に、フィオナはうんうんと頷いてから言う。


「ただ、肉の量からして大きいのですわよね? Dランク魔獣で、そんな巨体の物、いたかしら・・・・・・?」


 学院長も、フォークに刺した肉を見ながら口を開く。


「田渕があっと言う間に解体していたから、全体像は見れなかったのよね。でも、あの黒い肌、どこかで見たような気がするんだけど・・・・・・。確か、王城の書庫で・・・・・・古い本に・・・・・・」


 首を傾げながら、学院長は肉を口に入れる。


 田渕は、親指を立てて見せながら、ドナ達に言う。


「多分、レアなだけで、見つけたらドナやフィオナさんなら、すぐに狩れるよ!」


「うむ。せいぜい、ゴブリン程度の強さだったお」


 大家も頷く。


「なら、いけそうよねー」


 笑うドナとフィオナの横で、学院長は唇を歪ませて不思議そうな顔をする。


「それが分からないのよね。この子達が、本当にゴブリンに苦戦するのかしら?」


 そう呟いた後、学院長は田渕達に聞く。


「黒牛と私、どっちが強かったの?」


「もちろん黒牛ですよ。だって、黒牛は本気で襲って来ましたから!」


「うむ。びりびり攻撃じゃなく、火の攻撃とかだったらやばかったお」


 そう言われ、学院長は「私も本気だったんだけど」と、小声でつぶやいた。





 翌日、田渕と大家は、ドナとフィオナ、そして学院長に見送られ、ジュディ王都を後にした。二人は徒歩で、城門より出て行った。


 小さくなった二人の背を皆ながら、フィオナが言う。


「アスカ国までの馬車、本当に良かったんでしょうか・・・・・・」


「なんでも、森で薬草を採取して帰るらしいよ。村にすぐお腹が痛くなるおじさんがいるんだってさ」


 ドナは、肩をすくめて笑った。


「でも、ティーラル大森林が近い森で、大丈夫かしら・・・・・・」


 フィオナがそう言って学院長の顔を見るが、学院長はまったく心配顔をしていなかった。


「大丈夫でしょ。あの子達なら、私達が躓(つまづ)いた大魔族(中ボス)より先にいけそうだから。きっと」


「ちゅうぼす?」


 不思議そうにするフィオナの横で、目をキラキラとさせてドナが口を開く。


「そう言えば、今回 ドラゴンゾンビを倒した冒険者よりも、四英雄は強かったんですか? 魔滅の聖騎士レゼット様や、疾風の剣聖ミルディン様は」


 すると、学院長はくすくすと笑った。


「あこがれるなら、ミルにしておきなさい。レゼットは、もう六十歳のおじさんよ。当時から、ずば抜けて歳食ってたんだから」


 そう言った後、学院長は空を見上げた。


「それに、ミスチェルの冒険者がドラゴンゾンビを倒したのを目撃したのは、田渕と大家だけなのよね。まったく、あの二人は・・・・・・」


 学院長の、口元は緩んだ。


 その後ろで、少し俯き気味に何かを考えていたフィオナが、学院長に言う。


「ところで学院長、ドラゴンゾンビですけど、召喚するには、大掛かりな魔法陣が必要なはずです」


 それを聞いたドナも、続けて言う。


「王城側で出現した。これは、つまり・・・・・・?」


 すると、学院長は厳しい顔で二人に言う。


「それ以上は止めておきなさい。首が飛ぶわよ」


 言われて、口を結んだドナだったが、眉間にしわを寄せて口を開く。


「じゃあ、北の森で、一度集まった院生達が、教諭の指示で再び散開した件ですけど、ヌーノ先生の姿が見えないのと関係が?」


「・・・・・・あなた達が気にする事じゃないわ」


 学院長はそう言うと、くるりと向きを変え、小さく見える王城を眺める。


「私を怒らせた事を、覚えておきなさいよ」


 そう言うと、王城に向かって腕を伸ばし、手をピストルに見立てて人差し指を王城へ向ける。


「バァーン!」


 そう言って、学院長は微笑んだ。


 ジュディ王都に、平成初期のノリが炸裂した。




次話は 4/16 本日23時投稿です

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