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星への隠しごと


 冷え込んできた夜、燈惺は逃げるようにあの庭園へと向かった。


 ここ数日、屋敷にいる限り礼風がまとわりついてくるため、ようやく一人になり息をついて夜空を見上げた。


 夜遅いため、彼女を誘うのはためらった。星華が傍にいないのが残念だ。


 物心ついてきた時から、両親の仲睦まじい姿を見たことがなく、母はずっと詠星苑(えいせいえん)へ閉じ込められていた。父はずっと母を(うと)み憎んでいると思ってきた。


 母が亡くなってからも、母の話題を決して出さない父を見るたび、その想いは(ふく)らむ一方だった。


 そんな二人の間に生まれた自分は、愛など知らずに生きていくのだと思っていた。むしろ愛など知らなくていいと、心が冷めきっていくだけだった。


 それを星華はいとも簡単に(くつがえ)した。


 両親は愛し合っていた。そんなことを突然言われても信じなかっただろうが、星華はこの秘密の庭園を見つけ出した。


 朱塗りの東屋(あずまや)の椅子に腰かけ、天井に満天の星々を作り出すからくり台にそっと触れる。


 星華は確かに二人の痕跡を辿り、そんな二人の愛が羨ましいと顔を輝かせていた。


 その笑顔があまりに眩しくて、燈惺はその笑顔の方に魅入(みい)っていた。星華の瞳は特別な魅力がある。


 大きく綺麗なだけではなく、その瞳の輝きを決して失わない。その眩しい光に触れたいと(はかな)い想いを抱かせる。


 いつしかその(とりこ)になっていた。


「…誰だ?」


 聞こえて来た忍び足に神経を研ぎ澄ませる。燈惺が使っている隠し扉から現れたのは、礼風だった。


「こんな場所があったなんて私も知らなかったわ」


「…すぐに出ていけ」


 ここだけは誰にも犯されたくない。星華と過ごす特別な場所だ。


 威圧的な燈惺の声にびくりともせず、礼風は笑顔で交わし子供のように庭園を見て回る。


「本当に素敵な場所ね」


 機嫌が最悪な燈惺を無視して、無邪気に笑い続けている。


「昔から堅物で女子を泣かしてきた貴方が、こんなところで女子と密会なんて笑っちゃう。貴方を骨抜きにした星華さんに、ますます興味を持っちゃうわ」


 可笑しそうにくすくすと笑いながら、礼風は口元を手で隠す。どこか妖艶な仕草に、燈惺は目を細めた。


 礼風は昔から、少女のような無邪気さと大人びた仕草で、良く男子から求愛されていた。変わってはいないはずだが、数年ぶりの礼風は何かが違う。


 やはり礼風も、あれから…変わってしまったのか。


 自分と同じように、何かに心を売ってしまったのかもしれない。


「…いい加減にしろ。何が目的だ?」


「そんなに怒らないでよ。条件はしっかり守ってるわ」


 昔から女子なら(おび)える燈惺の態度を礼風だけは怖がらなかったが、今もこうして上手く交わされる。


 苛立ちで大きなため息をつくと、礼風はにやりと微笑み燈惺の耳元に近づいた。


「私と貴方の目的は同じだったはず…」


 そう(ささや)くと、満足そうに庭園を去っていった。











「まさか、星華さんが陽惺(ようせい)さんの死に関係している可能性が高いとはな…」


「兄が持っていた水晶珠は、星華の腕輪のもので間違いないようだ」


 皆が寝静まった夜分、燈惺の書斎には蓮承が訪れていた。


 お気に入りの高級茶があると蓮承は陽気に入ってきたが、茶を酌み交わしながら交される会話は星華の腕輪についてだった。


 礼風は庭園に侵入してきた日からも燈惺の後を追い回しているため、ようやく蓮承とゆっくり話ができていた。


 あの日、星華と(かく)へ会いに行く前に、事前にあの場所を訪れ、何かわかっても全て話さないように頼んでいた。その後もう一度(かく)を訪れ、腕輪の真実を聞いた。


 彼女は十数年前、王宮の神殿に巫女(みこ)として仕えていた者だという。


『あれは巫具(ふぐ)で間違いないわ。高貴なものが巫具をお守りとして身につけているとは本当の話よ。あの巫具もあの子を守るために作られたのだろうけど。あれはただのお守りではない。あの子の力を抑えるために、相当力の強い巫女(みこ)が作ったものでしょうね』


