world be 1.1.3
翌日朝早く、竜太が文庫に行くと美月と六波羅探題北方である北条時村が話しているのを見てすぐさま跪いた。
美「ああ、彼のことは気にしないで。」
時村は幕府でも高官であるが、それが小娘に過ぎない美月と対等に話していることに驚いた。たしかに、六鎌は確かに六波羅探題の直属であるが、その生徒とトップが話していること自体がおかしかった。なにより、六波羅探題の時村は幕府の中での序列も第3位の超高官である。
時「私はこの辺で。」
そう言って、時村が出て行った。竜太がなおも驚いた眼で見ていると。
美「時村から重要な情報をもらったわ。」
竜「なんだよ。」
美月が竜太の動揺など構わず続けたので、少し不愉快になった。
美「澪の母親の耳と目がそぎ落とされていたでしょ、あれはモンゴル人の風習だって。」
竜「じゃあ、あの片目の男はモンゴル人なのか。」
美「そう。で、ここからが本題。片目の男はもう目立つし、負傷してるから援軍を呼ぶはずなのよ。だから、ちかく六鎌の生徒も城壁警備に駆り出されるらしいの。」
竜「俺たちが?」
美「だから、どうしても1位になってね。なれなかったら殺すから。」
美月の言葉にはすごみがあった。時村と対等に話ができる美月なら、本当に殺しかねない。そもそもなぜ、美月が時村と対等に話せるのか謎のままであった。
その後、竜太が六鎌に行くと騒がしかった。最近のごたごたで忘れていたが、選抜公試の日が翌日に迫っていた。
選抜公試とは、六鎌の生徒の中から六波羅探題の援護をする生徒を選抜するものである。援助部隊に選ばれることは六鎌の生徒として最大の名誉であった。
公試の内容は、団体戦であり、武術、知識の両方について総当たり戦で競うものである。成績の上位2チームが選ばれる。
竜太のチームは竜太、誠、澪、琴音であった。しかし、竜太は困った。竜太のチームの最高戦力である誠が死に、澪が不在、戦力にはならなかった。仮に、誠と澪が建材だった場合、竜太のチームは他を圧倒していた。さらにその二人がいないことに加え、琴音も入院中である。美月が琴音の代わりに加入したとしても、美月の戦力は未知数である。
竜太は美月に頼ることにした。美月は別のチームに所属していたが、なぜか簡単に移籍を承諾してくれた。その理由は、美月のチームメイトも気難しい美月を持て余していたためであった。あとは、男一人を調達しなくてはならない。しかし、美月が
美「どういう男がいい?」
と、誰でも連れてくるような言いっぷりをした。
竜「とにかく強い男がいいな。誠ぐらいに。」
美「任せておいて。」
そう言うと美月どこかに行ってしまった。そう簡単に誠くらい強い男が見つかるわけではないのに。
しかし、驚くべきことが起こった。午後の授業が始まる前に、急に転校生が入ってきたのである。転校生が入ってくるのは朝と相場が決まっているのに。翌日まで待てなかったのだろうか。名前は和也といい、かなり体格のいい男であった。そして、さらに驚くべきことに竜太のチームに入りたいと申し出てきた。誠が死んだことで六鎌としては人員補充をすることは当然であったが、美月の機能のセリフから美月が何か関わっていることが予想された。
竜「どうやったんだ?」
美「頼んでみた。」
竜「時村様にか?」
美月はその質問には答えずに和也のもとに行き内緒話をし始めた。
和也という男はかなりの筋肉質のようであった。しかし、表情は穏やかで、親しみやすそうであった。
和「よろしくな。」
和也は親しげに竜太に話しかけてきた。しかし、竜太は初対面の人と仲良くなるのが苦手であったので、
竜「おう」
とだけしか答えられなかった。
そこに、美月が割り込んできた。
美「人数はそろったわ。あとはどうするかね。」
澪は昨日は休んだが、今日は六鎌に来ていた。しかし、母親が死んでいるので、公試をする精神状態ではないのは明らかだ。また、和也も誠ほどの戦力になるかも不明であった。
美「武術の方は、問題なさそうね。」
竜太は耳を疑った。美月には澪の気持ちが理解できないのかと。
