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World be  作者: 森羅君
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world be 1.1.1

「知っているか?俺たちは騙される。」

振り向くと誠の楽しそうな顔があった。

竜「何に?」

俺は後ろの席の誠が鎌倉一の美女である澪と付き合っているから嫌いだ。そのため、そっけなく聞いた。

誠「全てにさ、それよりも前を向いていたほうがいい。岩崎に殺されるぞ」

岩崎は戦術の教師であるが、質問に答えられないだけでも鉄拳で制裁する。この鎌倉時代においては野蛮なことこの上ない。許されるのはせめて平安時代までである。ましてここは最新都市鎌倉だ。そんな原始的な教育方法をする教師は道徳的に斬首のうえ、さらし首にしてほしい。

竜「全て?具体的に言ってくれないと分らないよ。」

 誠が理解しにくいことを言うので困った。

誠「たとえば、元寇では本当は幕府が勝ってたのかもしれない。」

 ますます困った。誠が何を言っているのか全く分からない。

竜「幕府は元寇で箱根以西の地を失ったのだから、幕府の敗北は明らかだろ。」

誠「じゃあ、これを見てみろよ。」

 誠が破れた本差し出した。本の裏表紙を見るとそこには、日本史Bと書かれていた。

竜「なんだよこれ?」

誠「これは予言書だ。これには日本の過去から未来のことがすべて書かれてるんだ。」

 インチキな商人が言いそうな謳い文句である。極楽浄土に行けるお札とか弁慶が使っていた薙刀とか。元寇のあとはそのようなイカサマ商品を売る行商人が増えて困っている。これもすべて元寇のせいである。広い草原に住んでいるのだから、わざわざ狭い日本に来る必要性が分からない。

 竜太は誠もそのような商人から騙されて買わされたくだらない本だと思った。

 しかし、偽物にしてはその本はあまりにも完成度が高かった。まず、表紙の文字が見たこともない綺麗なものであった。しかも、やたらと人間味のない文字である。それに加え紙もかなり上等なものとひと目でわかった。表面がつるつるしておりなおかつ丈夫そうであった。

竜「日本史?なら、過去のことしか載ってないんだろ?」

誠「違うんだよ。この本は未来に書かれたものなんだよ。つまり、これから起こることも書いてあるんだよ!」

竜「じゃあ、元と幕府の戦いはこの先どうなるんだよ。」

誠「少なくとも、幕府は1333年に足利尊氏によって滅ぼされるけど、当分は滅亡しない。」

竜「www幕府はもうすぐ滅亡するよwww。」

岩「何が滅亡するって?(# ゜Д゜)」

 振り向くと、岩崎が立っていた。


 私語の罰としての昼休みの床掃除が終わった。途中で何度も、俺が肩代わりしたおかげで登板の掃除を逃れた生徒から薄笑いを浮かべながらねぎらいの言葉をかけられた。

生「毎度ご苦労さまです。」

入学10日で3回目の罰掃除であるため、どこをサボれば早く済んだり、バレなかったりというのはわかりきったことで、掃除や嫌味はやそれほど苦痛ではなかった。しかし、好きな澪に哀れな目で見られることだけは少し嫌な感じがするので、澪に見られていないかということばかり気にしていた。 

そうじがおわり、校門に差し掛かった。校門には立派な文字で六波羅探題付属鎌倉師範学校(通称は「六鎌」である)と書かれている。

琴「竜ちゃん、お疲れ様。」

本当のねぎらいをかけてくれたのは、彼女の琴音である。澪が誠と付き合うようになった後、なんとなく付き合い出したのが琴音である。琴音はまったく可愛くはないが、竜太には過ぎた彼女である。