『力とは?』


『あってはいけない力よ。だから、あの巫具で抑えて来たのでしょう』


『…では、この水晶珠とその腕輪が同じものかを知りたい』


『その予感は当たっているわ。あの腕輪は一度、(ひも)が切れて結び直した跡があった。その時に、落ちたものでしょう』


 今でも、兄が帰らぬ人となった日を忘れることはない。 


 冷たくなってしまった陽惺(ようせい)の遺体と対面した時、陽惺はその手に何かを握りしめていた。その拳を開いて現れたのが、この水晶珠だった。


 兄の形見であり、唯一の手がかりだった。ずっと同じものを探していたが、まさか星華が持っているとは…夢であってほしかった。


「陽惺さんは、元々あの水晶珠を持っていなかったんだよな。つまり死際にその水晶珠を持っていたということは、その前に腕輪の持ち主である星華さんと共にいたということか…」


 口にするのも恐ろしいと、いつもおどけた表情ばかりの蓮承が青ざめていた。


「あの腕輪がある以上、その可能性は高い。星華は幼い頃からあの腕輪を外したことがないそうだ。星華は両親を亡くしてから、それ以前の記憶を失くしているが、兄の事件は星華の両親が亡くなる前だ」


「あの事件に関わっていることも、星華さんが忘れてしまったのなら…」


 現に星華は、燈惺の兄が亡くなっていると言うことしか知らない。


 蓮承が考えていることと、同じことを燈惺も考えていた。


「兄は皇守衛として、王弟夫人の護衛担当だった。あの日は、夫人の遊山見物に付き添い、夫人が事故死した。その後、兄は夫人を追い…自死したことになっている。夫人は良く王宮や離宮に星華を連れていたというから…つじつまは合う」


