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21話 アリア



「誰だお前らっ!」


 砦の扉を開けた瞬間、中の海賊に見つかった。


 砦の中は、まるで体育館のように、仕切りの無いワンフロアだった。その中央付近に海賊達と本条達が固まっていて、一つしかない扉を開いた田渕達に、当然と視線は向く。


ただ、本条達五人は全員が気を失っているようで、変装しているとは言え、田渕達は胸を撫でおろす。 


「余裕で見つかったよ、アニー。どうしよう……」


「ドール、よく考えたら、泥棒とかスパイとか、ワタシ達にはそんな経験(スキル)ないお」


 おろおろする田渕と大家。その二人に向かって、海賊の一人が剣を振り上げる。


「飛円斬!」


 白い三日月の刃が、田渕達へ飛んだ。


メキメキメキ


 田渕は、二メートルの鉄扉を入口から軽々とむしりとった。


バァーーーン


 田渕が盾のようにかざした鉄扉に、三日月の刃はぶつかり、弾けて消えた。


「馬鹿な……。俺の飛円斬が……」


 顔に傷のある海賊、コクエン海賊団副船長ジンは、愕然とした。


コン コロコロコロ……


「ん?」


 不意に転がって来た、手の平程の、緑色の円柱にジンは目を向けた。


バンッ


 破裂と同時に、強烈な光が発せられた。大家が投げたフラッシュグレネードだった。


バチバチバチ


「ぐわぁぁぁ!」


 ジンは地面に突っ伏した。その側に、電流棒(スタンロッド)を持った大家が立っている。


「ドール、こいつら弱いお」


「そうだねアニー、この人達 どうやら海賊の新入りさん達みたいだね」


 海賊を殴り倒した田渕が、大家に答える。


全員がフラッシュグレネードで視力を失ったのだろうと思った時、田渕に向かって大剣が振り下ろされた。


ブンッ


 田渕は軽々と躱し、一回り大きな剣を振った男を見る。男は、三角形のいかにもな海賊帽を被った男だった。


「お前ら、一体何者だ? コクエン海賊団の精鋭をこんなにあっさりと……」


「この帽子、絶対 船長だよね」


「これで船長じゃなかったら、ハロウィン先取り過ぎだお」 


 海賊帽の男は、帽子のつばをぐっと上に押し上げた。どうやら、帽子のつばでフラッシュグレネードの光を上手く遮ったようだった。


「俺は、コクエン海賊団、船長のクロウだ。元は、ハクエン海賊団の甲板員だった。この意味が分かるな?」


 顎(あご)を上げ、胸を張って見せるクロウを見ながら、田渕と大家はこそこそと話をする。


(元は甲板員? 何を言っているのか意味が分からないんだけど……)


(有名店でアルバイトしてたとか、それを自慢する感じじゃないかお?)


「それに、俺はハクエン船長と同じ、職業(クラス)が『海賊』だ。技術(スキル)を使えば、小型の船なら一撃で破壊出来るぞ」


(小型の船って、どのくらいの船の事なんだろう?)


(ゴムボートとかかお? 素人のワタシらにそんな事 言われても、さっぱ理解できんお)


 現代高校生である田渕や大家には分かるはずも無いが、クロウの指す小型船とは、船の長さが二十メートル程度までの船舶の事で、一撃で破壊出来るとすればかなりの実力を伴っている。