琴「そういえば、誠君と澪ちゃんがまだ図書室にいたよ。昼休みも勉強してたのかな?」

 琴音は何気なくそんな事を言った。

竜「なんで、そんな事がわかるんだ。」

琴「私竜ちゃんを待ちながら校門の前で、皐月ちゃんとずっとおしゃべりしてたんだけど、誠くんと澪ちゃんだけ出てきてない気がするんだよね。」

 無性に腹がたった。誠が話しかけてきたせいで竜太は罰掃除をやらされているのに、その間に誠が澪と仲良くしていることに。授業中話していたのは、誠も同じなのに、誠は岩崎のお気に入りだから、おとがめがなった。

竜「俺がせっかく綺麗にした図書室を汚されたら困る。」

 そんな言い訳は本当はどうでもよく、誠と澪がイチャついているのを邪魔するため、竜太は誠と澪の邪魔をしてやろうと校内に戻っていった。

 

 図書室に行くとそこには明かりがついていた。竜太はわざといきなり開けた。そこに、誠と澪は仲良く座って例の本を見ていた。

誠「おう!竜太どうした?やっぱりこの本が気になったか?」

竜「そんなインチキ本興味ないよ。」

澪「でも、この本はすごく良くできているのよ。きっと本物の預言書だと思うわ。でも残念ながらほとんど破れてて、残っているのは年表と本編の最後の方だけなのよ。」

竜「年表にはが載っているんだ?」

澪「『1274年文永11年元軍、九州に襲来』って書いてあるだけでどちらが勝ったかはわからないわ。」

竜「一応、過去のことは合ってるな。でもそれじゃあ単なる歴史書だ。次のことはなんて書いてあるんだ?」

澪「年表を見ると、文永2年4月25日、慶治に改元してるわ。」

竜「それって、明日のことじゃないか?!本当なのか?」

誠「改元の発表は、事前に誰も知らないから。これが当たってたら本当に予言の書だ。」

竜「そうかもな。でも、改元よりも幕府と元の戦いはどうなんだよ。」

誠「『元軍、九州に襲来』としか書いてないから、どっちが勝ったのかはわからない。問題は、『1281弘安4年元軍、再度襲来』って書いてある。元を一回撃退しても、再度襲来するみたいだな。でも安心しろ、『1333元弘3年幕府滅亡』って書いてある。元号の前の数字もおそらく年数を表しているのだろうから、あと50年は大丈夫だ。」

竜「まあ、明日の改元の発表次第で信じてやるよ。それより、もっと未来のことはどんなことが書いてあるんだ?本編の最期の方は残っているんだろ?」

澪「本編の最期の方に参議院選挙で安倍自民党が圧勝って書いてある。ずっと未来も徒党を組んで戦をしているみたいね。でも、安倍自民党って何かしら?安倍さんの率いてる義賊集団かしら?」

竜「変な義賊集団がのさばってるだな。俺たちの子孫はかわいそうだな。」

誠「でも、この橋本民主党っていうのも無能そうだな(笑)」

澪「他にも本におかしな部分があるわ。日本は1945年まで戦争してたのに、1964年にはオリンピックっていう大運動会を各国とやってるもの。未来では戦争の代わりに運動会で勝敗を決しているのかもしれないわ。だって、2020年にもまたオリンピックをやっているから。」

竜「なんか、嘘くさい本だな。仮に明日『健治』に改元されたところで、改元されることを知ってた人が書いたのかもしれないしな。」

誠「他にもこの本がインチキかどうか今日確かめる方法があるんだよ。」

竜「本当か?」

誠「ああ、今日の午後6時に光触寺に行けばわかるらしい。」

竜「らしい?どういうことだ?」

誠「実はこの本は俺の物ではないんだ。この本を貸してくれた人の代わりに今日光触寺へ行くことを条件に貸してもらったんだ。だから、皆も一緒に光触寺に行ってくれないか」

澪「私は行くわ。」

 澪は今誠に夢中であるため、誠のいくところであればどこでも行きたがる。

竜「別に構わないけど。」

 俺は澪に夢中である。

誠「でも、最近は物騒だからな。昨日も光触寺で、福田兼重が殺されているから、武装していこうぜ。各々、刀と弓をもって浄明寺に集合な。」

竜「福田様が!?本当なのか?」

 福田兼重は武名で有名な武将であり、元寇の際には100人の元軍に囲まれても平気で切り抜けていた。

 そういって、4人は解散した。


 午後の授業では、福田兼重が殺されたことを受けて、暗殺者がこれ以上鎌倉に侵入しないように、六鎌の生徒が鎌倉城周辺部を4人一組で警護することになり、チーム分けは生徒に任されることになった。