 我が子を亡くしてしまった王弟夫人は、実の姉の娘である星華を良く可愛がっていたと聞いている。


「もしそうならば、星華さんもその場にいたが、何者かにより生き残ったということか…。そして、星華さんの存在が隠された」


「読み通りなら、星華の両親の死も盗賊の仕業ではないだろう。何が狙いかはわからないが…黒幕がいるということになる」 


 兄の陽惺は王弟夫人を死なせたため、哀れな死を遂げたとされている。


 しかし、母は自死ではないと諦めず調査していた兄が、どんな理由であれ自死するとは思えない。


 遊山見物中に夫人は崖から落ちて亡くなったとされているが、兄がそばにいてそんな不注意を起こすとは信じられなかった。


 燈惺の知っている兄は、海のように穏やかな大らかで、その温厚な人柄からは想像できないほど武術ができる誰よりも強い人だった。


 昔から感情を押し殺してきた燈惺と、正反対な兄は誰よりも自慢だった。母のかわりに愛をくれた人だった。


 そんな兄に対して周囲は、王族を守れなかったのだから死は当たり前だと、死をもって償って正解だと(ののし)った。


 今思うと、王弟からしたら陵家は愛する妻を守れなかった憎むべき相手だ。一族にまで罰が及ぶと思われたが、兄の死が皮肉(ひにく)にも陵家を救った。


 そんな兄の死を許せず、王弟と、命を亡くした王弟夫人まで恨んだこともあった。


 兄は決して自死ではない。心を捨ててでも、どんな手でも使ってでも、兄の敵をとりたいと、そのためだけに生きて来た。


 亡くなった兄と同じ皇守衛に入り、厳しい戦へ自ら進んだのも、王宮の中へ力を持って入るためだった。その思惑通り、王と直接渡り合えるまでの地位に上り詰めた。


 そんな時に舞い込んできたのが、星華との結婚だった。


 王弟は何か知っているか、夫人がただの事故死ではないと探っていると、そう読んだ。


 最初は星華に何か探らせたいのかと思っていたが、星華は何も知らぬまま陵家へと嫁がせられていた。星華を嫁がせた王弟の思惑もわからない。


「星華さんの両親の事件は君の方でも、詳しく調べたのだろう…」


「盗賊も見つかり処分され、記録もおかしなところはなかった。不自然なほどにな」


 元々藍家が襲われたと、当時有名な話だった。星華が陵家に再び戻ってきた時に、再度調べなおしたが収穫はなかった。


「なんだか…(にお)うな。陽惺さんが追っていた調査の方は?公主の警護に加え、陽惺さんのことまで調べていたら屋敷に帰る暇などないわけだ」


 働きすぎだと蓮承は、呆れたように肩を(すく)めている。


 密かに兄の件を調査を進めていた。


 兄の件は皇守衛の中でも禁忌(きんき)となっているため、表向きは公主の護衛で忙しいと見せかけている。


「兄は当時の不審な失踪者を調べていた。(おおやけ)になっていないが、また最近同じような失踪者が増えている」


 指揮官の地位につき、機密資料にまで目を通せるようになった。陽惺が追っていた事件の内容も知ることができたが、陽惺は調査の途中で不遇の死を遂げている。


 そして、最近各地で同じような事件が起こっているが、ただの失踪として扱われている。


 燈惺と蓮承は視線を合わせ頷きあう。二人の想像は当たっているのだろう。


「…まだまだ、事件は終わっていないようだな」


「あぁ。私が傍にいれない時は、お前と雨衣に星華のことを任せたい」


「もちろんだ。頼まれなくても、雨衣と私は星華さんの絶対的な味方だ。しかし、星華さんには何も話さないのか?」


 任せろと(たくま)しい表情を見せた後、蓮承は真面目な顔に戻りそう問いかけた。


 燈惺は黙り込み深く考えた後、冷え切った茶を一気に飲み干した。


「…話したら、星華は私の元を去るだろう」


 蓮承は目を大きく見開き、激しく(せき)込んだ。(すす)っていた茶を台に置いて、咳を落ち着かせるために胸を叩いている。


「…驚きだな。星華さんに昔のことを思い出してもらうことが、真相を知るには一番早いと君もわかっているだろう。兄の死の真相を探るためだけに生きてきた君が…そんなことを言うなんて」


 そう言いながらも蓮承は嬉しそうだ。


 燈惺は相変わらず無表情でわかりにくいが、唯一の友である蓮承には十分に伝わっているようだ。その内心は、大きな不安に襲われていると。


「星華は必ず自分を責め、自ら去っていく。それが…何よりも怖い」


 周りの者が想っている以上、もはや執着なのかと悩んでしまうほど、燈惺の中で星華の存在は大きい。


 最初は疑いから星華を見張っていたが、今は全てを抱えこむ星華のことが心配で、その華奢(きゃしゃ)に体に触れたくて、笑顔の裏で突然消えてしまいそうな(はかな)げな姿をずっと目でおってしまう。


