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48話 ベヒーモス



「どう攻めるんだお? 田渕君のパンチも効かないお」


「パワーアップでは無理だね。ポイントポイントで、スキルを使うよ」


「なら、ワタシは空から……、あれはなんだお?」


 ベヒーモス頭部の左右の角が光った。両角の先端が、火花で繋がる。


「まずいおっ! 雷が…」


バチバチバチッ ドガーンッ


 田渕と大家は、奇襲を食らって吹き飛んだ。田渕も、防御スキルを展開する間が無かった。


「っ! しびれたぁ! 大家さん、大丈夫?」


 田渕が大家を見ると、大家はすぐに立ち上がった。


「私が制服の下に着ているパイロットスーツは、特に電気には強いお。田渕君こそ、大丈夫かお?」


「パワーアップで耐えられる範囲内だったよ。ヤンキー達も、これを食らったんだね、きっと」


「非合法ポーションをキメて油断している時に食らったら、気を失っても仕方がないお」


ブゥゥゥン


 大家の側に、大型ドローンが出現した。大家はその足に掴まり、上空へ上がる。その姿を、ベヒーモスは動物のような習性なのか、目で追った。田渕は、その隙を逃さなかった。


ダッ


 田渕は地面を蹴った。取り敢えずの狙いは、ベヒーモスの前足だった。


 だが、ベヒーモスの目が、ぎょろりと田渕へ向く。同時に、狙っている前足が、後ろへ引かれた。


「っ! ♪恋する女の子はぁ~、どうして体がかっちかちになるのぉ~♪」


 ベヒーモスは巨大な体躯だと言うのに、さすがは筋肉の塊だからか、素早く前後に動かした前足で、田渕を蹴り上げた。


ドカッ


ブゥゥゥンッ


 宙を上昇する田渕に、大家のドローンが近づいて来て、見事キャッチした。そしてベヒーモスの真上まで運び、大家は田渕から手を離す。


「♪セクハラ上官にぃ ハンマーパンチ♪」


ズド―――ン


 金槌のように縦に振り下ろした田渕の拳が、ベヒーモスの背筋(はいきん)にめり込んだ。ベヒーモスは、自分の瞳よりも遥かに小さい拳に、体を仰け反らされる。


グゥオォォォン


 苦しそうに吠えた後、ベヒーモスは首を回し、背に乗る田渕にその鼻先を向けた。そして、口を開くと、そこには巨大な火球があった。


「♪チャラ男からの口撃をぉ……完全防御ぅ♪」


ドォォォンッ


 田渕の体が、光の結晶に包まれたようになった。ベヒーモスの火球は、鼻先で爆発し、暴発したように口の中に炎が逆流する。


グルルルッ


 顔を燃やしながらも、やはり魔獣の知能だからか、もう一度ベヒーモスは口の中に炎を溜める。だが、すでに田渕の姿は無かった。そして空からは、ドローンのプロペラ音が響く。


ブゥゥゥン


「爆撃、開始っ!」


 ベヒーモスの真上から、次々と爆発物が投下されてくる。


ドカドカドカドカーン!


 ベヒーモスの背で連続して爆発が起こる。ベヒーモスは、ダンスをするように、体を揺すって苦しんでいる。


グ……グゥオォォォン


 ベヒーモスは、一際大きな声を上げた。すると、ベヒーモスの角が光り出すが、今度は先ほどと明るさが桁違いで、眩しいくらいの強い光を放っている。どうやら、一度目の雷は、ただの威嚇程度の威力だったようだ。 


グルルルッ


 ベヒーモスの角と角の間に、先ほどは火花だったが、今度は雷球のような、エネルギーの塊が出現した。


「こっちだ!」


 木の後ろから、田渕が姿を現した。これは、空中にいる大家が狙われないためだった。


グルルルッ


 ベヒーモスが田渕に狙いを合わせた。


ベヒーモスの角の光が根元から失われて行き、角の先まで完全に光がなくなった。それに反比例して、雷球は大きくなる。角に溜まっていた全てのエネルギーを移した巨大な雷球が、田渕に向かって発射される。


ヒューン ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ


バチバチバチッ ドガーンッ


 発射された雷球は、すぐに大きな雷に分裂し、大家が空から落とした避雷針に吸収された。田渕を囲むように落とされ地面に刺さった金属棒の大きさは、電柱くらいのサイズだった。


「さすが大家さん!」


 田渕は、ベヒーモスが戸惑っている隙を突いてベヒーモスの肩に乗り、そこから更に飛び上がって、頭部の角の片方を両手で抱える。


「♪嬉しさで、エビ反り♪」


 田渕は灰色の角にしがみついている状態だ。そこから体を仰け反らせると、完全に物理法則を無視し、ベヒーモスの体が持ち上がる。


ズドーンッ


 ベヒーモスは、木をなぎ倒しながら、激しく背中を地面に打ち付けた。百トンもの体のせいで、それに相応するダメージがのしかかる。


 仰向けのまま、ダメージで起き上がれないベヒーモスに、大家が空からドラム缶を三つ投下した。


バシャッ


 白、青、赤、のガイグダンカラーのペンキが、ベヒーモスの顔にかかり、視界を塞いだ。


 驚いたベヒーモスは、なんとか体を回転させ、伏せの姿勢になって静止した。その隙を、田渕は逃さない。ベヒーモスの体をさっとよじ登って、大きな背に場所を変える。


「♪セクハラ上官にぃ ハンマーパンチ♪」


 今度は、ベヒーモスがエビ反った。


 田渕は、左手でベヒーモスの黒い毛を掴みながら、更に何度も右手を振り下ろす。


「♪ハンマーパンチ♪」「♪ハンマーパンチ♪」「♪ハンマーパンチ♪」「♪ハンマーパンチ♪」「♪ハンマーパンチ♪」「♪ハンマーパンチ♪」…………


グァァァ……


 ベヒーモスの鳴き声がかすれて行く。ついには、背中から、「バキッ」と、音が鳴った。


「まだまだぁ! 行くぞぉ!」


ブゥゥゥン


 田渕が右手を大きく振り上げた時、田渕の正面に大家のドローンが来た。


「田渕君、黒牛はすでに力尽きてるお」


「えっ!?」


 田渕が改めて見ると、ベヒーモスはぐったりと地面に伏していた。


 田渕は、両腕を突き上げる。


「和牛、討伐完了ぅぅぅ!」


「和牛・・・・・・では無いお。心の声が出過ぎているお」


 魔獣を倒してここまで喜ぶ田渕の姿は、これが初めてだった。





次話は 4/15 本日14時投稿です

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