誠「もちろん俺と組むよな。」

 何がもちろんなのかわからないが、誠と組めば必然的に澪と同じチームになるから組むことにした。もう一人は琴音である。


放課後、4人は浄明寺に集合した。浄明寺とは、光触寺に山道の入り口に位置している。光触寺は鎌倉周辺の住民が秋にまきを取るために使用している寺であるが、春の今は人が少ない。

浄明寺に坂本がつくとすでに、誠、澪、琴音の三名は集合していたがそこで、一人の男が見張りをしていた。4人にはその男に記憶がある。六鎌の研修に来ていたことがある題員(六波羅探題もとで働く者)であった。

誠「なんで、光触寺に行けないんだよ」

題「知っているだろ、人が殺されたんだぞ。その犯人が見つかるまではここは立ち入り禁止だ」

誠「俺たち薪を取りに来ただけだよ」

題員「嘘をつけ、刀と弓をもって明らかに犯人退治に来ましたって格好にしか見えないぞ。」

誠「薪を取るついでに俺たちが犯人を退治してやるよ」

題「ふん、子供の分際で。仕事の邪魔だから早く帰れ」

題員はまったくもって通してくれそうもなかったので、誠たちは浄明寺を離れた。しかし、すぐ誠が全員を集めて、地面に地図を描き始めた。

誠「知っているか、熊野神社への道と光触寺への道だが、熊野神社の裏から光触寺に続く道への抜け道がある。」

坂本「何もそこまでしていくこともないのじゃないか?」

誠「絶対におかしい。単なる誘拐ならば、国内の治安を担当する検非違使の出番であるはずなのに、諜報活動専門の題員が出てきている。やはりこれは元が絡んでいると見たほうがいい」

澪「たしかにおかしいわ。」

そういうと、4人は光触寺への道を早くも上っていた。しかし、竜太にはそのおかしさが理解できなかった。


そんなことを思いながら、熊野神社まで来ると誠がおもむろに、東の森の中に入っていった。それに続いて、三人も入っていった。たしかにこの抜け道は何人か利用しているらしく、草が踏み倒され獣道のようになっていた。しばらくすると、案の定、登山道に出た。そして、登山道を登りしばらくすると、登山道と光触寺への道との帰路に着いた。そこに、首のない死体が転がっていた。死体の服装からして題員のようであった。

琴「いや」

琴音が坂本の背中に隠れた。普段は男勝りな澪も、思わず目を背けた。誠は熱心に血の跡を調べている。

誠「・・・」

坂本「題員が!!」

題員はほとんどが剣術の手練れであるため、竜太が驚くのも無理はなかった。

誠「この本の持ち主は、ここに来ると戦闘になるかもって言ってた。」

竜「じゃあなんだ、そいつは俺たちをこの事件に巻き込もうとしたのか?」

 その問いには答えず、血の跡を追って、光触寺に続く道に入っていった。竜太はその後について行くかためらったが、澪が誠のあとについて行ったので、竜太と琴音もついて行った。

