world be 1.1.2
翌日、六鎌にいくと、昨日起こったことが全生徒に発表された。そこで、六波羅探題が鎌倉市内で侵入した密偵を探索するとともに、六鎌生が鎌倉の辺境警備を行うことになった。
六鎌生にとっては手柄を立てるチャンスである。敵の侵入しやすい地点であればあるほど手柄を立てるチャンスが大きい。探索地点の割り振りは翌日の選抜戦の結果で割り振られることとなった。竜太は澪、誠、琴音とチームを組んでいたが、竜太のチームの最大戦力である誠が死に、琴音も入院中である。このままいくと竜太のチームは棄権扱いとなってしまう。
午後の双極の実習だ。双極とは剣兵と弓兵が組となり、戦う形態であり、戦闘時の基本単位となる。六波羅探題付属鎌倉師範学校(通称「六鎌」)は六波羅探題直属の密偵養成所であるため、少数暗殺の基本形である双極は重要な講義である。双極の基本形は、剣兵が敵の注意を惹き、そのすきに弓兵が射るというものである。
双極の訓練では、木刀と切っ先に綿棒をまいた矢であるポンタン矢を使って、双極同士で戦う。
双極の組み合わせは気の合う者同士で組むのが原則である。なぜなら、二人の連携が生死を大きく分けるためである。そして、竜太は琴音と、澪は誠と組んでいたが、琴音がけがをし、誠が死んだため、竜太と澪はともに相方がいなくなってしまった。そのため、必然的に二人が組むこととなった。
そのことが発表されたとき竜太はうれしかったが、同時に後ろめたさも感じた。竜太の希望通りに、澪と仲良くできる機会が到来したが、澪はどう思っているか。いまだに、誠が 最後に澪に何を話したかが分からない。誠は竜太が勝手に橋を落としたことを話していないと確信が持てなかった。澪は少し顔を下に傾けたまま何も話さない。気まずい空気が流れていた。しかし、竜太は負い目があるので、澪に優しい言葉をかけることができなかった。
ただ、
竜「元気出せよ。」
としか言もいえなかった。竜太はあんなひどいことをしたことの負い目からである。
しかし、訓練が始まると澪は身に沁みついた習性から、矢を的確に射た。むしろ、訓練に集中しているほうが、辛いことを忘れるかのように普段よりも真剣に励んでいた。その眼にやがて怒りのようなものが、宿ったようにも感じられた。
竜太と澪の合性はそれほど良くはなかった。しかも、竜太は澪と組めたうれしさから浮ついておりまったく集中できていない。それでも、澪の技術のおかげで何とかなった。竜太も3秒ぐらいは数えられる。よけると3秒前に竜太がいたところに正確に矢が飛んでくる。それだけで相手を負かせられた。そうして、初めての共同訓練は終わった。
終わった後、去り際に
澪「あんたのことは許さないから。」
そう澪が言い残して去っていった。
竜太はそれが何を意味しているのか分かりかねた。橋を落としたことまではわかるのだが、本当は竜太が誠を裏切ったことを最後に誠から聞いたのかが分からなかった。澪に言われたことよりも、そのことが竜太を悩ませた。
放課後、誠に言われた、名越文庫の二階に行くことにした。
名越文庫は学校で使う教材を保管しているところであり、その二階は閲覧室となっている。しかし、誰も授業後になんかわざわざ名越文庫の二階に行き本を読む奴なんかいない。そんなところに何かあるのか、そう思いながら向かった。
名越文庫の入り口の扉を開けようとしたがつっかえた。鍵などついていないはずなのにおかしい。そう思って諦めようとしたその時、中から
謎「きビのボぼボうブをボとボってべのボよボこボのボあバなバにビいビれべろボ。」
竜太はなんとなく木の棒をとって横の穴に差し込めと言われたよな気がして、言われた通りにした。すると、つっかえ棒が倒れる音がした。もう一度試してみるとみると難なくあいた。
階段を上がっていくと明かりがついており、そこに女がいた。同じクラスの美月である。美月はきれいではあるが、物静かで声が低いため暗い印象がつよく竜太は近づきにくいと、近づきがたい感じ、話したことはなかった。
美月は驚いた顔をしていた。
美「なんでバビ語を聞き取れるの?」
