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49話 陰謀



 同時刻 ジュディ王国 王都 王都区画



 宿屋から、あくびをしながらカイザーが出て来た。さすがに本日は、酒場に無理に一泊して、迷惑をかける事は無かったようだった。


「ふぁぁぁ。まぁ~た昼か。俺達の世界って、いつの間にか朝が無くなったのかぁ?」


「兄貴ぃ、ミスチェル王国に戻ったら、また依頼をこなさなきゃなんないんで、ぐうたらは程々にしないと、きつくなるっすよ」


「わーってる、わーってる。俺の帰りを待ち望む依頼人達、そいつらが出す金の音が良く聞こえてるって」


 その時、大通りに響く声があった。


「ここにいたのかてめぇっ!」


 カイザーが声の方向を見ると、戦斧を背負った金髪の少年がいた。


「なんだぁ? 昨日の奴か」


「あれはてめぇの仕業だろっ!」


 金髪少年のこめかみには、血管が浮き出ている。それをカイザーは、鼻をほじりながら眺めて言う。


「ん? やっぱり、何かあったのか?」


「しらばっくれてんじゃねぇ!」


 金髪の少年、アスカ国 勇者の一人、和田義春は背中の戦斧を抜く。


「あの女の子に何をしたぁ? おかげで本条がっ……」


 怒りに燃える和田の前で、カイザーは小指の先の鼻くそをふーっと吹き飛ばした。


「何人か死んだかぁ?」


「女の子は死んだ! そして、俺達をかばった本条が、重症だ!」


「ふーん。やはり狙いは……それだったか」


 カイザーは、ゆっくりと両手を突き上げて、伸びをした。


 和田は、戦斧の刃を、カイザーに向けて言う。


「昨日の酒場じゃなく、こんなところに隠れているとはなぁ! 王都から逃げ出さなかった事だけは、褒めてやるぜ!」


 そこで、カイザーの後ろにいたスネイルが、和田に向かって言う。


「おいおい。兄貴は夜遅くまで…」


 しかし、カイザーが軽く手を上げ、スネイルの言葉を制してから言う。


「俺と……勇者達をぶつけるも狙いなのかぁ? それとも、まったく違う狙いがあるのかぁ? まあ、乗っかってみる方が面白そうだなぁ」


 カイザーも、背負っていた身の丈程の大剣を右腕抜く。


「一つだけ聞かせろぅ。仲間はどうして怪我したんだぁ?」


「知ってんだろっ!」


 和田はそれだけしか言わない。だが、後から息を切らせて走って来た加藤美香と川上真菜が、和田に代わって答える。


「女の子の体に、何を仕込んだんだおっさんっ!」


「吐いた火で、本条は一晩治癒魔法をかけても、まだ危ないんだぞっ!」


「火・・・・・・ねぇ。まあ、仲間は助かりそうなんだったら、いーじゃねーか。それに、お前らの綺麗な体には、怪我はないんだろぅ? げっへっへ」


 卑猥な顔で笑うカイザーに、加藤と川上も、杖を取り出して構える。


「勇者PTに手を出して、草生やしてんじゃねーよ!」


「おいおい・・・・・・。俺がやったなんて、一言も言ってねーんだがなぁ?」


「お前に決まってんだろっ! それに違っても、こんなキモい奴、殺した方がワラぁって感じっ!」


「ふーん・・・・・・。どう思う、スネイル」


 聞かれたスネイルは、肩をすくめる。


「こいつら、多分女の子が死んだ事は、どうでも良いっぽいっすね」


 それを聞いたカイザーは、大剣をブンと振り上げ、自分の右肩に乗せた。


「お仕置きが必要だな」


 そして、にやりと笑った。




 和田は戦斧を握ったまま、じりじりとカイザーに迫る。


カイザーはと言うと、片手で握った大剣を右肩に乗せながら、笑みを浮かべて和田を見下ろしている。


 我慢しきれず、和田はカイザーに向かって走り出す。そしてカイザーの前で戦斧を振り上げた瞬間、眼前に何かが振り下ろされて来るのを感じた。


「ぐっ!」


 和田は体を仰け反らせた。


カイザーの大剣による一閃は、和田の胸部鎧を縦に切り裂いた。左胸部の鎧は二つに割れて地面に落ちたが、和田の体には、なんとか数ミリのところで届かなかった。


「あっぶねぇ。居合斬りかよ……」


「いあい? なんだそりゃぁ?」


 当然だがカイザーは日本の剣道、武道などは知らない。カイザーにとっては普通に武器を振り下ろしただけなのだが、圧倒的な動体視力と、驚異的な膂力(りょりょく)によって、目にも止まらない速度となっただけだった。


 地面にめり込んだ大剣を引き抜き、カイザーはまた肩に乗せた。まだ、右手一本しか使っていない。


 和田の後ろから、加藤と川上が、呪文を詠唱する声がする。すると、和田は振り返り、二人に言う。


「おい! タイマンだ! 手を出すな!」


「つまんねープライド 捨てろって騎士団長に言われたろっ! 草生えるぅ!」


「相手は、ほぼ魔獣だよっ! 自殺したいなら、最初っから喧嘩売るなってのっ! ワラっ」


「……ちっ」


 和田は舌打ちをして、カイザーに向き直る。


 このRPGのような異世界で、仲間と協力しないなどあり得ない。一人で最後まで戦うような豪胆な男は、ドラゴンクエスト1の主人公くらいだろう。


 カイザーは、まったく表情を変えず、敵が増えても動じる様子は無かった。


「ああ。命のやり取りに卑怯なんてもんはねーぜ。まとめてかかってこい」


 しかし、スネイルはカイザーに声を掛ける。


「兄貴、ならあっしも加勢を…」


 だが、カイザーはスネイルの言葉を遮る。


「おめーは弱えーんだ。だからスタミナ配分を考えろ」


「配分……って?? ああ……なるほど……っす」

 

