57話 討伐ドラゴンゾンビ
「よーし! ・・・・・・って、なんだか、この剣、ボロボロだなぁ」
刃こぼれが酷く、表面に細かいヒビもあった。刀身以外には装飾が入り高級そうなのだが、どうやらかなり年季の入った大剣のようだった。
この剣は、カイザーの貯金をはたいて買った剣なのだが、もちろん強面のカイザーがぼったくられた訳ではない。
この剣は、聖剣と打ち合っても壊れず、ドラゴンの首さえ落とせると伝わる剛剣なのだが、使い込まれてもう寿命間近と言う事で、カイザーは激安で手に入れた。それでも、全貯金を使わないと買えないような高価な剣だったのだ。
「♪私とあなたの仲は、修復よ♪」
田渕が歌うと、あっと言う間に大剣は新品のようにピカピカになり、全ての傷は消え去った。
新品の大剣を携え、田渕はドラゴンゾンビの足元へ走り寄る。
「えいやっ!」
ズバッ
ドラゴンゾンビの足に深い傷が入ったが、すぐそこに紫の瘴気が集まる。
「とわっ!」
振り下ろされてきたドラゴンゾンビの左の掌を、田渕の剣が縦に二つに切り裂く。
「よーし、このリーチがあれば、防護服も安全だ。でも・・・・・・」
ドラゴンゾンビが負った傷は、すぐに修復されてしまった。
ドォーン ドォーン
上方では、大家のロケットランチャーが炸裂するが、やはりドラゴンゾンビには、炎属性に近い爆発攻撃のような物は効かないようだった。
魔法をほぼ完全に遮断し、物理攻撃は通るが、傷ついた体を瞬時に再生する能力がある。ドラゴンゾンビは、非常にやっかいな敵だった。
「この紫の煙をなんとかしないと・・・・・・」
ガキンッ ガキンッ
ドラゴンゾンビの爪を、田渕は何度も大剣で跳ね返す。ドラゴンゾンビは右腕が使えず、左腕一本だけなので、剣のど素人の田渕でもなんとか防ぐことが出来た。
「傷は再生するのに、どうして右腕が無いんだろう? 生まれつき?」
ドラゴンゾンビの体や爪は、大剣に傷を入れられても、すぐさま傷が消える。そんなドラゴンゾンビだが、右腕の肘から先が失われているのが気にかかった。
そこに、大家の声が聞こえて来た。
「ドール! 右腕が再生を始めているお! 早く勝負を決めるおっ!」
「ええっ! そんな事を言われても・・・・・・」
忙しい田渕と違い、大家は屋根の上からゆっくりと観察出来た。他の傷に比べるとかなりゆっくりだが、ドラゴンゾンビの右腕は、徐々に伸びていっていた。
「妙だお。どうして右腕の再生が、あんなに遅いんだお? 紫の煙の動きも、あそこだけ変だお」
紫の瘴気は、ドラゴンゾンビの右腕に、上手く纏わりけないようだった。何かの力で阻害されているようで、例えるなら、虫よけによって、虫が近づけないような感じだ。
「誰かがやったとしたら、あそこに倒れている でかい冒険者だお。奴はどうみても魔法タイプじゃなく、剣士だお。鼻もげドラゴンは、魔法に強いから、やはり物理攻撃が弱点?」
大家に、うっすらとだが、何か閃くものがあった。
「ドール! 剣のスキルを使ってみるおっ!」
「おっけー! ♪あなたとバチバチ踊りましょう。始まる・・・・・・」
田渕の姿が消えた。
「剣の輪舞♪」
田渕の体が、分身して見えた。すさまじい数の剣撃が、ドラゴンゾンビの体に刻まれていく。
グォォォン
ドラゴンゾンビが嫌がるそぶりを見せた。首を仰け反らせたかと思うと、口から濃い紫の瘴気を田渕に向かって吐く。
「うぉぉぉ!」
田渕の剣の速度が更に早くなる。ドラゴンゾンビが吐いたポイズンブレスは、田渕の剣の輪舞によって、散り散りに霧散した。
「―――っ!」
田渕は、後ろに飛び退った。今まで田渕がいた場所を、ドラゴンゾンビの右腕が横薙ぎに攫う。まだ完全では無いが、ドラゴンゾンビの右腕は、手首まで再生され、攻撃に使えるようになっていた。
「やったけど・・・・・・軽い。どうしよう、アニー」
剣の輪舞は速度に特化した技で、人間相手では十分だが、巨大なドラゴンの手足を切断するには威力不足だった。
だが、大家の予想通り、剣スキルによって切り裂かれた場所は、再生阻害が起こっているようで、田渕によってずたずたにされた足では、進むことが出来なくなったようだった。
「もっと凄い威力の剣の技は無いのかおっ?」
「無いよアニー!」
田渕は即座に返答する。
ハニハウの楽曲の全歌詞から、任意の言葉を抽出する田渕の検索能力は、スーパーコンピューターを凌ぐと、お助けメカ(ハニハウのファン達)の間では有名である。
「待てよ・・・・・・。もしかすると、あれなら・・・・・・」
田渕は、ドラゴンゾンビの懐に再度飛び込むと、大剣を引いて構え、左足を曲げ、右足一本で立った。
「♪お父さんのソフトボール、嘘でしょ一本足打法なの?♪」
ブンッ
田渕は、歴史に残る大打者の如く、鋭く大剣を横に振った。
ザンッ
田渕の大剣は、大きなカマイタチのような残像を発生させ、ドラゴンゾンビの鱗を易々と、深く深く切り裂いた。
ドラゴンゾンビは一度体を前にくの字に曲げてから、体を仰け反らせた。すると、腹が横にぱっくりと大きく開かれ、裂け目から大量の紫の瘴気を血のように放出させた。
「やった! これで・・・・・・」