 初めての感情を受け入れるまでに星華を酷く傷つけてしまったが、両親が愛しあっていたのだと星華が示してくれた時、ようやく彼女を心から愛していることを認めた。


 認めてしまってからは自分でも呆れてしまうほど、嫉妬深く星華を求めてしまう。


 だからこそ、星華の腕輪を見てしまった時、燈惺が一番恐れていた結末に今までにない恐怖が襲ってきた。


 兄の死の真相を探ると決めてから、何も怖いものはなかったが、初めてこんなにも…怖いという感情を覚えた。


 あの時、目の前で微笑んでいる彼女がいなくなると思った途端、抑えきれずに強く抱きしめた。


 それが燈惺の出した答えだった。兄への裏切りだとしても、他の何かを失ったとしても星華だけは失いたくない。


 今の燈惺は、星華から自分の元を離れたいとせがまれも、その手を離すことはできないだろう。閉じ込めてでも離したくないと、恐ろしいことさえ考えてしまう。


「…だから、礼風さんのことも話さないのか?」


「兄の元許婚(いいなずけ)と話したら、兄の死について深く知ることになる。何か想い出させてしまうかもしれない」


 礼風は幼なじみであり、兄である陽惺の許嫁だった。


 父親同士が決めた話だったが、二人とも許婚として過ごし、礼風は良く陵家へ訪れていた。


 陽惺が礼風をどう見ているか尋ねたことはなかったが、幼なじみとしてはとても大事にしていた。


 礼風は燈惺の前では、小言にちょっかいにと今と変わらない態度だったが、陽惺の前ではおしとやかな娘だった。


 彼女なりに陽惺を一途に想っていたようだが、陽惺の死で二人の縁は切れた。


「しかし、妻の前だというのに礼風さんは遠慮がない。星華さんは誤解しているだろう。あの雨衣が私に礼風さんと君の関係を教えてほしいと頼んできたのだぞ」


「話したのか?」


 その問いに、蓮承は大げさに横に首を振った。


「のらりくらりと逃げきったが、雨衣の初めての頼みだったというのに、叶えれず私がどれだけ苦しんだか…。わかった…そんなに怒るなよ」


 燈惺の鋭い(にら)みに、蓮承は口を閉じる。


「礼風も兄の死を調べているようだ。彼女は星華が関わっていることにも気づいているが、一人でそこまで辿り着くなど無理だ。誰かが後ろにつき、礼風を送り込んだ可能性がある。現に、礼風は父上にまで手を回している」


 蓮承もそこまでは気づいてなかったようだ。まさかと眉を(しか)めている。


 黒幕を探るため礼風をわざとそばで自由にさせているが、彼女は中々ぼろを出さない。


泰惺(たいせい)さんは…藍家との婚姻に大反対していたのだろう?」


「兄は母の死を調べるために皇守衛として王宮に上がり、王弟夫人の護衛中に亡くなった。王弟夫人の姪との結婚は、兄の死を探るためだと父は気づいていた」


 もしも、王弟夫人の死が事故死でなかったとしたら。兄は母の死を探るために王弟夫人の護衛についたのか、ただ王弟夫人を疎む者へ策略に巻き込まれたのか、そのどらかなのはまだわからない。


 ただ兄は何かを掴み、王宮に入り込んでいた。


「泰惺さんも頑固だからな…」


「父は聞く耳を持たず反対したため、勝手に星華との結婚を進めた。手を回し、結婚したことを気づかれないようにしてきたが、礼風は陵家に居候(いそうろう)させないと父に話すと(おど)してきた。星華に父のこと、兄の死のことを話さないことを条件に置くと話しているが…」


 礼風を近づかせないとするほど、燈惺と星華の距離が離れていく。そろそろ燈惺の方が、我慢の限界だ。


「雨衣が言っていた。星華さんは強いように見えるだけで、ただ隠すのが上手なのだと」


「…わかっている」


 と言うと、わかっていないと、蓮承は珍しく声を荒げた。すぐにその表情は柔らかくなる。


「君がどんなに星華さんを想っているか私には良くわかるが、星華さんは何も知らない。星華さんのために話さないなんてことも、本人は知らないんだ。君は言葉より態度で愛を示しているが、言葉にしないとわからないこともあるからな」


 友のごもっともな意見に燈惺は黙り込むしかできなかった。













 虫一匹の泣き声さえ聞こえない深夜、燈惺は寝室を出て詠星苑へと向かった。


 星華と過ごせない代わりに、燈惺がこうして夜な夜な詠星苑(えいせいえん)越しに星華に想いを馳せているなど、誰も気付いていないだろう。


 しかし、深夜というのに星華の寝室の前に人が(たたずん)んでいた。灯りを消しているため良く見えない。


 音を立てずにその者の元へ向かい、逃げられないようその腕を掴んだ。


「燈惺…?」


 不思議そうに見上げて来たその細い腕の主は星華だった。


「こんな時間に…。泣いているのか?」


 暗かったが満月の明かりが、星華の大きな瞳から溢れる涙を照らした。白雪のように白い肌はいつもより真っ白で、唇の色を失くしていた。


「…怖い夢を見て…外の風に当たりくなったの」


 皆を起こさないようにとの配慮で、星華は小さな声で呟きながら、荒々しく涙を拭う。


 燈惺はそんな星華の手を止め優しく涙を(すく)いあげる。黙り込んだ星華に息を吐くと、その体を横抱きに抱き上げた。


 悪夢など、燈惺を心配させないための嘘だ。


 星華も燈惺へ恋心を抱いてくれている。


 それはきっと燈惺が星華へ抱く想いと比べたら淡いものなのかもしれないが、燈惺の抱擁(ほうよう)や口づけに一生懸命にこたえる姿から十分に想いは伝わっている。それだけで十分だ。


