26話 大家の危機
「こいつっ! 動くおっ!」
グワシャンッ!
振り下ろされた爪で、大家を運んで来た棺が粉々になった。大家は転がって避けたが、巨大ガニの胴体に付いている目が、大家を追うように方向を変える。
ドガッ
今度は爪では無く、巨大ガニの足の一本が崖の上に振り下ろされ、突き刺さった。そこからヒビが広がっていく。
「やばいおっ!」
大家は全力で後ろに下がった。先ほどまでいた崖の場所が砕かれ、果物や花が、がけ下に岩と一緒に落ちて行った。
「こいつ……やっぱり知能があるようだお……」
脚を掛けて崖を砕いたが、陸に上って来る気配は無かった。自分の有利な場所を自覚しているようだった。陸にさえ来れば、大家の最大火力技術である『対ロボット用地雷』で、ダメージを与えられそうなのだが、海にいる相手には地雷は使えなかった。
大家の技術には機雷もあるのだが、これは逆にもっと深い場所でしか使えない。不適切にさほど深くも無い浅瀬で使えば、どんな被害が出るか分からない。一番怖いのが、巨大ガニが大家から興味を無くし、海岸沿いにある村や街を襲いに行ってしまう事だ。
大家は、また崖のぎりぎりの場所へ戻る。距離を取れないので、非常に苦しい戦い方だった。
巨大ガニは、右腕を振り上げ、爪の先を大家に向けて突き出してきた。ハサミで切り裂こうと言うより、大家を摘まんで捕らえようとしているようだった。その爪に対し、大家は自らの細い左腕を向かわせる。
「ガイグダン レフトアーム!」
ガシンッ!
爪の突進を、1BOXカーサイズのロボットの左腕で止めた。巨大ガニは爪を開き、挟んで切断しようとするが、巨大ロボットに使われる強度のある金属は易々と切り裂けない。
だが、カニの腕はもう一本ある。巨大ガニは、大家の体を目掛け、左の爪を突き出して来た。
「くっ! ガイグダン ライトアーム!」
ガシンッ!
それを、大家は受け止める。大家は両腕に巨大ロボットの腕が装着され、たまたまだが大家もカニを想像させる姿になった。
「はぁ、はぁ、初めて両方出せたお……。でもこれは……魔力消費が半端ないお……」
大家は、両側から迫るカニ爪の圧力に、足を踏ん張って耐える。大家が白装束の下に着こんでいるガイグダンパイロットスーツは、衝撃や重力下にあっても動けるように、筋力補助の機能もある。
膠着状態となった。
体格の違いはあるが、カニは外骨格なので、関節の力自体は強く無い。おまけにカニの構造上、腕よりも前に足が出る事が無いので、両方の腕を突き出している今の状態では、これ以上の攻撃をしてこない。ただ、カニは今、左右の爪だけしか使っていないので、足を使って前進されれば、大家は簡単に押し込まれてしまう。
「うぉぉぉ! 連邦の新兵器なんかに負けるかぁぁぁお!」
ガシンッ!
大家は、カニの両腕を跳ね上げた。そしてガードが上がったカニ目掛け、右足を振る。
「ガイグダン ライトレッグ!」
横に振られる大家の足が、巨大ロボの足に変わった。このガイグダンの右足を出すのも、大家は初めてだった。
バキャンッ!
カニの側頭部なのか横っ腹なのか不明だが、カニの左目の横を蹴り上げた。巨大ガニは左足を数本浮かせ、ぐらついたように見えた。
「ガイグダンッ! ロケットパァァァチ!」
大家からロボットの左腕が発射された。だが、巨大ガニは全ての足を折りたたみ、身を低くした。
ガガガッ ガガガガガガ
ロボットの左腕が、甲羅で滑った。カニの背を削りながら、海の中へ消える。
「くっ! 両腕に続き、右足まで出せた……チャンスだったのに……」
大家が出したロボットの右足はすぐに消えた。残りは、右腕しか無い。
「ダメか……。ワタシはここで……。ショワ少佐……」
大家は片膝を突いた。そんな大家の目前に、巨大ガニが迫る。カニはもう獲物に力は無いと思ったのか、左右からゆっくりと爪の先を大家へ向かって近づけて来る。
「くっ……くくく……」
俯いている大家から笑い声がした。
「……と、でも言うと思ったかぁおっ! この、カニがぁぁぁ!」
大家は立ち上がる。すぐさま、左腕にも、ロボットの腕が出現する。
「カニの分際で舐めてんじゃねーお! お前らはっ、人間に食われる運命なんだおっ! なぜか? それは旨いからだおっ! 本当にありがとうございます!」
カニの左爪に、大家は右の拳を叩き込んだ。カニの右爪には、大家は左の拳を叩き込む。それを連続で繰り返す。
「オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ オラ 食わせろ オラ オラ オラ……」
ガツッ ガツッ ガツッ ガツッ ガツッ ガツッ……
巨大ガニのハサミから、破片が飛び散る。ハサミに付いていた禍々しい棘が、折られて無くなっていく。
途中、大家の意識は何度か飛びそうになった。明らかに、魔力切れを起こしかけていた。だが、勝てないまでも、カニの爪を破壊しようと思った。この世界のカニの爪が再生するかは不明だったが、自慢の武器を両方とも潰されたなら、もう二度と戻っては来ない可能性があると考えた。
バキンッ
巨大ガニの左の爪に、大きな亀裂が入った。三角形に割れ、透明な身が覗いた。大家は、このチャンスを狙う。
「が……ガイグダンっ ダブルロケットパーンチ!」
大家から、ロボットの両腕が射出された。だが、その瞬間、巨大ガニは大家にそっぽを向いた。
ガッ バキバキバキッ ベキバキバキッ
亀裂が入っていた爪は無事破壊した。だが、カニが横を向いた事で、大家が次に破壊したのはカニの足の一本だった。
「こっ……このカニカマもどきが……」
酸欠のように頭が回らなくなり、大家は妙な事を言った後、尻もちを突いた。
「まあ……爪の一つを破壊したから……良しとするかお……」
大家はへたり込み、目を瞑って黙った。頭痛と眩暈が酷かった。
タ……タ……タ……
「………………ん?」
何かが耳に聞こえて来た。大家は気力を振り絞り、顔を上げる。
次話は 5/22 22時投稿です。