道にははっきりと血の跡が続いていた。日が沈み始めており、森の中は少し暗くなり始めていた。

しばらく進み、谷にかかった橋を渡ったあたりで坂本が話し始めた。

澪「でもおかしくない?なんで血の跡が残ってたのだろう。俺が犯人なら血の跡なんかわざわざ残さないぜ。」

誠「おそらく、自分たちの居場所を教えて、他の題員が来るのを待っているんだろう。」

竜「じゃあ敵は待ち構えているってことか。」

澪「あ!」

4人は同時に驚いた。森の中に先ほどの死体のものと思われる首が置かれていた。しかもその首は六鎌の講師の岩崎であった。

澪「きゃあ!」

誠「なんてことをするんだ!」

誠が澪を叱った。だが

竜「ひでー。」

竜太にとっては恐怖の対象であった岩崎が無残な姿になっていることで、竜太の恐怖はより強いものであった。

誠「犯人はどこだ。」

謎「こっちさ」

謎の声が聞こえたかと思うと、木の陰から男が飛び出し、琴音の背中に切りかかった。

「危ない!」

澪が声をかけたが間に合わず。

ズバッ

琴音の背中から血が噴き出した。

坂本「琴音!!」

そう叫んだ横を誠が剣を抜きつつ男のほうに走り、琴音にとどめを刺そうとしている男に切りかかった。男は子供であると油断していたのか、誠の剣をかろうじて、鍔元で受け止めた。重い!男が思った瞬間、誠は受け止められた剣を引き戻したかと思うと、すかさず空いた胴を切りつけた。ブシュっと音を立てて男が倒れた。

謎「ガキのくせにやるな」

他にも何人かの男達が物陰か出てきた。

謎「なんだよ。ガキにやられてるんじゃあねーよ。てゆーか。散々待たされて、ガキか来ねーのかよ。影武者なんじゃねーか。」

謎「無駄口たたくな。とりあえずこいつらを始末するぞ。」

そう森の奥のほうから聞こえてきたと思うと木の陰から、六人の男が出てきた。敵は一人ではなかった。坂本は武士の剣を拝借し構えた。

澪は琴音の隣にいたため、多量の琴音の血を浴びて震えていた。琴音の背中からはとめどなく血が流れ気を失っているが、まだ息がある。

誠「逃げるぞ。澪は先に行って、助けを求めてくれ。竜太は琴音を運んでくれ。おれがしんがりを務める。

 誠が言った。澪は誠の指示を受けると我に返り、駆けだした。竜太は琴音を負ぶった。琴音は驚くほど軽かった。まるで、命が削られたように。

誠は竜太を守る様に敵の斬撃を受けながら後退した。しかし、

誠「先に橋のところまで行ってくれ。橋を落とす準備をしといて、俺が渡り終えたらすぐ橋を落としてくれ」

竜「分かった。先にいてる。」

 誠は後ろを振り返り、敵に対峙した。

誠「少しぐらい相手してやるよ。」

 そう言って、敵に切りかかった。敵は逃げていた誠がいきなり切りかかってきたので、攻撃する余裕もなく受けた。誠はそのすきを逃さなかった。面食らっている敵に立て続けに、面と胴を打ち込み、胴を受けた敵の右手に小手を打ち込み、手首を切り落とした。それを見た後ろの敵は用心して止まった。

謎「できるぞ。囲んで殺せ。」

敵のリーダーらしき男が言って、敵の4人は誠を囲もうと横に動いた。誠は囲まれまいと、牽制しつつ後ろに下がった。だが、これで十分時間が稼げた。そのうちに、竜太は橋のもとにまで到達した。橋を渡ったところで、琴音を下した。琴音は苦しそうに息をし、虚空を見つめている。竜太は美琴がまだ生きていることを確認してから、不思議な行動に出た。琴音を端から離れた草むらの中に移動させた。竜太自身にはなぜそのようなことをしたのかはわかっていた。琴音を置くと竜太は剣を抜き、橋のたもとに立った。そして橋を吊っている縄のうちの一本に刀を振り下ろした。サクッというともに、綱が斬れ、橋の片側が落ちた。橋は残ったもう一本の綱にだけ支えられて、ぶらついた。もうすでに渡ることは困難になった。だが、竜太は念のためにもう一本の綱のもとに行き、刀を振りあげた。だがその時、対岸にがさっと音がして誠が現れた。竜太刀を振り上げたままそちらを見た。そのとき、誠と目が合った。だが、竜太はそのまま刀を振り下ろした。橋が音を立てて崩れ落ちた。誠はそれをじっと見ていた。竜太も橋を落とし終わると、正面から誠を見た。誠の表情は不思議な表情であった。別に竜太を非難するわけでも、絶望感にかられるわけでもない。ただ、竜太を見ていた。無表情ではあったが、何かを悟った様子でもあった。そうして30秒ほど二人は見つめ合っていた。そのとき