理由はよくわからなかった。ただ、竜太は頭の回転が悪く、余計な雑音を頭で処理しきれなかったからそれを無視して聞いたら聞き取れただけだった。。
竜「なんで入れないようにしたんだ?」
学校の施設なのに入れなくしているほうがおかしい。」」
美「邪魔されるのが嫌だから。」
竜「犯人なら全員死んだ。」
美「まだ、一人生きているらしいじゃない。」
竜「でも、澪が片目を潰した。」
なぜ、美月が事件のことを知っているか分からない。それとも美月は誠を殺した侍のことを知らないのかとおもわれた。当惑している坂本を見て美月が続けた。
美「その男を殺さなくてはならない。」
そのとき坂本はハッとした。そういえばなぜ誠は教師が言う前に福田が殺されたことを知っていたのか。大人達は秘密にしていたはずなのに。
竜「なぜ?」
美「秘密。でも見つけて殺す。」
普段はおとなしいと思った美月から、殺すなどという言葉が出ることのを意外に思うとともに、澪ならともかくなぜ美月がそこまで恨みを抱くのか疑問が生じた。ひょっとしたら美月も誠に好意を寄せていたのかもしれない。
そう思うとさかもとは、次の質問をせざるを得なかった。
誠とここで何かしていたのか?
美「秘密。それより貴方はなぜここに。放課後まで本を読む人とは、思ってなかったけど。」
坂本は軽くバカにされる。しかし、坂本には慣れているので軽く流し
竜「誠に放課後ここに来るように言われた」
美「誠にねえ」
そういい、美月はしばらく考えてから
竜「いいわ。あなたに教えてあげる。」
美「私と誠はここで、世界の秘密について調べてたの」
竜「世界の秘密?」
美「そう。私たちは騙されてるの。」
誠と同じことを言っている。
竜「騙されるって、誰が、何を、何のために?」
誠に聞きそびれたことを聞いてみた。
美「今までの歴史は事前に仕組まれているのかもしれない。」
竜「具体的には?」
美「例の『日本史』の本を読んだ。」
竜「ああ、確かに読んだ。お前があの本の持ち主なんだってな。」
美「そこには今日何が起こるって書いてあった?」
竜「今日『健治』に改元されるって書いてあった。」
美「これを見て。」
そう言って、美月は竜太に紙を見せた。それは号外で「健治に改元」と書いてあった。
竜「こんなの、改元されることを知ってた人間がこの本を書いたのかもしれないだろ。」
美「じゃあ、この後何百年も飽きてあることはどうなのよ。それに、何のためにそんな本を作る必要があるの。」
竜太は言葉に詰まった。
美「だからこの本はこれから起きることの予言書なのよ。」
竜「昨日起きたこともこの本と関係があるのか?
美「おそらくね。でも、この本のことは秘密にしておいた方がいい。誠も本のことを聞いて回っていたから殺されたのかもしれない。とにかく逃げた男を見つけ出すことね。幕府は鎌倉から出る7つの切通の検問を強化するはずだから、その男は出れなくなってるはずよ。」
竜「なるほど。で、どうやってその人物を見いつけるんだ。
美「そうね、おそらくそいつは誠の交友関係にも興味を持つはず、とくに一緒に衣張山に登ったあなたたち3人にね。だからあなたたちは何も誠から聞いて内紛に装ったほうがいいわ。たぶん向こうから接触してくるはずよ。」
竜「わかった。澪と琴音にも伝えておくよ。」
そういうと、坂本は急いだほうがいいと思い名越文庫を出た。去り際に美月のほうをみると少し寂しそうにこちらを見ていた。
澪の家に向かっていると、人だかりができていた。そして、その人だかりのなかに、首のない女性の死体が斃れていた。遅かった。一瞬坂本はそう思った。しかし、次の瞬間に安どした。澪ではない。なんとなく30歳を超えた女性のようであった。
坂本が人だかりに近づき、そのうちの一人に聞いてみた。
竜「どうしたんですか。」
男「いや、物騒なものだ。俺が来た時にはもう人だかりができてた。それにしてもえげつないことをする。ほれ、あれを見てみろ。」
そういうと、死体のそばに紙が落ちていた。そしてそこには『母親の首を返してほしければ、あの場所に一人で来い。人を連れて来たら二度と母親の首は返らないと思え。』
それを見て、坂本は嫌な予感がした。そういえば、坂本はこの女性を知っている。そう、澪のお母さんだ!
