↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/65

27話 アイドルパワー



「……歌……かお?」


 その歌は、何かが奏でるリズムに乗っていた。乾いた音で、太鼓などでは無かった。


ダンダンダン


「…………ぁぁぁ!」


ダンダンダン


「…………イラぁぁぁ!」


 大家の焦点がはっきりすると、すぐ目前に、巨大ガニの右の爪があった。大家は後ろへでんぐり返しをして避けた。


ダンダンダン ダンダンダン ダーン ダーン


「ぅぅぅレイラぁぁぁ!」


 ようやく大家は理解出来た。


聞こえるのは、歌と、木の板を棒でたたく音、そして、オタの合いの手だ。


「どういうことだお?」


 大家は立ち上がり、驚いて振り返った。何故なら、近づいて来る足音と、オタの合いの手は、一人分では無かったからだ。


「いやぉぅ! レイラ レイラっ!」


 現れたのは、白装束の一団。見覚えのある顔もあるので、間違いなくエンの村人達だった。だが、主に若い男と、中年男で構成されており、女性の姿が無い。


 いや、あった。女性の姿があった。踊り狂う男や、木の板をリズムよく叩く男達の中心に、女性の姿があった。女性は、即席のようで雑だったが、色が付いた衣装を着ている。そして、皆より一段高い場所にいるのだ。


「ば……バカな……そんな事が……あるのかお……」


 女性は、舞台(ステージ)の上に立って歌っていた。その舞台(ステージ)は男達と共に移動しており、舞台(ステージ)の下には、目を血走らせて支える男達の姿がある。つまり、神輿の要領で、舞台(ステージ)を運んで移動している。


「会長! レッドインセクギリーです!」


「そこで停止! 後は任せた会員ナンバー002よ!」


「いやぉぅ!」


 やはり、率いているのは田渕だった。アーサーも、完全に別人格のようになっていた。


「みなぎるっ! みなぎるっ! 漲ってくるぅぅぅ!」


 右斜め上、左斜め上と、ペンライトを振りながら田渕は大家へ向かって走って来る。SF桃色戦士ハニーハウス乙とは違うが、数か月ぶりの生ライブと言う事で、田渕のアドレナリンは目や鼻や耳から、吹き出しそうになっていた。


 チャージまであと一歩と言う時、田渕の目に、レッドインセクギリーの姿がはっきりと映った。


「か……か……カニ? か……カニだぁぁぁぁぁぁ!」


 田渕の体が発光した。強烈な光を放つ。


「漲ったぁぁぁ!」


「最後の一押しがカニとは……。なんて食いしん坊な奴だお……」


 大家は、邪魔にならないように道を開けた。後は、田渕の一撃に掛けるしか無かった。


 レッドインセクギリーは、男の姿を見れば、ここから去ると思われた。つまり、出会い頭の初手で仕留めるしかない。だから田渕は、移動式の舞台(ステージ)とアイドルを用意し、道中に『漲る』方法を用意した。


 目の前を通り過ぎる田渕に、大家は声を掛ける。


「田渕君っ! 波動砲で消滅させたら、カニの身や、カニ味噌がっ……」


「♪好きな男子の行動を、まねまね♪」


「えっ? その歌詞は……?」

 

大家が不思議に思う前で、田渕の体から白い炎が噴き出した。その炎は、田渕の体を燃やすように包む。


「まっ……まさか……嘘だお田渕君……」


 田渕はカニに迫りながら、両手を合わせ、そして空へと突き上げながら走る。


「神拳奥義っ!」


「マジか。動きを真似 出来るって、これも範囲内なのかお……」


 田渕の体から空へと炎が伸びて行く。アリアの時は五メートル程だったが、田渕から伸びるそれは、五十メートルには達していそうだった。


「うぉぉぉ! 漲るぅ、竜炎剣ぇぇぇん!」


 まるで、白い巨塔が倒れて来るようだった。


 巨大ガニは、残った右の爪を横に構えて防ごうとするが、その爪の外郭に白い炎の剣が難なくめり込み、切断した。


ザンッ!


 白い炎は、巨大ガニを真っ二つにした。そして、絶えず燃え上がるようにしてオーラを放出する剣は、カニの背後の海すらも割った。海が割れた距離は、二百メートルにも達した。



 体の光が収まった田渕は、振り返り、白装束の村人達に大声で言う。


「ふぅ! イっちゃった!」


 すると、村人たち全員が「イっちゃった!」と返してくる。


 その様子に、大家は顔をしかめて言う。


「はぁ、エロ宗教みたいになってるお……。その労いのセリフ、何とかならんかお……」


 ぽりぽりと頬を掻く大家の前で、崖の側に集まった村人達によって、田渕が胴上げをされている。


「皆っ! 魚だ! すごい数だぞ!」


 アーサーが、崖の下を指さして叫んだ。その先の海には、海面に魚が腹を上にして浮き上がっていた。どうやら、竜炎剣が海を割った衝撃は周辺に伝わり、近くの海中にいた魚を気絶させたようだった。