田渕は距離をとって眺めるが、田渕の思いとは違い、ドラゴンゾンビは倒れる気配がない。
「し・・・・・・死なない? これでも?」
しかし、屋根の上にいる大家が、ドラゴンゾンビの腹の底にある、何かを見つけた。
「ドールっ! お腹に、お腹に何か・・・・・・」
紫の瘴気が一斉に噴出された時の濃度のムラで、一瞬見えた何かだったが、すぐに新たに湧き出てきた紫の瘴気に取り囲まれ、見えなくなった。だが、大家の目には、その何かが、紫の瘴気を生み出しているように見えた。
「お腹の中のあれが、本当の核かもしれんおっ! 突っ込めドール!」
「いや無茶な・・・・・・。なんか今日のアニー、人使いが凄く荒いような・・・・・・」
ドラゴンの両腕はまだ健在である。紫の闇のような腹に飛び込み、中でもたもたしていれば、爪の一撃で確実に防護服が損傷してしまう。
「いっけーいけいけドぉール! やっれーやれやれドぉール! つっこめぇー!」
大家は屋根の上で、フライパンをオタマで叩いている。
「追撃されないためには・・・・・・、そうかっ!」
田渕は、何やら閃いた。
「♪会いに行くわ、逆バンジー♪」
ダンッ
田渕は、地面を蹴ったかと思うと、目にもとまらぬ速さで空高くに飛び上がった。
「防護服がダメになっても、鼻がもげる前に突き抜けたら良いんだ!」
田渕は、空中で身を翻し、頭を下にした。
「♪あなたへー、急速接近んー♪」
ドンッ
剣を構えた田渕は、磁力で引っ張られたかの如く初速から超スピードで、急降下してドラゴンの腹の大きな裂け目に向かう。
「アニー!」
「おっけードール!」
すでに用意していた大家が、ロケットランチャーを腹の裂け目に向かって発射した。腹の中で爆発すると、紫の瘴気が動き、田渕の目にも、何かの物体が見えた。
「・・・・・・あれはまさか、僕達が持ってきた・・・・・・カニの素材? どうしてあんなところに」
ドラゴンゾンビの腹の中に、何故か、田渕が魔法学園の講師であるヌーノに渡した、S級魔獣 レッドインセクギリーの素材があった。
「カニの殻が腐ったから臭い? 良く分からないけど、あれを壊せば・・・・・・」
だが、紫の瘴気が動き、レッドインセクギリーの素材を再び隠してしまった。
「わわっ! ・・・・・・一か八か、適当に刺すしかないっ!」
大家が再びロケットランチャーを撃ち込む間はすでに無かった。田渕はドラゴンゾンビの喉元を過ぎ、目の前が腹の裂け目だった。
その時、どこからか、声が聞こえて来た。
「セントフィールド!」
ドラゴンゾンビの周囲が、明るく照らされた。キラキラと輝く光が、地面から空へと昇る。その光に纏わり付かれた紫の瘴気は、色が薄くなる。
「見つけたっ! えいやぁ!」
田渕の狙いはずれていたが、瘴気が薄まったおかげで、狙っていた場所の一メートル横にあったレッドインセクギリーの素材をぎりぎり見つけ、腕を伸ばして剣を突き立てた。
「♪幼い頃ぉ、二人で穴掘り頑張ったねー♪」
剣を離した田渕は、ドリルのように体が回転を始める。そのドリルは、ドラゴンゾンビの体を貫通し、石畳の地面にめり込んだ。そして、あっと言う間に土の中に消え去る。
ガガガガガガガガガガガガ
恐ろしいスピードで地面を掘り進んだ田渕は、ドラゴンゾンビの背後、十メートルの所の地面から顔を出した。土の中から出て来る田渕の防護服はボロボロだが、今は息を止めているので鼻はもげない。そのままダッシュで更に三十メートル遠ざかり、ようやく息を吸った。
「はぁ、はぁ、やった・・・・・・」
ドラゴンゾンビを包んでいた紫の瘴気は、もう殆ど無くなっていた。ドラゴンゾンビの体の表皮は、あっと言う間に劣化をし、骨だけになったと思ったら、崩れ落ちた。
「アニー! これはもう、倒したよね! あれ? アニー?」
屋根の上にいた大家の姿は消えていた。微かな音に気が付いて、田渕が通りの向こうを見ると、ドローンにぶら下がって遠ざかる大家の姿があった。
「あれ? どこへ行く気・・・・・・、まさかっ!」
田渕はピンときた。
脅威は去った。となると、元の予定に戻る。田渕達が、今の時間に本来していただろう事は、学院長からエクレアを貰って食べる事だ。貰うエクレアの数は、二人で三十個としか決まっていない。
「独り占めする気だなぁ! 人使いが荒いと思ってたけど、これを狙ってたんだなぁ! もうっ!」
田渕は石畳を踏み割る力で駆けだした。だが、急停止をする。
「おっとっと。ドラゴンを瀕死にしてくれた冒険者さん、ありがとう! 良い所だけ取ってごめんなさい。横取りする気は無いんで、骨とか好きに使ってください!」
田渕は、うつ伏せで倒れている冒険者二人に近づくと、それぞれにスキルを使う。
「♪全治癒♪ 剣も貸して頂いてありがとうございましたー!」
再び駆けだした田渕だったが、ふと、ある事を思い出した。
「そう言えば、さっき誰かの声がした気がするけど・・・・・・」
走りながらきょろきょろと周囲を見るが、動いている者の姿は無かった。
「気のせいか・・・・・・」
そのまま田渕は、あっと言う間に通りの先へ消えてしまった。
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