竜「この人の子供がこの辺にいませんでしたか?」
坂本は人だかりに向かって大声で聞いてみた。
男「いたとも、騒ぎを聞きつけて来た女の子がこの死体に泣きついたあと、何かを決意したかのように歩いて行ったよ。金でも払って首を取り返すつもりなのかな。かわいそうなことだ。」
澪だ!目的は金ではない。澪の命だ。そして、あの場所とはおそらく侍が潜んでいた場所だ。
坂本もれいの場所に向かって走っていた。
そのころ、澪は衣張山の薪取り場から、例の場所に通じる森には言いていた。もう涙も枯れ果て、右手には弓を握っていた。数日のうちに大事な人を二人も奪われ、悲しさと怒りが極限に達し、気が狂いそうであった。だがその二つの感情が、同時に極限に達すると、逆に放心状態に近くなり、敵に対する恐怖や人に頼んで首を取り返してもらうことなどがどうでもよくなり、ただ、気の強い澪は自分の手で侍を殺すことそれのみを考えて歩いていた。
謎「えらいな。一人で来たか。」
侍が待っていた。
澪「お母さんの首を返して。」
謎「いいだろ。だが、仲間を殺した罰だ。お前の命と引き換えだ。」
澪「それでもかまわない。でも、あなたも殺す。」
そういうと、澪は弓を構え、矢を放った。
謎「おっとあぶね」
そういうと、侍は矢をよけ木の陰に隠れた。
謎「森の中じゃ弓は不利って習わなかったか?」
その返事の代わりに澪は矢を放った。矢は木の陰からはみ出ていた侍の足の甲に当たった。
謎「ぐわ。」
侍は、悲鳴を上げ、逃げた。逃げる侍に容赦なく澪の弓が襲う。侍は女の子だと思って見縊っていたが、澪は弓道場の娘なので、侍の想像を超えた弓の使い手だった。肩や太ももに何本も矢が刺さった。刺されながら侍は逃げた。そして、侍の全身が隠れるくらいの気に侍が隠れると膠着した。
澪「なんで、お母さんを殺したの?」
そう澪が聞いた。
謎「俺の大切な仲間を殺したからだ。お前らにも大切な人を奪われる苦しさを味合わせるために、ここ数日お前らの家を見つけ機会をうかがっていたのさ。」
澪「あなたたちが、こんなところに来るから、殺し合いになったんじゃないの。」
謎「ここは本来俺たちの土地だ!」
そう怒鳴ると、侍は腰に下げていた袋から、球状のものを取り出し澪のほうに投げた。しかし、それは完全な球状ではないため、いびつな転がり方をして、澪の前まで転がった。澪の母親の首である。半分目を開け、虚空を見つめていた。その生々しさに、澪は忘れていた感情が一気にあふれ出した。
(お母さん!一瞬澪はそう思った。しかし、地面に転がったそれは澪の想像を超えていた。鼻と耳がそがれ目がくりぬかれた首であり、顔の輪郭から辛うじて澪には母親の首と分かるものであった。
澪「ああ」
言葉にもならない声を出しながら澪はその場にへたり込んだ。
澪「ひどい。ひどすぎる。」
)
澪「お母さん。」
枯れていたと思っていた涙が再びあふれ出し、首の前にへたり込んだ。
澪「お母さん。お母さん。お母さん。」
そう何度もいいながら、母親の首にそっと手を伸ばした。
そうれを見ていた侍が太刀を抜き、木の陰から出てきた。澪もそれ気づき侍のほうを見て矢を放った。しかし、涙で視界がゆがみまともに弓を打てる状態でなかった。侍の狙いはそれであった。2、3本弓を打つ間に侍は間を詰めていた。いよいよダメかというとき足音が聞こえてきた。しかも、一人ではない。坂本が武士とともに駆けてきたのだ。
侍もそれに気づいたらしく。
謎「ちっ。人を呼ぶなといったのに。」
そう言い残し。森の中に逃げていった。
坂本が澪のもとに近づくと澪は坂本のほうを振り向き。
澪「お母さんが・・」
そういいながら、首のほうを指した。その顔は悲しさで歪みきっていた。