竜「おい。澪の気持ちも考えてやれよ。それに、この和也君の実力を知っているのか?」
美「始まってみればわかるわ。」
そういって、どこかに行ってしまった。
美「そのかわり、死んでも優勝するのよ。私には目的があるのから。」
竜「目的って?」
その質問にも美月は答えてくれなかった。
最初の武術の選抜公試が始まって、美月の話が嘘ではないことが分かった。澪は、いつもの通り抜群の弓術を見せた。また、それよりも驚くべきは和也の剣術であった。巧みな剣さばきと激しいうち込みで、対峙して10秒もたたずに一本を取ってしまう。先鋒の竜太が全負けしても和也がすべての対戦チームの先鋒と大将を倒してしまった。
残るは、竹本彩花の率いるチームだけとなった。しかし、この竹本のチームが強敵である。
竹本には1号、2号、3号と呼んでいる取り巻きがいる。周りは下僕1号、2号、3号と考えているが、本人たちは恋人候補1号、2号と思いこんであり、竹本の命令に従っていれば5日は付き合ってもらえると思いこんでいる。3号は竹本の親に借金をしているかわいそうな女の子である。
敵の先鋒は2号である。2号は勉強ができるが、剣道の実力は最下位で、竜太よりも下である。そのため、竜太はやっと1勝することができた。
竹本「1号やってしまいなさい。」
そういうと、1号がやってきた。1号は身長が180センチメートルもあり、腕は丸太のように太かった。そして、1号は誠についでクラスにおける剣術の実力者である。
審「はじめ!」
審判の合図とともに、打ち合うと1号の一撃を受けるたびに、竜太の竹刀は大きく震えた。数合も打ち合うと、竜太の手はしびれてきて動きが鈍くなったところで、面をとられた。
その面も割れるくらい強い衝撃であった。
つぎは、大将の和也である。
実力者は相手の構えを見ただけで、実力が分かるようである。竜太に対してはすぐに打ちかかってきた2号が全く動かずに様子を見ている。和也もである。
1分ほど見合ったあと最初に仕掛けたのは、1号であった。軽い仕掛けで、面を打ちに行ったところ、和也はそれを弾いた。その弾きがすさまじく、1号の竹刀が大きく右にそれた。その刹那、和也の竹刀が素早く1号の面を打った。一瞬の出来事であった。
1号は何が起こったのか理解できないようであったが、審判は和也に旗を挙げていた。
竜太のチームは全勝であった。
次は、筆記である。筆記のテストは、戦術と地理学、物理学の3種類の問題が出される。
筆記は高本のチームは3号のみが優秀であったが、竜太のチームは澪、美月、和也がともにトップ3の点数を取り圧勝であった。竹本のチームは3号のみが上位の成績を収めただけで、それ以外はさんざんであった。ちなみにビリは1号で竜太はブービーであった。1号は武術以外全くダメで、その武術も和也に負けたため、竹本からボコボコにされていた。
次は、弓道である。
竹「あら、元の弓使いさんじゃないの。」
竹本が澪に吐き捨てるように言った。澪が使っているのは、元軍が使っていた満州弓というものであった。元寇の際、幕府軍が元軍から入手して複製したものである。
満州弓は単一の素材で作る和弓とはことなり、木、竹、獣の角や金属などの素材を複数使って作られた弓で、和弓よりも扱いやすく、力を入れなくても飛ぶ。しかし、伝統的な武家は敵国の武器として忌み嫌い、優れているにもかかわらず使わなかった。それに対し、先見性のある武家は積極的に取り入れた。特に、澪の家の神坂家はその素材の組み合わせに成功し、鎌倉における満州弓の第一人者となった。
一方、竹本家は伝統的な和弓の家元で、満州弓の隆盛のため、門下生を神代家に取られていた。そのため、竹本は澪のことが大っ嫌いであった。
それまで、誠と母親の死で気分が沈んでいた澪はその一言で目が覚めた。
竹本も家元の娘であるため、そこそこの成績絵を収めたが、結局、澪が竹本と2号を圧倒した。
弓道も澪が心配をよそに1位の成績を収めて、竜太のチームが他のチームを抑えて圧勝した。竹本のチームは2位であった。




