22話 化け物
アリアが先導し、田渕と大家は砦前の荒野に出て来た。
「私はアリア。君は、エンの村で悪さをしただけあって、よっぽど自信があるみたいねー」
「いや……待ってください! 僕達の見た目はすごく怪しいんですけど、あなたの敵じゃないですよ! 今だって、本条……、えっと、アスカ国の戦士達を助けに来たんです!」
「エンの村の人から、いきさつは聞いているよー。それに、だとしたら、どうしてそんな黒ずくめなのー? 正義の味方なら、正々堂々としていればいいじゃないー?」
「そっ……それはそうなんですけど……。これにはアイドルの旧メンバー脱退の理由くらい深い事情がありまして……おおっぴらに出来ないと言うか……」
「大人しく捕まるー?」
「いえ、素顔を晒されるのだけは避けたいんで……。出来るだけ目立たないようにしたいので……」
「じゃあ、力づくだねー」
「うう……ここでコミュ障の弊害が……。口下手だから……」
助けを借りようと田渕は大家を見るが、大家は静かに目を閉じた。大家の人見知りは尋常では無いのだ。
「じゃあ、行くよー」
アリアは、両の拳を胸の前でぶつけた。拳には、金属板がはめ込まれたグローブがされている。
ダッ
一蹴りで二十メートルの距離を飛び、田渕の前にこぶしを振り上げるアリアの姿があった。
「はっ!」
ガシッ!
アリアの右の拳を田渕は左腕で受けた。そして、アリアの腕を取った田渕は、後ろに一本背負いをする。
「お……おおっとー」
身を反転させ、アリアは両手両足を使って着地した。追撃が来ると伏したまま身構えるアリアだったが、田渕はその姿をじっと見ているだけだった。
「……なかなかだねー。しかも、余裕ありってかんじー?」
「いえ、そう言う訳では……。恨みが無いので、どうしたものかと……」
田渕が両手を横に振って否定すると、アリアはその様子を見て首を傾げる。
「そう言えばー、その喋り方……どこかで聞いたようなー気がする……」
田渕は口を閉じ、その上から手で押さえる。横目で砦を見ると、目が覚めた前原が、本条や、三馬鹿トリオを起こしていた。この喋り方だと、アリアもそうだが、それより先にクラスメート達に正体を気が付かれてしまうと感じた。
「そ……そうか? ぼ…オレは、お前などにあった事はないぞよ。……ないぞ」
田渕はこれから、ドールの時は口調を変えなければいけないなと、気が重くなった。
「ほんとー? じゃあどうして口を塞いだのー?」
「これは……口から変な臭いがしたからだぞ」
「あ……ごめんー」
アリアは、体に付いた砂埃を払いながら立ち上がる。
「まあいいやー。師匠以来の手ごたえのある相手かもー」
「そうかね……。師匠によろしくな」
口調のパニックのため、田渕は自分で何を言っているのか少しわからなくなっていた。
「皆、怪我は無い?」
前原に支えられて体を起こした本条は、自分の手首を見た。縛られていた跡は残っているが、すでにロープは無く、血も出ていないようだった。
「前原さん、君こそ……? 人質に取られて……何かひどい事を?」
「ううん。あの後、私もすぐに気絶させられて、気が付いたらここに……」
「前原……体が痛てぇ……」
「おいらも……」「俺も……」
本条とは違い、鈴木、丸山、田中は、骨折やそれに近い怪我をしているようだった。海賊の技術でやられた田中の怪我は深刻だったが、その時すぐに前原が治療したため、今は傷痕こそは大きいが、血は止まっていた。
本条は軽傷のようで、恐らく最上位希少職なのを察知され、身代金の為に特別に手加減されたようだった。
「ちくしょう、あの海賊めぇ……」
前原が治療魔法をかけるが、田中の痛みはなかなか消えないようだった。そんな田中に、本条が言う。
「田中君、その海賊だけど……そこに……」
本条の視線の先を田中が見ると、田中に『飛円斬』を見舞ったコクエン海賊団のジンが、気絶したあげく手足をロープでくくられていた。
「これは……本条がやったのか?」
「いや多分あの人だ」
ズドンッ ドカン バシンッ
砦の前で激しい戦いをしている女性を、本条は指さした。
「あれは多分、ビズ国お抱えの、拳聖アリア様だ。冒険者ランクはS」
「け……拳聖!? 最上級レア職かよ。しかも冒険者ランクも最上級かよ」
「しかも、自由気ままでろくにギルドにも顔を出さずにSランクだからね。とんでも無い人だよ。僕達にも、剣聖や狂戦士とか最上級レア職はいるけど、本当に訓練された最上級レア職はあれほどの実力を発揮するんだね。歳はまだ十八歳らしいけど……」
「いや、拳聖アリアが凄いのは分かったけどよ……」
そう言ってから、田中はアリアの相手の黒装束の男を指さす。
「じゃあ、あいつは何者なんだ?」
ガシンッ
アリアの右回し蹴りを、田渕は十字受け(クロスガード)で止めた。田渕は十メートル以上も足を滑らせて下がるが、姿勢は崩さない。だが、アリアのいた場所から、アリアはすでに消えていた。田渕が見上げると、逆光のさなか、踵を高く上げ、それを頭上から振り下ろしてくるアリアがいる。
ガシッ
鋭い踵落としを難なく受け止めた田渕は、両手でアリアの足首を掴んで、ぐるぐるとジャイアントスイングのように振り回す。そして手を離すと、アリアの体は砲弾のような速度で森の木の幹に突き刺さる。
バキバキバキッ
アリアの肘打ちで、大木の幹は砕け、木は横に倒れる。肘打ちの反作用で放り投げられた威力を相殺したアリアは、姿勢を正すと、地面を蹴って投げられたのと同じくらいの速度で田渕に向かって走る。
ダッ!
田渕の前で飛び上がると、美しい足を折り曲げ、膝を尖らせて田渕の顔面へとぶつける。田渕はその膝を、額で受け止めた。
アリアは空中で横に数回転すると、華麗に着地した。だが、膝を押さえて顔をしかめる。
田渕の方は、体を仰け反らせて数歩さがったが、腹に力を入れて姿勢を戻し、アリアに視線を向ける。
「二人ともバケモンじゃねーの……。あんな膝蹴り食らったら、俺達はクラス全員がボーリングのピンみたいに吹っ飛ぶぞ……」
田中が震えながら言った。
「あれがSクラス……。単独で都市を破壊出来る力って、本当だったんだね。Aクラスとは雲泥の差だね……」
そう本条が言うと、丸山と鈴木も顔を青くして頷く。
「黒装束のヤツってもう一人いるじゃん。あいつも同じくらい強いって事か?」
田中は、本条達から離れた場所で、田渕の戦いを見守っている大家を指さした。
「だろうね……。でも、かなり小柄だよね。もしかして、女性なのか……?」
本条はそう言うが、田中は首を横に振る。
「胸 ないから、男だろ」
「そうだね。異世界人は、ドワーフとかもいるくらいだから、背が低くても女性とは限らないよね」
幸いにも、その話は大家には聞こえていなかった。
次話は 5/21 18時投稿です。