澪「誠!!」

 竜太の後方で声がした。澪である。題員を連れて戻ってきたのである。だが身を発議の瞬間絶望的なものを目にする。落ちた橋と、対岸に残された誠である。澪は竜太を見た。

澪「あんたが落としたの?」

 竜太につかみかかり詰問した。竜太は応えることができなかった。

澪「なんで、こんなことしたの?馬鹿じゃないの。黙ってないでなんか言いなさいよ。」

 竜太はもうどうでもよくなっていた。好きな人に心底、軽蔑された絶望。だがその、竜太のかわりに誠が応えた。

誠「俺が頼んだ。」

 竜太は誠を見た。誠の顔には表情が戻っていた。

誠「巻き込んだ俺が悪かった。だから、後始末は俺だけでやる。」

そう言うと、誠は振り返り刀を持った。ちょうどその頃、敵が誠に追いついた。

謎「ふふ。哀れだな。」

リーダー格の男がうすら笑いを浮かべながら言った。

謎「今度こそ囲んで殺せ。」

 谷を背に、誠は敵になすままに囲まれた。誠は全く動じない。囲み終わると、誠の右手の男が、切りかかった。誠はそれを受け、返す刀でその男を鮮やかに胴を食らわせた。だが、そのすきに左側の男が、誠の背中に一太刀を浴びせた。誠の背中から血が飛び散る。それでも、誠は振り返りざまにその男の顔面を斬り上げた。その男は顔を真っ二つにされて斃れた。誠は斬り終わると、最後のリーダー格の男と対峙した。その男は、身長が190㎝はありそうな大男である。一方、誠の背中からはおびただしい量の血が流れており、体は右に傾いていた。立っているのがやっとという状態である。

謎「よくも。」

 そういって、男は誠に切りかかった。誠はその刀をかろうじて、受けたが手に力が入らない。誠の刀はそのまま弾き飛ばされた。無防備となった誠を男は袈裟切りにした。誠はそのまま後ろに倒れた。

澪「誠!」

 澪が叫び、目から涙があふれていた。だが、誠は反応しない。

謎「これで終わりだ。」

 男は倒れた誠の横に行き、首を落とすために刀を振り上げた。」

そのとき、グサッと音がして、男の左目に矢が刺さっていた。澪がいつの間にか弓を構え放っていた。男は、残った目でこちらを睨みつけたが、澪がもう一本の矢を放とうと構えているのを見て、誠の首を落とさずあわてて逃げた。澪が矢を放ったが、男はそれをよけ、そそくさと森の奥に入って行った。

題「上流にもう一本橋がある。」

応援で来た侍が言った。琴音を一人の侍に任せて、竜太と澪と2人の侍はその橋に向かった。澪の目からは涙がとめどなくあふれていた。


上流の橋を渡り、誠のもとに着いた。二つの死体に挟まれて、誠はまだ生きていた。痛みに耐え虚空を見ていた。

澪「だ、大丈夫?」

 どうみても、大丈夫ではないが。澪が傍らにしゃがみ込み聞いた。

誠「ああ、大丈夫だ。」

 誠は明らかな嘘で答えた。

澪「すぐ、お医者さんのところに連れて言ってあげるね。」

 澪はそう言って、侍二人に誠を運んでもらおうと頼もうとした。そのとき、すっと、誠の手が伸び澪の手をつかんだ。澪が誠の顔を見ると、誠は首を振った。

誠「運ばれると傷口が開いて痛いからこのままがいい。」

澪「でも。」

 澪が、そう言いかけたとき。誠は澪の後ろから、呆然と見ていた竜太に話しかけた。竜太は生きた心地がしなかった。自分の愚行を悔いていた。そんな、竜太に誠は優しく声をかけた。