坂本や駆け付けた武士たちも凍り付いた。なぜここまでひどいことが出来るのか。皆がそう思った。あまりの惨状に澪にかけてやる言葉を誰もひねり出せずにいた。そのなかで題員だけがそっとと羽織を脱ぎそれで首を包んだ。初老に差し掛かっているため題員にはほかの者よりも死に対して、臆さないようであった。それから題員は、澪に近づき。
題「よく取り返した。」
そう声をかけて、澪の前に首を置いた。
とたんに澪は首を抱きしめ人目をはばからず泣いた。いつまでも泣き続けた。
翌日、名越文庫に行くと美月はいなかった。どうやら一人で探りに行っているらしい。竜太は自分が律義に毎日ここに来ることが割れながら滑稽に感じた。だが、することがないので、琴音のところに行くことにした。
琴音は起き上がることができるようになっていた。冬月も今日退院できるといってくれた。
翌日は美月は一人で調べるといっていたし、琴音の退院日なので治療所に行くことにした。
琴音は起き上がり身支度を終えていた。
琴「あ。竜ちゃん来てくれたんだ。」
相変わらずいい笑顔だ。竜太は琴音の荷物を担ぐと冬月に礼を言って一緒に退院した。
竜「怪我は痛くないのか?」
琴「肩をあげると痛い。でもそれ以外は平気。」
竜太を心配させないように満面の笑顔を見せた。
琴「私の入院中どうしてた?」
竜「澪のお母さんが殺された。」
琴「!?」
竜「例の男の仕業だ。」
琴「澪ちゃんかわいそう。」
竜「なあ、澪のところに寄っていかないか?」
琴「澪ちゃんのところ・・・」
何かを思ったのか一瞬ためらったが、
琴「うん。行こう。」
澪の家に行くと明かりが消えていた。澪の家は元寇以後に幕府が兵力増強のため急増させた新興武家ではなく、古くからの武家であり、父親と兄は小田原に赴任していた。母親が死ぬと家には澪しかいなかった。
門を叩いてみても返事がなかった。かわりに庭の方から何かが刺さる音がした。驚いて、竜太と琴音は塀の上から覗いてみた。そこで澪が弓を射ていた。目を真っ赤にし、指からは血が出ていた。涙は出ているのに、悲しいというよりかは悲しいことを忘れたくて無心に矢を射ている。数分の間ずっと続けている。おそらく、学校に来ていない間ずっとそうして過ごしていたのだろう。
琴「澪ちゃん。」
琴音が声をかける。しかし、澪はこちらを向かないでなお続けている。ギイと音がして使用人のおばあさんが門を開けてくれた。
女「澪様のお友達ですか?」
竜「ええ。」
女「澪様を慰めていただけませんか。もう数日ずっとああなのです。」
そう言って、庭に通してくれた。
竜「大丈夫か?」
大丈夫なわけがないが、そんな言葉しかかけられなかった。なおも射続け、射るたびに指から血が飛ぶ。
竜「もうやめたほうがいい。」
竜太が澪の右手をつかんで止めさせようとした。
竜「触らないで!何もできなかったくせに!」
竜太は思わず手を引いた。澪は自分のことをそんな風に思っていたのか。澪も自分の言葉に少しびっくりしたのか、手を止めた。
澪「ごめん。違うの。何もできなかったのは私。」
そう言い訳したが、少し遅かった。澪は自分の言葉を悔いた。
琴「澪ちゃんしょうがないよ。誠君以外じゃ勝てなかったよ。」
琴音が何とかしようとした。
澪「いや。あの時私は足がすくんで何もできなかった。あの時私が死んでいればお母さんは死ななくて済んだのかも。」
琴「澪ちゃんそんなこと言わないで。悪いのはあいつらなんだから。」
澪「今日はもう帰って。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから。」
そういって、澪は家の中に入って行った。
竜太はその帰り道陰鬱した気持ちになった。
(澪は俺のことをあんな風に思っていたのか。でも、俺が誠を殺したことはやっぱり知らないのかな。)
琴音もそんな竜太を見越して何もしゃべらなかった。夕暮れ時の涼しさが逆にわびしく感じられた。