スネイルは、十メートル程下がり、カイザーから距離を取った。


「ダブル火弾(ファイヤーボール)」


 和田の後ろ、両腕を突き上げる加藤と川上の手の上に、それぞれ火の玉が浮かんだ。和田はそれを確認すると、カイザーに向けて走り出す。


「死ねっ! おっさん!」


 和田は戦斧を振り上げた。その和田を追い越し、二つの火弾がカイザーに迫る。火弾の炎は、和田の体を隠した。


「おもしれぇ!」


 カイザーは前傾姿勢になった。そのカイザーに、火弾が直撃し、そこに和田が戦斧を振り下ろす。




     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆




 課外訓練地


 空を見上げる金髪少女の元へ、箒(ほうき)に乗った女性が降りて来た。


「非常事態よ! ……田渕君と大家さんは?」


「タブチとオーヤなら、周辺を散策にって。でも、そろそろ約束の三十分になるのに、まだ戻って来ていませんわ」


「やっぱり……」


 女性は、手元にある何枚もの魔力紙を見る。


 箒(ほうき)に乗った女性は、世界屈指のレアクラスである魔女、魔法学院の学院長だ。金髪の少女は、田渕達のPTリーダーであるフィオナである。


「非常事態とは何ですの? 魔獣に怪我をさせられた生徒が出たのですか?」


「生徒じゃないの。この魔力紙は、院生達からよ。しかも、五人全員、具体的な内容を飛ばせない程の間でやられたみたい……」


「院生が? では、訓練地に、院生の手に負えないような強い魔獣が入り込んだってことですか?」


学院長は、フィオナに鋭い視線を送りながら言う。


「院生達からの最初の連絡が、三十分前。そして、田渕君と大家さんがあなたの目の届かない所へ消えてから、三十分。つまり……」


「まさか! タブチとオーヤが!? なら、彼らの目的は、院生の排除だったと言う事ですか? なるほど……。院生達が、ばらけるこの課外訓練を狙って、と言う事ですわね……」


 フィオナは、自分に巻かれた白ネクタイを、ぎゅっと手で握る。


「院生は、生徒達の訓練のために、強い魔獣を訓練地に近づけないお仕事をしている。そのお仕事の隙を、魔獣に気を取られている一瞬を、後ろから狙った・・・・・・と。許せませんわ……」


 フィオナは、田渕と大家に好意を持ち始めていた。だが、そんな好意を抱く自分の姿を、頭の中で燃やしていく。


「学院長! 私もご一緒させてくださいませっ! 共に、アスカ国の勇者達をっ!」


 一歩前に出るフィオナの胸を、学院長は手のひらで止める。


「フィオナさん、あなたは学院に戻っていなさい。訓練は中止よ。皆に伝えて」


「私だって、少しは……」


「まだまだ……足手まといよ」


 そう言うと、学院長は箒にまたがり、宙に浮かぶ。


「でもっ! 相手はまったく手の内を明かさなかった勇者が二人です! 一人じゃ……」


 空へ上がる学院長は、くすりと笑った。


「十五年前、大魔族を打ち倒したPTの一人、魔女のサリアを舐めないで欲しいわ。確かに、前衛のローズがいれば助かるけど、あの子は独身を拗らせて、行方知れずだしね!」


「ローズ……。ビズ国の、戦神ローズですわね。伝説のSクラスPTの一人……」


「それに、勇者は・・・・・・彼らだけじゃないわ」


 学院長こと、サリアは、フィオナに微笑みを見せてから、空の彼方へ飛んで行った。




 フィオナは、白い眉間にしわを寄せながら、学院へ向かって走る。すでに周りに人の気配は無い。魔力紙の連絡で、生徒達は撤退を始めているようだった。


「タブチ……、オーヤ……、弱い振りをして私を騙していたの? あんなに笑顔で……」


 少し開けた場所に来た時、ある場所に何かが寝ころんでいた。数は五つ。一瞬、生徒が狩った魔獣の死体かと思ったが、それが人間である事にフィオナは気が付いた。しかも、制服を着ている。


「まさかっ! タブチ達は生徒にも手を掛けていたのですかっ!?」


 走り寄ると、知った顔では無かった。しかも、ネクタイの色が白では無く、黒色だった。


「この人達は……院生ですわ……。数は五人……、えっ?」


 死んでいるにしては、顔色が良かった。フィオナが首元に手を当てると、脈がある。五人全員、息をしているようだった。


「もしかして、連絡の取れない院生? どうしてこんなところに……?」


 フィオナはポケットから魔力紙を取り出した。あらかじめ預かっていた学院長と直通の魔力紙だが、すでに学院長からの連絡で使ってしまったため、使用不能になっていた。


「タブチ達は……命を奪うのは目的では無い? いえ、そもそも、本当にタブチ達が院生を狙ったのでしょうか……?」


 フィオナは、一般生徒に配られた、教諭直通の魔力紙を使った。だが、教諭達は訓練地の中心と離れた場所に待機しており、更にはすでに撤退を始めているかもしれないので、この場所に来るまでは時間がかかると思われた。


「学院長……、待って……。タブチ達の命は……どうか奪わないで……」


 フィオナは地に膝を突き、空へと祈った。




次話は 4/15 本日18時投稿です

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