誠「巻き込んで悪かった。迷惑ついでなんだが、この本を持ち主に返してくれないか?持ち主は放課後に名越文庫にいつもいる。」

 そう言って、誠は竜太に「日本史B」の教科書を渡した。

誠「澪と二人で話がしたいからちょっと外してくれないか?」

 渡し終わると誠はそう言った。竜太が近くで見ると誠の体には無数の切り傷があった。中には骨に達しているような深いものもあった。橋にたどり着くまでの戦いの中でついたものであろう。そのような、死闘を行った誠を置いておめおめと逃げたことについて竜太は強い自己嫌悪に陥った。そして、そのような時分の過ちにから逃げるように誠から離れた。そして離れた場所から二人を見ていた。竜太が今まで生きてきた中で、」これほど後悔したことはない。誠はもはや虫の息で、澪が顔を近づけないと聞こえないほどの声しか出せなかった。その近づいた頬を撫でながら、誠は澪と話した。竜太からは何を言っているのかは聞こえなかったが、竜太は何を話しているか気になって遠くから、ずっと見ていた。3分ほど話したのち、頬を撫でていた誠の手が落ちた。澪は誠の唇に接吻をした。その眼からは涙があふれ、嗚咽が止まらなかった。

 二人の侍は優しく澪を見守っていたが、まだリーダー格の男がどこかに潜んでいるので、」早めにその場を立ち去る必要があった。侍二人は優しく、誠の遺体を運んでふもとに降りた、澪も誠の遺体のあとを泣きながらついて行った。竜太もその後をついて行ったが、澪に声をかけられなかった。かけれるはずがなかった。誠は澪に何を話したのか。ひょっとしたら、竜太の悪事をばらしたのかもしれない。仮にばらしていないとしても、橋を落としたのは竜太であることには変わりなかった。澪に完全に軽蔑されたのは間違いなかった。自分が助かるために仲間を殺した。誠が最後にかばってくれたとしてもそれは何も変わらない。

 だがそれとは別に、竜太は自問していた。自分が橋を落としたのは純粋に助かりたかったためではない。むしろ、誠を積極的に排除したかった。誠さえいなければ。そんな思いから橋を落とした。だが、結果は最悪であった。はなから誠がいなくなったからといって、澪と恋人になれるわけがないのに。ほはや、自分の存在をこの世から消してしまいたい気持ちであった。澪が竜太に対して何も言わないことが、竜太にとってはなおつらかった。いっそののしられた方が楽だったかもしれない。

暗い森に澪のむせび泣く声が静かに広がっていく。

坂本は泣きじゃくる澪に近づき、そっと近づくがなんと声をかけていいのかわからない。

澪は何も答えず。ただ泣いている。しかし、まだ敵の仲間がどこかに隠れているかもしれないからここから移動したほうがいい。

題「彼はもう死んだ。ここにいては危ない、まだ敵が残っているかもしれないからここを早く離れたほうがいい」

坂本は黙って、誠の遺体を担い出歩き始めた。俺ではなく誠の遺体についてくるかのように、澪も続いた。

浄明寺に戻るまで、何も話さなかった。


浄明寺につくと、竜太は題員に腹を思いっきり殴られた。あまりの痛みと、誠を担いできた疲労からその場で倒れこんだ。

題「あれほど立ち入りを禁じたのに」

返すことばがない。禁じられたことをしたばかりか、誠も死なせている。俺と澪は、そのまま詰所に連れていかれた。

 しかし、題員は他の事件処理に追われそれ以上のおとがめはなかった。

 その後、二人は帰された。



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