「はぁぁぁ! 力溜め(チャージ)!」


 クロウは足を大きく開き、肩を怒らせ、大剣を両手で握り込む。


「海神の…」


ゴンッ


「っいちごゎ……きぃ……」


 大家の足が、クロウの股間にめり込んでいた。田渕の顔色が変わる。


「ダメだよアニー! お約束は守らなきゃっ!」


 白目を剥いて泡を吹くクロウに、大家は失敗したかと眉を下げる。


「絶対押すなよ、の前振りかと思ったお……。どっちのお約束か、すごい迷ったお……」


 ばたりと倒れたクロウに、大家は肩をすくめて更に言う。


「ぐだぐだぐだぐだ……、コイツは多分 今までは配下に守ってもらって、後ろから溜めた一撃でも食らわせる殿様攻撃をやってたイキりだお」


 田渕は頷いた後、渋い顔で大家に言う。


「だったとしても、僕達のいない所で、シリアスで強者なシーンを演じていた人かもしれなかったのに……」


 少し気の毒だったが、一応は犯罪者達なので、起こしてもう一度とは出来るはずもなく、田渕と大家は気絶した海賊団全員をロープで縛り上げた。もちろん、縛られて拘束されていたクラスメート達のロープは解いてあげる。


これで本条達が目を覚ませば、縛られた海賊をすぐに発見して捕らえるとの流れになるのだが、懸念すべきは、海賊の仲間が本当にこれだけなのかと言う事だ。出かけていた他の仲間が戻って来た時、目を覚ましていない本条達はまた縛られてしまう。



田渕と大家は少し相談すると、全員をドアが無くなった建物入口付近に移動する事にした。そして本条達が目を覚ますまで、離れた森から見守るようにする。田渕と大家は変装しているとは言え、出来るだけクラスメートと直接接触はしたくない。


田渕が軽々と数人を持ち上げ、運んでいる時、大家は思い出し笑いをしたかのようにニヤニヤとして鼻を鳴らす。


「ふふん、しかし、乙女の夢、金玉蹴りが出来たお! ガイグダンでも、カイ=デンシがラッキースケベをした時、やられてたお。ドラマや漫画ではよく見るけど、実際にやる機会は一生に一度あるかないかだお」


「あんまり乙女が『金玉』とか言わない方が……」



 海賊、クラスメート達を入口に全員並べ終えた時、外に人の気配がした。田渕はそちらに視線を遣る。


「んー、そこまで! アスカ国の人から離れてー」


 美脚の女性だった。上は薄手のシャツに胸当て、下はショートパンツだ。田渕達と二十メートル程距離を置いて立っている。


「人質を取るなんて卑怯な事をする気なのー? 離れてー」


 女性は、田渕達がエンの村に来る前に出会った、冒険者であるアリアだった。だが、田渕にはアリアの言葉が理解できない。


「アスカ国の人って……本条君達かな? 人質って……なんの事だろ?」


 そこで、大家が田渕に耳打ちする。


「まずいお。多分、海賊の仲間だと思われているお」


「ど……どうして!?」


 と、田渕は聞くが、どうしても何も、体は黒ずくめで、顔にはゴーグル仮面(マスク)と、海賊以上に変質的な格好をしているからだった。


「多分、海賊を助けに、聖騎士(パラディン)達をぶっとばしたと思われているんだお」


「どうしよう。じゃあ、素顔を見せて、少し前にソフトクリームをあげた僕達だって事に気付いてもらおう……」


 田渕がゴーグル仮面(マスク)を外そうと顔に手を掛けた時、聖女である前原香織の体が動いた。


「ううん……。何か変な言葉が聞こえたような……。金た……?」


「……っ!」


 慌ててマスクを付け直した田渕と大家は、前原達と距離を取った。


「まずいよ。詰んじゃったよ……」


「こうなれば……アリアを倒して逃げるしかないお」


「けど、彼女は僕達よりランクが上な冒険者だよ。多分、DかEだよ!」


「上だからこそ、まともに逃げようとしたら捕まるお。田渕君が戦って隙が出来た所で、ワタシが偵察機を出してマッハで逃げるお!」


 言葉のあやでは無く、大家が出す偵察飛行機は本当に音速(マッハ)速度が出る。ただし、魔力の消費が激しく、十キロ程度の距離しか持たないので、本当に緊急脱出用としている。




次話は 5/21 9時投稿です。

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