 食べ物に飢えた村人達が騒ぐ中、衣装に身を包んだレイラが崖の際までトコトコと歩いてきた。そして、魚を確認すると振り返り、頬に手を添えて、笑顔で言う。


「みんなぁ! レイラのために、魚を獲ってきて!」


「いやぉぅ!」


 そう叫ぶと、村人達は道なき道を降り、崖を下って行く。そして海に入ると、さながら魚のつかみ取りのような様相となった。その中には、なぜかレイラのたくましい姿もある。


田渕は、崖の上から満足気に皆を見ていた。その隣に、大家も立って皆を見下ろす。崖下の村人達は、魚だけでは無く、巨大ガニの体も集めている。


「しかし、ワタシ達に倒せるとは、村人はレッドなんちゃらを過大評価をしてたのかお?」


「うーん。ビズ王が戦ったのが四十年くらい前らしいから……」


「なるほど。もうお爺ちゃんガニだったのかお! こりゃ勝っても自慢できんお」


 レイラは、自分と同じくらいの大きさの魚を抱きつくようにして捕まえた。すると、目を覚ました魚が暴れ出すが、レイラは決して手を離さない。びったんばったんと、レイラはそこらをマグロに似た魚と跳ね回る。


「いいね。これぞ、次世代のアイドルって感じだ。日本でだって売れるよ」


「レイラさんをアイドルに選んだのは、田渕君なのかお?」


「いや、彼女が大家さんのためにやるって立候補したよ。アイドルに一番必要なのは、歌唱力や容姿なんかじゃなくて、やる気なんだよね」


「アーサーや、村の男達も、たった一日でよくオタに仕上げたお」


「一秒も休まず、十時間ぶっ続けでレイラさんの応援させたら、人格から余計な物が消えてね。これがスパルタってやつなのかな? 悪いと思ったけど、時間が無くて」


「それは、洗脳と言うお……」


「けど、一つだけ問題があるんだよね……」


「ん? なんだお?」


「ハニハウの『お助けメカ』みたいに、レイラファンの事をなんて呼ぼうかなぁって。他の歌手には、『信者』とか『武士(もののふ)』とかあるんだけど」


 なんだそんな事かと言いたげにため息をついた大家は、ぽつりと言う。


「……じゃあ……村の成り立ちから『船員』はどうかお?」


「おおっ! 『海賊アイドル』に、ファンは『船員』、すごく良い! 決定だ!」


 ここに、異世界初のアイドル、海賊系アイドル レイラが爆誕した。






 その夜、またもやエンの村でパーティーが開かれた。


 一昨日は焼肉パーティーだったが、本日は魚介バーベキューパーティーだ。だが、そのメニューの中に、カニは無い。


「よく考えたら、人を食べたカニの身を、食べられる訳がないお……」


「カニにテンション上がって、うっかりしてたね……」


 大家と田渕は、顔を見合わせて苦笑いをした。


 巨大ガニの身は、これから作られるエンの村の畑に、肥料として撒かれ、役立てる事にした。そして、カニの殻は、素材として村人の道具に使われ、一部は密かに売却されて村の金とする。


これが、生贄にされて亡くなった人達の、一番の供養になるのでは無いかと、村人達と田渕達が、話し合って決めた事だった。


いつもの事だが、田渕達はレッドインセクギリーの討伐を内緒にした。超希少(レア)素材などの行方を追求されても困るからだ。


ビズの国には、今年はレッドインセクギリーが現れなかったと報告し、来年以降も同じ報告をすることになる。今後、周辺の村や街にも被害が起きる事は無いため、問題視される事は無いだろう。

 


「まあ、カニがいるのは分かったし、次は捕まえて絶対食うお」


「この海に、一匹だけな訳が無いもんね」


 そこに、アーサーがやって来た。何やら三十センチ程の細い棒を出し、田渕に見せる。


「村近くで獲れるアヤコ貝の貝殻なんですが、それを砕いて貼り付けました」


 田渕は棒を手に取り、かざしてみる。松明(たいまつ)の光を乱反射して、きらきらと棒は輝いた。


「いいね! 十分ペンライトの代わりになるよ。これを『船員』の全員に配布よろしく!」


「いやぉぅ! あと、会長、そろそろライブの方が始まります」


「ついにだね。しかしアーサー、舞台を作るために君の実家を解体してしまって、ごめんね」


「いやぉぅ! レイラの為に野宿する事など、容易い事です。悔いなど微塵もありません」


「よし! 行こう! 路上ライブじゃない、これが本当の初ライブだ!」


 田渕とアーサーは、肩をぐるんぐるんと回しながら行ってしまった。そして、大家の席から少し離れた所にある舞台(ステージ)から、声が聞こえてくる。


「みんなー いくよぉ!」


「いやぉぅ!」


「♪ドラゴン、オーク、ぴょんぴょこぴょん♪」


「……異世界には、このダセぇ歌しか無いのかお。これで大丈夫なのかお?」


 首を九十度まで傾げる大家の視線の先では、村の男達が右に左に腕を突き上げて狂ったように踊り始めた。



 大家の予想とは裏腹に、海賊系アイドル レイラは、三か月もかからずにビズ王都まで名前を轟かす事になる。


そしてエンの村は、アイドル文化発祥の地として、異世界で長きに渡り聖地としてあがめられる事となった。



次回予告がすぐUPされます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。