 礼風が燈惺へ恋心を向けていないとしても、礼風の存在が星華を苦しめている。


 こうして寒さに打ちひしがれ、いつも一人で泣いていたと思うと、そのまま手放すことなどできなかった。


「きゃっ…」


 声を上げた星華の唇にそっと人差し指を当てる。


 何か言いたげな星華を無視して、その軽すぎる体を抱いたまま、迷わず自分の寝室へと向かった。中に入ると、寝台の上に星華を優しく下ろす。


「…突然、どうしたの?」


「共に寝たら、悪夢も怖くないだろう」


 目を丸くしている星華の耳元に顔を寄せて、甘い声でそう囁く。


「なっ…」


 頬を赤らめた星華が可愛くて、燈惺は自分でも表情が緩むのが分かった。


 有無を言わさずに、星華の靴を脱がせていく。靴を脱がせるなど使用人が主へ行う行為であり、本来は妻が夫の靴を脱がせるものだ。


 恥ずかしげもなく淡々と靴を脱がせる燈惺を星華は頬を赤く染めたまま見つめていた。寝台の下へ靴を丁寧に並べると、燈惺は星華の隣へ寝転がった。


 恥ずかしそうに背中を向けた星華の体をこちらへ向ける。


 薄い夜着の星華に触れると、その体がとても冷え切っていることに気づいた。もともと星華は寒がりだが、ここまで冷えると体に良くない。


「こんな薄着で…どれだけ外にいたんだ。体が冷えてる」


 怒りを含んだ声と裏腹に、燈惺は星華のおでこにそっと口づけを落とした。


 ゆっくりと唇を離すと、次は陶器のような美しい右頬へまた熱い口づけを落とす。


「…じゃあ、あっためて」


 星華は少し頬を膨らませた後、顔を隠すように燈惺の胸の中に顔を埋めた。


「…っ……」


 理性を壊す星華の行動に、目をきつく閉じ必死に(こら)えるが、背中にまで手を回して来た星華に、もう堪えることはできなかった。


 冷静沈着、冷酷と言われてきた死神も愛する妻の前ではただの人だ。


「きゃ…」


 勢いよく星華の体を一度抱き上げると、その大きな瞳を真っ直ぐに見つめながら、その体を寝台へと下ろしてあげる。


 枕に上に星華の頭を優しくのせると、その頭の両側に手をついて体を支える。星華へ(おお)いかぶさる形になりながら、きょとんと見上げて来るその瞳を見下ろす。

 

 彼女にとっては何でもないであろうその表情さえ、燈惺の鉄壁の理性を簡単に崩していく。


「だから、(あお)る…お前が悪い」


 女子にしては身長が高い星華だが、こうして組み敷いてみると、とても小さく感じる。


 安心させるために、その(なめ)らかな髪を優しく撫でると、その小さな唇へ近づいていく。唇が重なった途端、今回は最初から深くその唇を堪能(たんのう)する。


 ここ最近ずっと触れることも叶わなかったため、余計に星華を求めてしまう。


 最初は逃げるように少しだけ顔を背けた星華も、次第に燈惺の背中をぎゅっと掴み始めた。


「…ん……」


 星華から(こぼ)れる甘い声に、愛しさが増していく。

 

 甘く深い口づけを何度も交わした後、燈惺は久しぶりに深い眠りへとつくことができた。


 愛しき人の隣で眠るという初めての幸せに(おぼ)れきっており、抱きしめている胸の中で、星華が涙を流していることに燈惺が気づくことはなかった。





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