20話 救出
森の中の小道を、田渕と大家はてくてくと歩いていた。もう波の音も、潮の匂いもまったくしない。
「結構大回りしないとね。どこまで行こうか?」
「どうせなら、ビズの王都へ寄って観光も良いかもしれないお」
「なるほど。本条君達は大量の塩を買いに来てた、って事は、このままビズ国を出てアスカ国へ戻るはずだもんね」
二人は、更にてくてく歩く。ドローンやジープは、音がするために、念のためしばらく使わないようにしていた。
「じゃあさ、王都に行くなら、ビズ王に文句言いたいよね。エンの村の税率が九十五パーなんてあんまりだよってさ」
「しかし、面と向かって言えば、すぐに捕まって不敬罪で処刑されるお。目安箱みたいなのはさすがに無いかお」
少し考えていた大家は、ポンと手を打った。
「ドローンに手紙を運ばせるお。直で王の間に突撃させるお」
「いいねそれ! じゃあ僕は、手紙で石を包んで、王様の部屋に投げ込もうかな」
だがそこで、大家が腕組みをして首を傾げる。
「一つ問題があるお。ワタシ達は、異世界文字が書けないお……」
しかし、田渕は大家に親指を立てて見せる。
「『好きな男子の行動を、まねまね』って歌詞があってさ、これなら、異世界文字を書けるようになると思う」
「ほぇ。……文字を書く事を真似る。って、人のスキルをコピーする事が出来るのかお?」
「うーんとね、例えば、火を出す魔法を真似るのは無理なんだ。もちろん、大家さんの無から有を作るようなスキルも無理。物理的な動きを真似るだけかな。トレースみたいな?」
「なら、一子相伝の鍛造技術とかも真似出来そうかもしれないお。いろんな使い道があるかも……」
「武器屋も良いね。僕が弱くて役に立たない分、強い武器を作って本条君達を助けるとか」
そんな事を話している時、遠くから田渕達を呼ぶ声が聞こえて来た。二人が振り返ると、歩いてきた道を、アーサーがふらふらした足取りで走って来る。
「どうしたのアーサー。♪全治癒♪」
「はぁ……は……あれ? 息苦しくない……」
自分の体に視線を遣って不思議そうな表情をしていたアーサーは、咳ばらいを一つしてから田渕達に言う。
「村に来ていたアスカ国の騎士達なんだけど、海賊に攫われたらしいんだ。会いたくないとは言え、お前らの知り合いなんだろ? 一応、伝えておいた方が良いかなって」
「えっ! 本条君達がっ!?」
「結構な怪我をしていたみたいでさ、でも、聖女様? ってのがいたみたいで、血は止まったとかなんとか。お前達を逃がした後、俺が村に戻った時には終わってたから、又聞きで詳しくは分からないんだけど」
「本条君達は上位職の騎士だよ。その海賊って、何者なの?」
「コクエン海賊団って言ってさ……。えっと、俺達の爺さん世代が海賊だったって話したと思うけど、それがハクエン海賊団で、今のビズ王、ナバーンが王子の頃に討伐されたんだ。その時、ハクエン船長の命と、村から出ない事を条件に、俺達の爺さん達は許された。エンの村はそうやって出来たんだけど、それに従わなかった若い船員達がいたんだ。そいつらが、コクエン海賊団を作ったんだ」
「つ……強いって事?」
「ハクエン海賊団は、史上最強だったらしい。コクエン海賊団は……ちょっと分からないんだ。俺らって、村から出れないからさ。あんまり情報が無くて……」
「どうしよう大家さん。助けに行かないと……。でも、僕達が行った所で……」
(三馬鹿だけでも強いはずなのに、本条君と前原さんの超レア職業まで纏めて倒す海賊なんてヤバいお。旧ザックでサイコーフレーム搭載の新型に挑むようなものだお)
その大家の人見知り(ウィスパー)ボイスが聞こえたアーサーは、田渕達に言う。
「いや、纏めてと言うか、まず聖女様が捕まって人質に取られたって言ってたけど……」
それを聞いた田渕と大家は、顔を見合わせる。
「なんだ。つまり、映画やアニメで定番の、ヒロインが捕まっての武装解除か!」
(敵は大したことがないかもだお)
二人の意見がまとまった田渕は、アーサーに言う。
「僕達もトリッキーな事が得意なんだ。それで人質を上手く開放できれば、後は本条君達が海賊をやっつけてくれるよ。ちょっと助けに言って来る!」
田渕の隣で、大家もうんうんと頷いた。
アーサーはどうにも心配だったが、人命が掛かっていると言う事で、村人から伝え聞いた、海賊達が向かった場所について田渕達に教えた。
海賊達は、本条達五人を連れて、村の北に向かったと言う。そこからは村人達の推測だが、エンの村から北に二十キロの場所に、ミベの町があり、その街とエンの村の丁度中間辺りに、朽ちた砦があるので、海賊達はそこをねぐらにしたのでは無いかと言う事だ。
田渕と大家は、砦が一望出来る場所に着いた。
砦は荒野にぽつんと立っていた。建物は石造りの四角い二階建てで、雨風を防ぎながら、大量の兵士達を収容できるような目的の、倉庫のような作りだった。
アーサーが言うには、この砦は海賊を討伐するためのビズ軍の拠点だったらしく、攻撃しか考えていないので、柵や壁はないとの事だ。確かに、海の戦いに慣れている海賊が船を置いて上陸し、丘にいる軍隊相手に不利な戦いを挑んで来る可能性は少ないだろうと、田渕も思った。周囲の木々を全て切り倒して荒野にしたのは、兵士達の訓練場や運動場のためのようだった。
砦の門には、見張りと思われる怪しげな男が二人立っていた。数十年間手入れされていないとは言え、一応はビズ国の砦なので、一般の冒険者が砦を占拠する事は無い。間違いなく、本条達を捕らえた海賊だろうし、違っても何らかの賊だと推測された。
砦としては、取り囲む柵や壁が無いのは不利だと思い勝ちだが、逆にそれらが無い事で、見通しが良くなり、近づいて来る敵にすぐ気が付けるので、有利な側面もある。田渕達が身を隠している森の木から砦まで五十メートルはあり、木の陰から姿を現せば、半分も行かない内に発見されるだろうと思われた。
「アニー、良い武器は無い?」
黒装束に黒マント、ゴーグル仮面を付けたドールこと、田渕が尋ねる。もちろん、大家も同じアニーの格好だ。追放された田渕と大家は、出来るだけクラスメート達とは顔を合わせたくない。
「うーん、ドール、残念ながらガイグダンには狙撃銃は出てこないお。麻酔銃ならあるけど、これの射程は十メートルがやっとだお」
「『先輩は、恋の狙撃手』って歌詞があるけど、僕なら狙えるかも?」
「いや、麻酔弾が物理的に二十メートルくらいしか飛ばないから、さすがにスナイパーでも無理だお」
「物理的って……銃としての物理だよね。アニー、麻酔弾を貸して」
田渕は弾丸を受け取ると、まずはパワーアップを使って体を強化した。そして、注射のような形をした弾丸を握って振りかぶる。
「♪あの人の全てが、ストライク♪」
ビュンッ グサッ
「ぐわっ!」
「……おい、どうし、うぐっ!」
見張りの男達は、弾丸が刺さると、数秒で昏倒した。
田渕達は少し耳を澄ませていたが、他に気配がないと分かると、走って砦へ向かった。
次話は 5/20 22時投稿です。(本日)




